【柴田元幸からの回答公開】WEB版 MONKEY vol.21刊行記念イベント Q&A篇

6月15日発売『MONKEY vol.21 猿もうたえば』の刊行を記念して開催した、MONKEY編集長・柴田元幸による音声とテキストによるWEBトークイベント第2弾。その開催を記念して募集した「柴田元幸への質問」の回答をご紹介します! お寄せ頂いた質問と共にお楽しみください。

*頂いた質問は掲載の都合上、一部編集を加えております。あらかじめご了承ください。

質問1

Q. 今号も楽しく読ませていただきました……と言いたいところですが沖縄に届くまでには時間がかかるので、このラジオと目次から楽しませていただいています。中でもブコウスキーのbob dylanがどの様に訳されるか楽しみです。今後、ブコウスキーやファンテなどが特集される予定はありますか?
(たかあき/沖縄県/20代/男性)

柴田
 ブコウスキーはMONKEY11号「ともだちがいない!」でミニ特集をしたので当面は予定なしです。ファンテはごめんなさい、不勉強でほとんど読んでないのです……。
 
【ご意見・ご感想】
Monkeyで働きたいです!

「スイッチ沖縄支社」とか出来たらいいんですけどねー

質問2

Q. 柴田先生が翻訳や読書のための本をお選びになるとき、どのように本の情報を入手されるのでしょうか?
(松井ゆかり/東京都/50代/女性)

1)自分が訳している作家に勧めてもらって
2)ウェブ上をふらふらさまよって
3)書評を見て
あたりが中心です。1)は元々趣味が合うわけだから数は少なくてもヒット率は高いです。昔はもっぱら 3)でしたがいまは 2)が多いかなあ。
 
【ご意見・ご感想】
5/23のZoomサイン会ではお世話になりました(大学生の息子の名前で、『わがタイプライターの物語』にサインをいただいた者です)。息子もたいへん喜びまして、添えていただいたメモも大切にしております。柴田先生、ほんとうにありがとうございました。

 You are welcome—

質問3

Q. 「猿もうたえば」のプレイリスト、楽しく拝聴しました。最近、柴田さんが鼻歌や口ずさんでしまう歌、脳内に再生される歌などはありますか?
(吉田真紀/群馬県/40代/女性)

 鼻歌はたぶん、Van Morrison & the Chieftains のバージョンで覚えたアイルランドのバラッド“Star of the County Down”です。脳内の方は厄介です。マーク・トウェインに“A Literary Nightmare” という短篇があって、邦訳はたぶんナシ—— さすがに阿呆らしすぎて誰も訳さないのか?)、新聞で読んだしょうもない戯れ歌が頭にこびりついて社会的に破滅しそうになる話です(人に「うつす」と治る)が、ああいう感じですね。勝手に何度も再生されるのは「涙の連絡船」とか「月の法善寺横丁」とか。


質問4

Q. 歌手のボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞できたということは、将来的にはケンドリック・ラマーが受賞する可能性もあるわけですが。柴田さんが思う、ノーベル文学賞を取るかもしれないほど歌詞が魅力的なミュージシャンを教えてください。
(高橋ひろき/熊本県/10代/男性)

 ロックではやっぱりディランが別格だと思いますが、ヒップホップについては何も知らないので……すみません。

質問5

Q. MONKEY「猿もうたえば」、1ページ1ページ嚙み締めるように読みました。なかでもブレイディみかこさんの「Everyday is like Sunday, isn’t it?」がお気に入りです。秋田犬バディーのマンチェスター訛りを九州ことばで表現しているのが、バディーのどっしりとした性格と相まって、とても自然に感じられました。
 柴田さんに質問なのですが、英語の原作で登場人物が方言や訛りのある喋りをしていて、それを翻訳で表現する際、工夫していらっしゃることはありますか。
(陽子/埼玉県/30代/女性)

 方言を方言として再現することは無理があるので、方言を通して何が伝わってくるのか(温かさ、ユーモア、叙情等々)を考えて、それがなるべく伝わるような日本語をめざします。言うは易く行うは難しですけど。

質問6

Q. はじめまして。自分は今年の4月に大学に入学しました。でもまだ一度もキャンパスに通っていません。前期の授業が全てオンラインで行われることに決まって、落ち込んでいます。最近は、後期もオンライン授業になるんじゃないかとの噂も立っています。
 高い学費や施設費を親に出してもらって、わざわざ低クオリティー付け焼き刃オンライン授業を受けるくらいなら、通信制の授業のプロである放送大学に入学していたほうが良かったよなーとか、後悔してしまいます。
 ごちゃごちゃした文章ですみません。柴田先生から何か励ましの言葉をもらえたら嬉しいです。
(小松/東京都/10代/男性)

