自然に挑むのではなく、自然と共に生き、自然に対して真摯であること。表現者は自然の声に耳を傾け、生きる知恵を学ぶ。自然の中で躍動するアスリートたちを記録する山岳カメラマン・石川貴大を形成してきたもの。

Photograph by Hisatomi Yasushi
自らの力で自分の世界観を広げていけるタイプと、人との関わりによって自分の世界観が広がっていくタイプがいるとしたら、僕は後者の側の人間だと思います。山岳カメラマン、登山ガイド、歩荷、リバーガイドと今はマルチに働いていて、何屋なのか自分でも困惑することがありますが、山に魅せられた26歳の頃からずっと山が繋いでくれた縁に導かれてきました。
自分の足でたどり着いた先に広がる光景が楽しみで、初めのうちは週末に低山ハイクをする程度だったのですが、地元の山岳会に出入りするようになると、自分の知らない山の世界が次々と広がってきて、いつしか海外の山に登ってみたいと思うようになりました。
2018年には、退職してヨーロッパ大陸最高峰のエルブルースに登りに行き、その年の秋にはヨセミテで開催された各国のクライマーとの交流イベントに日本代表として参加させていただくなど、貴重な経験をすることができました。そしてこの時、自分は目標とする山があるわけでも、何か成し遂げたいことがあるわけでもなく、ただ山で新しい経験をするのが好きなんだと気づいたんです。それからは登山ガイドの資格を取得して、アルパインクライミングから雪山まで自分の登山の幅を広げると、山中心の生活をおくるようになりました。

山での撮影に関わるようになったのは2021年の冬のことで、一緒にクライミングに行く仲だった写真家の方から撮影の歩荷を頼まれたのが最初でした。ここでの歩荷とは、ドローンやバッテリーといった撮影機材を運ぶ仕事で、この時の撮影は立山連峰にある日本最大の氷瀑「ハンノキ滝」の単独初登攀に挑むというものでした。次に歩荷に呼んでいただいたのが、NHKの『グレートトラバース』という番組の撮影隊でした。40キロ超の荷物を背負って、残雪期の日高山脈を一週間歩き続けるという、これまで味わったことのない過酷なもので、アスリートの凄さを身をもって思い知らされた。でも、新たな経験ができる歩荷の仕事はやりがいもあり、期待に応えようと体力作りに励んだ甲斐もあって、依頼は増えていきました。
動画の撮影を任せていただけるようになったのは、山岳レース系の歩荷をするようになってからです。「手が空いている時にちょっと撮っておいて」という程度のものでしたが、歩荷中にカメラマンの仕事を隣で見てきたので、すぐに要領は掴めました。普段のクライミングでも友人を被写体に撮影練習をして徐々に自分の引き出しを増やしていき、動画だけでなく写真も撮れるようになったことで、今ではアドベンチャーレースのプロチーム「イーストウインド」が挑む海外レースの撮影も担当しています。レースを見守る方たちにリアルタイムで状況を共有できるのが僕の強みかもしれません。
僕が追いかけているアスリートたちは、雄大な自然の中で人間の可能性を追求する身体の表現者です。僕自身はアスリートでもなければ、写真家というわけでもありませんが、挑戦するアスリートたちの生き様を伝える表現者でありたいと今は思っています。

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本稿を収録した「Coyote No.89 特集 星野道夫 夢見る旅」はこちら。























