2005年に誕生したボルドーワイン、「クラレンドル」。「クラレンドル・ルージュ・ペサック・レオニャン」と共に、甫木元空が語る
HAIR & MAKE UP: TAKADA HIKARU
TEXT: IMAI EIICHI
INTERVIEW 甫木元空
生活とワインが繋がっている
甫木元空は、クラレンドル・ルージュ・ペサック・レオニャンの香りを感じてから、口に含み、「美味しいですね」と言った。
甫木元を、Bialystocksのフロントマンとして知っている人は多いだろう。だがそれよりもっと前に、映画監督として甫木元はデビューしている。父の故郷である埼玉県を舞台にした『はるねこ』。母の故郷、高知県で撮った『はだかのゆめ』。そして、故青山真治の遺稿となる脚本をベースにした『BAUS 映画から船出した映画館』。他にも、自らの写真や音を使ったインスタレーション作品を展示するなど、映像作家としての活動があり、本も書いている。小説家であり、映画監督、映像作家、ミュージシャン。多才な顔を持つ人だ。
甫木元は「見る、聞く、考える、そして創る人」だ。「ある場所に居続けることで見えてくるものを捉える」映画。「定点観測のようにじっと見続ける目と耳を持つ」アート作品や本。それは、文化人類学や民俗学を思わせるアプローチだ。
「観測する、観察するというのは、自分の中でベースになっていると思います。頭の中から出てくるものは限られているし、似通ってくる。映画でも音楽でも、大勢のスタッフがいて、かき混ぜてもらって、いろんな影響を受けて、結果自分が思いもよらなかったところに転がっていくのが楽しい。高知でインスタレーションをやった時も、地元の人たちに聞き取りをするうちに、自分がイメージしていたものと少しずつずれていきました。何気ない距離感で交わした言葉が、思いもよらない力を持つ瞬間があります。人と会って話を聞いていると、自分の凝り固まった先入観や考えがほぐれていく。歴史の書物に描かれないB面の部分に、面白いものはたくさんあるんですよね」
その原点となるような体験が、中学生の時にあった。舞台演出家であった父親の、中国公演にスタッフとして帯同したのだ。現場で起きていた様々な出来事を生で体感したことは、大きかった。
「中国では、こちらが“なぜ?”と思うことがいくつもありました。色々な困難が次々起こった。でも現場はそれらを一つずつ解決しなくちゃならない。混乱と熱気、議論の果てに生まれる新たな形。こうやってもの作りは行われているんだと思いましたね」
舞台演出家の父親と、ピアノ講師、合唱団もやっていた母親。もの作りというものが、幼い頃から身近にあったという。
「父も母も、僕にこうなってほしいということはなく、ただ、表現するということについて、色々体験させてくれたと思います。本、美術、映画、音楽に触れるということを、小さい頃からしていました。ただ、家で両親が言ったり教えてくれることと、学校でやることはまったく違ったので、外では普通であろうとしていたところもありました。おかげで、周りをよく観察するようになったと思います。僕自身はなんでも自分のやり方でやるのが好きでした。でも学校にはきちんとテーマやルールがあって、そうもいかない。父親はお前の好きにやれっていう感じだったけど、僕は逆に目立たないようにしていましたね。父と母が表現者だったから、たぶん自分の中でちょっと反発もあったのかなと思います。中国公演の旅があって、そこで自分の反抗期は終わったと思います」
多摩美術大学に進学し、青山真治と出会い、大きな影響を受ける。映画作りを学び、自ら撮るようになり、その中で必要に応じて音楽もやるようになる(最初の音楽は劇伴のためだった)。Bialystocksの活動は、映画とは切り離されているようにも見えるが、「根底にあるものは同じところから出ている」と語る。
ワインの話を振ると、「打ち上げなどで飲むことが多く、詳しくはないですが、忘れがたい思い出があります」と言って、ヨーロッパの映画祭での出来事を語った。
「イタリアのアーゾロという古い街で、映画祭をやっていました。メインの会場は城の中ですが、夜に広場の壁に映画を投影したり。サイクリングで有名な街でもあって、人々が自転車で広場や城に集まってきて映画の上映が始まるんです。古い街だから、建築物も面白いし、石畳の路地には雰囲気がありました。カルロ・スカルパの建築もあります。街の、地元のおばあちゃんが料理人のレストランでデキャンタされて出された赤ワインがとても美味しかった。その時に初めて、ワインというものが、気候や風土、暮らしに根ざしていることを知りました。空間や場所、気候、誰と一緒か、そういうシチュエーションでワインの香りや味がガラリと変わるというか。とても味わい深かった。赤ワインを飲みながら、みんなで歩いて映画祭の会場に行ったり、街ですべてが緩やかに繋がっているのもよかった。いい意味で特別じゃない感じというか。全部その街の生活の中にあるという感じ。とても心地良い時間でした」
まさにアール・ド・ヴィーブル(フランス語で生活の美学)。クラレンドル・ルージュ・ペサック・レオニャンはデキャンタして空気に触れさせると、一層風味が増すワインだ。そんな話をしながら甫木元は、またひと口そのワインを飲んだ。

INTERVIEW ナタリー・バソ・ドウォーキン
人と人とを繋ぐワイン
