優河 INTERVIEW 前編「抹茶、オレオクッキー、ラズベリー」

SWITCH INTERVIEW ―― 優河「抹茶、オレオクッキー、ラズベリー」 ~前編~
写真 浅田政志

お会いする数週間前、いつも優河さんのCDを聴きながら、作業をしたり、ご飯を食べたりしていました。その歌声を聴いていると、清流が流れているような気持ちになり、部屋の隅々まで歌で満たされると、優河さんが、そこにいるような気がしてきました。しかし、その声を辿っていくと、どんどん遠くにいってしまう。そんな奥行きのある歌声。森の奥、海の底、空の果てへ、迷いこんでしまったような気持ちにもなってくる。本人は、そこにいるのだけれど、近づけない。このような感じで、CDを聴きながら数週間経ち、実際の優河さんに会うことになりました。 わたしは緊張していました。歌声を聴いて、なかなか近づけないような気がしていたからなのです。

現れた優河さん、挨拶をすると、あの声で「こんにちは」。勝手に感動してしまいました。さらに声に集中すると、なんだか、アッチの世界に連れていかれそうになりました。でも優河さん、あの声で、実はとても気さく、いろいろと話してくれました。その話は、別に奇をてらっているのではなく、あくまで吉祥寺ローカル。優河さんの声で、「井の頭公園」「いせや(吉祥寺の焼鳥屋)」と発せられただけで、そこが、とても素敵な場所になるような気がしました。どちらも実際に良い場所なのだけれど、井の頭公園の池が透明になり、いせやの便所に清流が流れている感じがするのでした。
(戌井昭人・記)

「生まれたところは?」

「東京都の中野区です」

「育ったのも?」

「育ったのは吉祥寺です」

「すると遊びはもっぱら井の頭公園ですか」

「そうです。記憶がそこしかない。学校も吉祥寺だったんで、ほとんど吉祥寺から外に出ないで過ごしていました」

「井の頭公園以外で、他に行ってた場所は?」

「吉祥寺のゲーセンとか」

「ゲーセン?」

「吉祥寺の伊勢丹の前に小道があって、そこにあるゲーセンによく行ってました。あとは伊勢丹の屋上とかに」

「幼稚園の頃は? どんな遊びをしていましたか」

「両親が共働きだったので、家にシッターさんがいて、妹とシッターさんとわたしで、飛行機ごっこというのをやってました」

「飛行機ごっこ?」

「幼稚園とかにある、木の椅子あるじゃないですか、あれを一番前に置いて、二番目に背もたれのある椅子を置いて、三番目にソファーを置いて、エコノミークラスからファーストクラスになっているんです」