 そうですよねー……実は僕も10月からひとコマ某大学で授業をやることになっていて、オンライン授業やらなくちゃいけないのかと怯えています……なんて全然慰めにならないですよねー……。でも、通学の時間とか無駄にとられずに済むわけだから、そのぶん家でみっちり本が読めるのはプラスじゃないでしょうか。本は絶対に若いうちに読んだ方がいいです。沈み込み方が、刺さり方が、違います。

質問7

Q.柴田さんが好きな映画、影響を受けた映画がありましたら教えていただきたいです。
(おから丼/神奈川県/20代/男性)

 ヒッチコックと小津安二郎の映画はほとんど全部好きです。成瀬巳喜男も観たかぎりではみんな好きです。あともちろん(てことはないか)キートン。『セヴン・チャンス』で石から逃げるシーンでのキートンは僕にとっての「英雄」の定義です。
 
【ご意見・ご感想】
MONKEYのトークイベントに参加したいです。コロナが早く終息することを願っています。

 同感。オンラインイベントも案外楽しいけど、やっぱりほんとのトークイベント早くやりたいです

質問8

Q. こんにちは。グリール・マーカスの「消える、忘れる—— “最後のやさしいことばブルース”ジーシー・ワイリー」が、よかったです。わたし、ペンを持って、ガーッて、手書きするのが、けっこう、好きなのです。スイッチ・パブリッシングに、昔ながらの、お手紙、おはがきで、感想とか、送っても、ご迷惑ではありませんか?
(吉澤みさき/群馬県/40代/女性)

 「消える、忘れる」楽しんでいただけてよかったです。けっこう思い入れがあるので。感想、送っていただけると嬉しいです。ガーッて、手書きでお返事できるかは確約できませんが……。

質問9

Q. 柴田さんが翻訳されているポール・オースターの小説が気に入っていて楽しく読んでいます。『MONKEY Vol. 1 青春のポール・オースター』は再販予定はありませんか?ぜひ読みたいです。
(ねこだまり/—— /30代/女性)

 あいにく予定はありません。すみません。「日本の古本屋」などで探してみてください。

【ご意見・ご感想】
今号の『MONKEY』オンライン購入特典の手書き原稿嬉しかったです!ありがとうございました。

 スタッフが毎回知恵を絞って楽しい特典を考えてくれています。これからもお楽しみに——

質問10

Q. エミリー・ディキンソンがアメリカの「つぶやく詩」の最良の実践者というのはなるほどと思いました。自分がディキンソンの名前で思い出すのは、ビリー・コリンズの『エミリー・ディキンソンの着衣を剝ぐ』といういかがわしい詩なのですが……それはそれとして、アメリカの「つぶやく詩」の最良の実践者、21世紀は誰だと思いますか?
(光太郎/神奈川県/30代/男性)

 ごめんなさい、現代詩はほんとに何も知らないんです……すいません。

質問11

Q. MONKEYのアートワーク、毎号すばらしいです。私はイラストレーターを目指しているので、依頼されるアーティストをどうやって選んでいるのか気になります。ちなみに私が尊敬しているのはニューヨーカーでお馴染みのロズ・チャスト。彼女の描くカートゥーン、柴田先生はお好きですか?
(オハナ/東京都/20代/女性)

 アートディレクターの宮古美智代さんが、各作品に対して複数のアーティスト候補を紹介してくれて、みんなで意見を出しあって決めます。なんといっても宮古さんの抜群のセンスの選択、アイデアが肝です。
 ロズ・チャストは残念ながら乗れないです。これは彼女の作品だけじゃなくて、アメリカという国が世間的・文化的に、パッとしない人間が自分を蔑まないといけないようにできていて、アーティストもその空気のなかで仕事せざるをえないのが嫌なんだと思う。


質問12

Q. こんにちわ^_^ 詩を訳すのとても難しく感じます。句読点の付け方、文章書く時難しいと感じるのですが、この詩の翻訳は原文に忠実だったんですね!^_^
 今回のディキンソンの詩でいうと「。」(原文確認したら「. ピリオド」ある場所そのままなんですね)。
 さて質問です。詩を訳す(読んで理解しようとする)ときに、スラスラっと理解できることと、ある時、突然「なるほど!」て降ってわいたように理解できることがあります。柴田先生はどんな感じで、詩を訳しますか? わりとすぐ全部わかっちゃいますか? 苦労して理解できたことも、やはりあるんですか? (私数年後に「わっ、なるほど」ってことが最近ありました!^_^)
(paradise of bird/paradise on planet Earth/40代/女性)

 やっぱり外国語ですから、パッと見て「いいな」と思えることは少ないですよね。ならじっくり考えれば「いいな」に至るかというと、それも難しく……だからどうしても語学的に易しい詩を偏愛してしまいがちだと思います(まあ同程度ではないにしても小説も同じ)。
 
【ご意見・ご感想】
手紙舎の朗読会とても楽しかったです^_^

 楽しんでいただけてよかったです。次は8月にやりますので、またぜひ。

質問13

Q. 翻訳している時、物語の登場人物が柴田さんに語りかけてくることはありませんか? 以前ある本を読もうとするたびアクシデントが。読まれることを望んでいないと思い断念したことがあります。本にも何かあるのですね。
(葛西鎖織/青森県/40代/女性)