フランスの歴史ある「クラレンス・ディロン・ワインズ」。ナタリー・バソ・ドウォーキンは、そのオペレーション・ディレクターであり、クラレンドルのすべてのラインナップを担当している。ワイン醸造学と品種学を学び修士号を取得、さらに国家資格も得ているナタリーは、オフィスとワイナリー、畑をそれぞれ巡りながら忙しく仕事をしている人だ。とはいえ、フランス人にとって夏はバカンスのシーズン。ナタリーはどんな夏を過ごしていたのだろう。
「私にとって夏とは海です。いつもはコルシカ島の海辺で過ごすのですが、今年はスペインの海沿いで夏のバカンスを楽しみました」
暮らしがワインと共にあるフランス人だが、日常で味わうワインと、バカンスで楽しむワインと、違いはあるのだろうか。
「バカンスのときはいつもよりずっとリラックスしています。翌日の仕事を気にする必要もありません。バカンスでは自分のそのときの気分に合わせて自由に夕食をとります。スペインは夕食の始まりが遅いことで知られています。今回、スペインの海辺の食文化について、いろんな発見がありました。ワインは、夏は暑いので、フランス人も冷えたフレッシュなワインを好みます。バカンス中は、よく冷えた白ワイン、ロゼワインをより多く楽しんでいましたね」
この夏は、気候変動の影響で、ヨーロッパ中を熱波が襲い、猛暑となっていた。ワインの聖地でもあるボルドーの夏はどうだったのだろう。
「地球温暖化の影響を強く感じています。7月、8月、ボルドーでも摂氏40度を超える日がありました。ここ数年は熱波の到来がより早まっていて、五月頃にはカニキュール(猛暑)が始まるようになりました。一方、カニキュールは私にとって、“ワインを思うきっかけ”になっていると思います。より深くワイン造りについて考えるようになったというか。ワイン造りは考えることから始まります。どの土にどのブドウを育てていくか。水はけによってブドウの木の切り方を変更したり、気温によって木と木の距離を変えていく。気候変動はグローバル・イシューですが、私には、ブドウをよく見て、自然の音に耳をすまし、より深く考える良いきっかけになっています」

あらためてフランス人にとってワインとは、どんな存在なのだろうか。
「文化、歴史であり、フランスにとっての宝です。今はフランス中にワイナリーがあり、それぞれのブドウと文化、背景があります。ワインも多様性の時代になっていると言えます。ワインは、フランスのアール・ド・ヴィーブルとガストロノミーを語る上で欠かすことのできない要素です」
多様性の時代にあって、ボルドーのワインとはどんな存在なのだろうか。
「国を代表する特別な存在です。ボルドーのセパージュ(ブドウ品種)を他の土地で育てたとしても、ボルドーのようなワインは生まれません。ボルドーのテロワール(大地)の特徴はとても強いのです。ボルドーワインは唯一無二です」
ワインについて語るとき必ず出てくる言葉、アール・ド・ヴィーブルとは、フランス人にとってどんなものだろうか。
「生活の美、暮らしの美学というような意味ですが、私は、“何かを一緒に発見していく行為”だと考えています。食文化に限らず、シェアして、互いに学び高め合うこと。ワインについて言えば、家族や友人たちと一緒にワインを飲みながら、いろんなことを分かち合い、温かい気持ちになる。それが私の考えるアール・ド・ヴィーブルです」
ナタリーに、「クラレンドル・ルージュ・ペサック・レオニャン」について訊いてみた。
「クラレンドル・シリーズの最上級のキュヴェ(ワイン)です。通常のクラレンドル・ルージュはボルドー全域からブドウを選別しますが、クラレンドル・ルージュ・ペサック・レオニャンは、シャトー・オー・ブリオンとシャトー・ラ・ミッション・オー・ブリオンという、二つの偉大なシャトーの区画で栽培されたブドウのみを使っています。私たちの会社所有の畑のブドウのみ使用して造られていて、今回がわずか3回目のリリースです。非常に希少な銘柄です。そもそも、最初のクラレンドル・ルージュ(2002年)が、同じブドウを使っています。ですから、ペサック・レオニャンは、クラレンドルの始まりのワインとも言えると思います。ペサック・レオニャンは、最初に樽で少し熟成させてから、ボトル内でさらに熟成させます。ボトリングしてから寝かすのはボルドーの特徴のひとつですが、ペサック・レオニャンも市場に出す前にしっかり寝かせています。手に取ってからさらに長く寝かせてもいいワインです」
ナタリーが、この仕事をしていて最も喜びにあふれるのが、ブドウの収穫期だという。
「収穫は喜びであり、ひとつのサイクルの結論です。ブドウの木のサイクル、その季節の巡りの中に、いろんな職人、農家の人たちがいます。ワイン造りでは、そういった人たちの“繋がり”が大切です。人々が繋がって良いワインは造られている。素晴らしいブドウがなければ素晴らしいワインは生まれません。そのブドウを作るにはたくさんの人たちが関わっていて、その繋がりを大切にしています。今、世界のいろんな現場でAIが使われていますが、ワイン造りはAIにはできません。畑を歩き、ブドウの皮の厚みを指で確かめること、口に含み種の堅さを調べること、それは人間にしかできない行為です。ワイン造りは人です。そして、人と人との繋がりが大切なんです」
ナタリー・バソ・ドウォーキン クラレンス・ディロン・ワインズのオペレーション・ディレクター。ワインに魅せられ、香水業界から転身したというユニークなキャリアの持ち主
*全国のワインショップ・エノテカ、またはエノテカ・オンラインなどで購入可能。


