「椅子の良し悪しで、クラスが違う」

「それで、ファーストクラスだったら、そこに座るのに似合った名前を自分でつけて」

「ファーストクラスは、どんな名前?」

「たしか、みどりって名前だった。それで、お菓子を持ってきてもらったりして」

「みどりは、ファーストクラスだから態度も大きい」

「そうです」

「客室乗務員は?」

「それはエコノミーの人がやってました」

「エコノミーの人は大忙しですね」

「はい。そういう遊びをしてました。それが一番印象的な遊びだったかも」

「小学校の頃の印象的な出来事とかありますか」

「一度、女の子と取っ組み合いをして、鎖骨にヒビが入ったことがあります。四年生だったと思います」

「どうして取っ組み合いに?」

「その女の子がK-1が好きで。『優河やろうぜ』って感じになって、やられたんです」

「蹴りをくらったんですか」

「いえ。『ガンッ』て、押されて鎖骨がビリビリと。でも折れてはなかった」

プロレスごっこの延長みたいなものですけれど、男勝りというか、男子の遊びのような気もします。

「活発で体を動かすのは好きだったんですね」

「授業中とかは、あまり手をあげたりはしなくて、おとなしかったけど。男の子を追いかけまわしたりはしてました」

「どんな感じで追いかけてたんでしょうか」

「オラ~って」

「オラ~って本格的じゃないですか」

「お母さんがPTAで打ち合わせをしているとき、『オラ~、オラオラ待ちやがれ』って声が聞こえてきて、ふと見たら、わたしが男の子を廊下で追いかけていたんですって」

「凄まじいですね」

「だから母には、『あのときは本当に恥ずかしかった』と、いまだに言われます」

「習い事とかは?」

「ピアノです。でもいまは弾けません」

「他には?」

「英語のクラスに通ってました」

「家の近くですか?」

「吉祥寺。だから小学生くらいのときは、電車に乗った記憶がほとんどないんです」

「ぜんぶ吉祥寺ですね。でも、なんでもありますもんね吉祥寺は」

「そう、そこから出なくて良い。そこで全部完結できるんです」

「自転車で遠出とかもしてない?」

「してないですね」

SWITCH INTERVIEW ―― 優河「抹茶、オレオクッキー、ラズベリー」
写真 浅田政志

自分が吉祥寺で思い浮かべるのは、いせや(焼鳥屋)なので、その話を優河さんにすると。

「そうだ。公園のいせやの下の、ドナテロウズっていう喫茶店でアイスを売ってて」

ちなみにいせやは、井の頭公園の入り口のところと、バス通りのところ二軒があります。

「あそこでアイスをたべるのが好きでした。三種類選んで、最後に混ぜたら一番美味しいのは何だろうと、兄妹三人で研究してました」

「研究結果は」

「抹茶、オレオクッキー、ラズベリーかな」

「それを最後に混ぜるんですよね」

「そうです」

「全部、主張がありそうな味ですが」

「でも美味しかった」

「あのお店はもう無くなってしまいましたよね」

「はい。一番良い喫茶店だったのに」

「他に吉祥寺で食事するところは?」

「近所の焼肉屋さんとかイタリアン。そこには、誕生日のときなんかに行ってました」

「そんなこんなで、吉祥寺をうろつきながら、お育ちになって」

「でも小学校のときに、うろつくのは公園くらいでしたよ」

「そうか、じゃあ中学に入って、少し範囲を広げて吉祥寺をうろつく」

「そうですね」

「中学のとき、部活とかは?」

「器械体操です」

「どうして器械体操だったんですか?」

「小学生の終わりくらいから、器械体操の面白さに目覚めて。それで、中学もやったんだけど、すぐにやめてしまいました」

「オリンピックに影響されたとか?」

「いえ。スポーツ全般は苦手で、苦手意識もすごかった。でもマット運動だけできたんです。バク転とか。それが嬉しくて」

「バク転ってすごいですよね」

「最初は側転、そこから、足をつけて下りるというのがあって、次にハンドスプリングになって、そういうのを徐々にやってたら、バク転になったんです」

「それは学校の授業?」

「そうなんです。バク転はギリギリ、補助ありでできたんですけど」

「いまバク転は?」

「できません」

「体が柔らかいんですね」

「でも、いまは硬い。当時はブームみたいな感じで、友達同士で頑張る感じでやってたんです。わたしは中の下でしたけど」

「部活をやめてからは?」

「それからは、ずっと遊んでました」

「どんな遊び?」

「ゲーセン、デパートの屋上とか、あとはカラオケです」

「ゲーセンではなにをしてたんですか?」

「プリクラです。あと先輩と一緒にお茶をしたりしてました」

「どこでお茶を?」

「ココスとか、マクドナルド」

「そこで駄弁ってるんですか」

「そうです」

このように、まだ音楽に行き着く感じはないのですが、優河さんは、中学のときに友達とバンドを組んだそうです。

「当時はガールズバンドが流行ってて、友達とやろうとなって」

「どんな音楽?」

「アヴリル・ラヴィーンとかグリーン・デイとか」

「楽器は、なにを担当してたんですか?」

「ベースです。そのとき初めてベースをやりました」

「どうしてベース担当に?」

「男の先輩がバンドをやってて、それぞれ好きな先輩と同じ楽器にしようということで、わたしはベースになりました。でもチューニングの仕方もわからない感じだった」

「発表とかライブは?」

「学校のバザーでやったんですけど。持ち曲が少なくて、『優河、一曲歌いなよ』となって、そのとき初めて人前で歌ったんです。それを母が見てたんです。体育館でやってたんですけど、最初はまわりがガチャガチャ騒がしかったけど、母が言うには、わたしが歌いだしたら、その場がシーンとなったらしくて」

「凄い」

「それで母が何かを感じたらしく、高校に入ったら、ボイストレーニングをはじめてみたらと言われたんです」

「そのときなにを歌ったの?」

「AIさんの『Story』って曲です」

「アカペラで?」

「ピアノの伴奏で」

「ピアノは誰が弾いてくれたの」

「鎖骨にヒビ入れてくれた友達が」

「鎖骨の子は、ずっと仲良しだったんですね」

「そうなんです」

「鎖骨の子、お名前は?」

「山本さんです。音楽もそうですし、彼女には、いろいろ教えてもらいました」

「K-1も」

「彼女は、お兄ちゃんがいて、そのお兄ちゃんから影響受けていたんですね」

後編へ続く


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