自然に挑むのではなく、自然と共に生き、自然に対して真摯であること。表現者は自然の声に耳を傾け、生きる知恵を学ぶ。アメリカ文化に傾倒し、フィッシングシーンに貢献してきた八百板浩司の心に宿る原風景。

思い返せば、釣りが僕の人生を豊かにしてくれました。魅力的な魚たちがいたから海の向こうの人たちと知り合うことができて、アメリカで絵の個展を開いたり、自分の絵が雑誌の表紙を飾るという貴重な経験を味わえました。
僕が描きたいのは、ただかっこいいだとか綺麗な魚ではなく、釣り人が思い描いている理想の風景なんだと思います。写真をただトレースするなんてことはありません。リアリズムだけを追求するなら写真でもよくなってしまいます。だから僕は、これまで自分の体験をベースにして描いてきました。
大きな転機となったのは、フリーのイラストレーターとして活動を始めた20代の終わり頃、出版社の仕事でワイオミングに行かせてもらったときです。昔からアメリカの音楽や絵といったカルチャーに憧れを強く抱いていた僕は、滞在していたジャクソンホールという街でギャラリーを巡っていた。街にはたくさんのギャラリーがあって、その大半が野生動物を題材にした絵画を展示するギャラリーだったんです。そこで見た絵というのは、まさに僕が魅かれてきたアメリカの絵でした。そしてそのとき、“ワイルドライフアート”と呼ばれるジャンルがあるということを知ったんです。僕が描きたいのはこれだと、そのときに思いました。

季節は秋で、外は鮮やかな色に溢れ、見るものすべてが印象的でした。アメリカの自然や風景に魅せられていった僕は、その後ニューハンプシャー州に何度も通うようになります。アメリカ北東部の、カナダとの国境に面した州で、トラウトフィッシングが盛んな州です。最初に行ったのはたしか1991年でした。幕張のフィッシングショーで僕は、カナダのフィッシングツアーを売り込みに来ていたアンガスとアレンと知り合ったのですが、偶然にも二人の住んでいるところがニューハンプシャーだったんです。二人のところに遊びに行きたいと伝えると、「いつでも来てくれ」と快く受け入れてくれて、カミさんと二人で訪ねました。
季節は6月の終わりで、新緑が芽吹いていて、見るものすべてが美しかった。アンガスたちに連れて行ってもらった小さな湖では夕方になるとブルックトラウトたちのライズで、湖面がまるで雨が降っているみたいになるんですよ。アレンとその息子のアダムと釣りに出かけたときには、アダムが人生初のトロフィーフィッシュを釣り上げて、「マミーに見せなきゃ!」と言って、エラに指を入れてぶら下げながら歩いて家路につきました。その背中がとても誇らしげで、車が通りかかると魚を掲げて見せつけるんですよ。新緑が美しくて、森の匂いが漂ってきて、目に映るすべてがキラキラしていた。
その一つひとつのシーンが目に焼き付いていて、それらを思い浮かべながら絵を描いてきた。今年で65歳になりますが、僕にはまだ夢があります。それはアメリカのバスプロ・ショップスで個展をすること。ワイルドライフアートの本場でちゃんと評価されるような作品を並べたいんです。こうして言葉にして、目の前の絵に真剣に取り組んでいれば、いつか誰かが手を差し伸べてくれると僕は信じています。

ダイナライトジャケット
次世代GORE-TEXファブリクスを採用した全天候型フィッシングジャケット。キャスティング動作に追従する立体パターンを用い、フロントの大型バーチカルポケットと背面のゲームポケットで収納力にも優れる。フードのレインガーターや袖口のダブルカフス仕様で、雨天下でも快適に釣りをサポート。ダークオリーブ、カーボンブラックの2色展開。¥74,800(税込)
<問い合わせ>株式会社ティムコ 03-5600-0121
more info ☞ www.foxfire.jp
本稿を収録した「Coyote No.88 特集 版画家・大谷一良が遺した山々 〜山のディヴェルティメント〜」はこちら。
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『ANTHOLOGY』
発売日 : 2025 年 11 月 9 日
仕様 : A4 判 / ハードカバー / フルカラー / 248 ページ





