 「僕に」語りかけてくるという気はしないですが、そこでその人たちが喋っているのを「立ち聞き」(座り聞き?)しているという感じは強くあります。いることを、とりあえず無視してもらえる聴き手みたいな。

質問14

Q. 柴田さんの心に残っている思い出の香り、好きな香水などがありましたら知りたいです。
(のりのりこ/—— /20代/——

 香水ですか……うーん、そんなにそばで嗅いだ経験がないので……。

質問15

Q. 私はゆるくてかわいくて楽しいものが好きです。柴田先生、何かおすすめのゆるい小説はありませんか?
(こだぬき/北海道/30代/女性)

 滝口悠生さんの小説。一見ゆるい小説、というべきかもしれないけど。

質問16

Q. 柴田元幸先生のご家族について知りたいです。まずは、奥様。柴田先生の手書き原稿を入力する時、意見や感想を伝えますか? 柴田先生のプライベートなことは、先生のお仕事に影響しますか?
(amazou@karakuchi/千葉県/70代/男性)

 奥様には間違いを一杯直されます。ろくでもない人生を送っているので、プライベートなことが仕事に影響していないことを願っています。

質問17

Q. 『MONKEY 21号』を読みました。生で音楽を聞くことができないいま、ひさびさに生の「うた」を聞いたような気持ちになり、いっそう心にしみました。しばらくは配信で我慢するしかないのでしょうが、上で先生も書かれているとおり(伊藤比呂美さんも朗読について語られていましたが)、「詩・詞」や「うた」は目の前で聞いている人に伝えるというのが、大事な要素のひとつではないかと思います。
 質問ですが、誰のライブでも見に行くことができるならば(遠い国の人でも、すでに死んでいる人でも)どのミュージシャンのライブを見たいですか? 「音のいいバンドは歌詞もいい」、ほんとうにそのとおりだと思います。
 次号も楽しみにしています。その頃には事態がいまより収束して、ある程度のイベントなどできるようになっていることを祈っています。
—— /大阪府/40代/女性)

 死んだ人でもいいんですね? じゃ、バッハが自作を鍵盤楽器で弾いているところ。

質問18

Q. 今号は「うた」にフォーカスした特集となっていますが、柴田さんご自身は歌を歌ったり、楽器弾いたりされますか?
(ひじり/福岡県/30代/女性)

 もっぱら聴く方ですが、うちにギターはあります。

質問19

Q. 今回の号、いろいろな方の詩が対訳で載っていたのが非常に興味深かったです。なるほどこう訳すと、この原典の持つ言葉の心地よさや、見た目の美しさを損なうことなく翻訳出来るのかと、しみじみと読み返しながら思いました。「もし自分が訳すなら?」と、少し考えてみたのですが言葉選びやビジュアル、時代背景などなどを考えていたら、なんだか深い闇に落ちていきそうだったので少し寝かせています(笑)。
 個人的に小説の翻訳は作品との1対1のボクシングのような真っ向勝負、詩の翻訳はトライアスロンのような総合競技のようなイメージがありますが(例えが下手ですみません……)、柴田さんが感じる小説と詩の翻訳の違い。または意識されていることなどがあれば教えてください。
(アマビエ/東京都/30代/女性)

 ボクシングとトライアスロン! すごいですね。僕は、詩を訳すことについては、染色体が50個くらいしないのに、これで高等動物を作るように、と指示された創造主代理みたいな感じがしています。

質問20

Q. オンラインなのを良いことに、イベントでは恥ずかしくて訊きづらいことを質問させてください!
 僕は海外の詩の楽しみ方がいまいち分かりません。翻訳小説も洋楽の歌詞も好きなのですが、いわゆる純粋詩?というのでしょうか。その世界を味わい尽くせないで歯がゆい思いをしています。動機は不純で、「詩とかパッと引用できたり語れたら格好いいかも!」とマラルメやボードレールに手を伸ばしたのですが、何が言いたいのだろう?という思いが頭に湧いてきて、字面を追うだけで終わってしまいます。。。
 ただ、僕が感じられていない魅力が秘められているのは分かっていて、もはやその壁を超えたくて仕方ありません。なにか詩をちゃんと味わうためのヒントを頂けると嬉しいです!
(ゆやゆよん/埼玉県/20代/男性)

 詩とかパッと引用できたら格好いいと思うんなら、味わいなんか考えずにただただ暗記すればいいじゃないですか。で、それが実は、味わうに至る最良の道かもしれないし。「語れたら」の方はどーすんだ、という問題はありますが、『悪の華』とかラベラベラベーっと引用してから、「うーん、よくわかんないんだけどさ」とさりげなく呟く、とかどうでしょうか。

たくさんのご質問、ありがとうございました。

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