FROM EDITORS「その先は……」

12月24日の深夜、毎年スイッチがプロデュースをしているJ-WAVEのラジオ番組がある。『沢木耕太郎 ~MIDNIGHT EXPRESS 天涯へ~』は今年で19年目を迎える。

毎年リスナーから便りが届く。当初は手紙とファックスが多かったが、今はメールが主流だ。高校生だった一人の男の子が今では社会人となって自分の道を突き進んでいる。大学生だった女性は子どもとともにクリスマスの夜にラジオの前にいる。3時間という長さもあるが、生番組ということもあって、天候や曜日によってもリスナーの様子もこころなしか変わっているように思う。しかし共通しているのは自分の旅を語りたいということだ。旅は自分で作る、自分のオリジナルの地図を沢木さんに聞いてほしいと願っている。

ある年、沢木さんが番組最後にこう言葉を結んだ。

「聖夜なり、雪なくばせめて星ひかれ」

その年に亡くなられた沢木さんの御父の句、心に沁みた沢木さんの切ない思いだった。人生の光彩を放った人の軌跡をほんの少し語る。沢木さんの温かさが冬の夜に沁みてくる。

星と星を繋ぐように沢木さんは物語を編む。いつもその先がどうなるのか、彼の描く世界が魅力なのは、励ましにみちて未来へ繋ぐ希望の歌があるのだと思う。

沢木さんは今朝日新聞朝刊に小説を連載している。タイトルは「春に散る」。新聞は今や年齢の高い層が主な読者だ。毎日のように読後の感想の手紙が新聞社に届く。

はじめて沢木耕太郎という人を知ったという人もいれば、昔からのファンだという人もいる。なかに一人、95歳の女性は毎日郵便ポストに新聞を取りに行くのが楽しみだという。あなたがどんなものを書いているのか知らないけれど、この小説がとてもいいと率直な感想が綴られていた。そしていつまでこの小説が続くのかわからないけれど、どうか主人公を殺さないでほしいと末尾に書かれていた。

「朝のNHKの連続テレビ小説と同じような楽しみ方なんでしょうね、主人公と一緒に生きているのは彼女だけでなく、僕も同じなんです」

主人公は果たして死ぬのか、読者はその先が知りたくて小説を読む。

スイッチ編集長 新井敏記