【先行公開】『急に具合が悪くなる』岡本多緒インタビュー

SWITCH Vol.44 No.8 特集「日本映画について私たちが知りたい、いくつかの事柄」より、現在公開中の映画『急に具合が悪くなる』で主演を務めた俳優・岡本多緒のインタビュー、その前半部分を先行公開!

PHOTOGRAPHY: YAMAMOTO AYAKA
STYLING: FUNAKOSHI AYA
HAIR & MAKE-UP: MICHIRU
TEXT: SATO CHIHO

 モデルとして世界的に活躍したのち、映画『ウルヴァリン:SAMURAI』をはじめ海外製作の映画やドラマにも多数出演し、国際的な俳優としてキャリアを積んできた岡本多緒。濱口竜介が監督と共同脚本を務めた映画『急に具合が悪くなる』において、ベルギー人俳優のヴィルジニー・エフィラとともに主演を務め、第79回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門で、ヴィルジニーと2人揃って女優賞を受賞した。

「授賞式の途中で濱口監督が『多緒さん、スピーチの準備しているんですか?』と言うんです。『え、準備したほうがいいですか?』と返しながら、その時もまだ予期すらしていなくて。いざ、私たちの名前が呼ばれてステージに上がった時には頭が真っ白で、たどたどしいスピーチになってしまいました」

 笑いながらそう振り返るが、その受賞スピーチは世界の映画人たちの胸を打つものに。とりわけ、監督、共演者、スタッフなど、共に映画を作り上げた仲間たちへの感謝を伝える言葉は印象的だった。

 映画『急に具合が悪くなる』の原作は、がんを抱えながら生き抜いた哲学者の宮野真生子と、臨床現場の調査を重ねた人類学者の磯野真穂による往復書簡をまとめた書籍。濱口監督は映画化にあたり、主人公を理想の介護を探求するマリー゠ルーと、演劇の演出家でステージIVのがん患者の真理に置き換え、偶然出会った2人が深く結びつくさまを描いた。その物語の特異性を、マリー役のヴィルジニーは「私たちのように出会う2人の女性を描いた映画は、ほとんどないのです」と表現した。多緒は言う。

「奇しくも今年のカンヌ国際映画祭の公式ポスターには、『テルマ&ルイーズ』が採用されました。あの作品もまた、女性2人の友情を描いた映画です。キャスティングされる側としてひしひしと感じていますが、そういったテーマの作品は本当に少ないんです。女性2人が出会い、友情という言葉では言い表し切れないほど深く結びついていく様子を、その魂のかけ合いを濱口監督はこの映画にしっかり落とし込んだ。また、原作の2人は哲学者と文化人類学者であるという、そのアカデミックな背景も作中の2人の会話に滲み出ている。濱口監督の原作に対する敬意、女性に対する敬意がないと、こうは描けなかったはずだと思っていて。いろんな意味でウーマン・エンパワリングだと思いますし、そんな作品に携われて幸せです」

 濱口監督が最新作のことで自分に会いたいと言っている。濱口監督作品に感銘を受けてきた多緒は、そう聞いて「ぜひ」と飛びついた。顔合わせはオーディションも兼ねていたが、監督の前で演技をして審査を受けるという類いのものではなかった。

「お会いする前に当時の最新版の脚本を読ませていただいたのですが、これほどまでキャラクターにシンクロできたのは初めてというぐらい、真理に共感しました。私自身が普段考えていることや、身の回りで起こっていることが、濱口監督の洗練された言葉で並べられている。そんな印象を受け、読み進めながら自分が真理の台詞を話しているところをリアルに想像できたんです。基本的にオーディションを受ける時には、自分とキャラクターの共通点を頑張って探した上で、どう演技に落とし込もうかと考えるものです。でも、真理にはそんな作業は必要なかった。というのも……すごく自分だったので。だから、素のままで濱口監督にお会いしました。そして、真理とはすごく共通点があると思っていると、熱を込めてお話ししました」

 その後、真理役に正式決定し、怒濤の脚本の読み合わせ(以下:本読み)が始まった。最初は週に1、2度。次第に頻度が上がり、撮影が始まると、翌日撮る分を前日に読み合わせ、当日撮る前にもまた読み合わせる、といった具合に。濱口監督作の本読みではキャストは感情や抑揚を排し、台詞を棒読みすることが求められる。ただし、本番では自然と感情や抑揚が生まれてもいい。その演出法は本作でも貫かれた。

「本読みでは役のことは何も考えないようにしていました。というのも、考えるとそれが台詞を発する音に乗ってしまうので。濱口監督はそれをすぐに察知し、『感情を抜いてください』と言うんです。だから、役への理解を深める作業は本読みとはまた別で行いました。一番の力になったのは、原作です。濱口監督に勧められて何度も読み返し、真理という役への理解を深めました」

*続きは本誌にてお楽しみください——

岡本多緒 モデルとしてキャリアをスタートさせ、『ウルヴァリン:SAMURAI』で俳優業に進出。国内外の作品に出演するほか、映画監督としても活動。最新作『マイ・スウィート・パーラ』が国内外の映画祭で上映中

『急に具合が悪くなる』
監督:濱口竜介 脚本:濱口竜介、ルディムナ玲亜 出演:ヴィルジニー・エフィラ、岡本多緒、長塚京三、黒崎煌代 ほか ★現在公開中

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SWITCH Vol.44 No.8
特集:日本映画について私たちが知りたい、いくつかの事柄


1,100円(税込)