昨年、フラッグシップとなる「シングルモルト駒ヶ岳」を発売したマルス駒ヶ岳蒸溜所。その一本には中央アルプス駒ヶ岳山麓の風土と受け継がれる技術、そしてつくり手たちの思いが宿っている

TEXT: KOBAYASHI SARIE
シングルモルト駒ヶ岳が生まれる場所
中央アルプス山麓、標高798メートルに位置する「マルス駒ヶ岳蒸溜所」。蒸溜所のすぐ裏手には山からの雪解け水が流れ、霧深い森に囲まれている。
1985年、本坊酒造がウイスキーづくりの理想の地を求めて辿り着いたのがここ長野県宮田村だ。花崗岩質の土壌を通り抜けた良質な軟水を仕込み水に使用できることに加え、一年を通した冷涼な気候が熟成環境に適しているともいわれている。本坊酒造は鹿児島での焼酎づくりを原点に様々な酒づくりを行うが、ウイスキーづくりにおける歴史も長い。
「現在稼働しているポットスチルは2代目になりますが、蒸溜所操業当時から使っている初代ポットスチルのストレートヘッドの形を受け継いでいます」
そう語るのは当蒸溜所で製造係長・ブレンダーを務める河上國洋氏。隣接する伊那市で育ち、地元で酒づくりに携わりたいという思いからこの世界に入ったという。「ポットスチルはマルスウイスキーの誕生に尽力した岩井喜一郎氏の設計によるもの。日本人として初めてウイスキーづくりを学んだ竹鶴政孝氏をスコットランドへ派遣した人物の一人でした。本場のウイスキーづくりをまとめた“竹鶴ノート”と、自らの専門的知識と経験に基づき、ウイスキーづくりを指導していました」

「かつては鉄製のタンクで発酵を行っていましたが、現在ではステンレスと木桶の発酵槽を使い分け、個性溢れる多彩な原酒をつくれるようになりました。酵母を加えた麦汁は約4日間かけて発酵します。木桶には乳酸菌をはじめ様々な微生物が棲みついており、発酵に作用することで複雑な味わいが生まれます。微生物が適切に働くよう、温度管理はもちろん環境を整えるのも私たちの仕事です」
発酵で出来上がった“もろみ”は二度の蒸留を経てニューポット(無色透明の原酒)となり、その後、樽で熟成をむかえる。
「この地域は一年を通して比較的涼しいのですが、それでも夏場の日中は気温が高くなります。ただ朝晩は変わらず冷え込むので、その寒暖差が熟成に独自の影響を与えます。ウイスキーづくりはほとんどが樽で熟成している時間です。大前提として“仕込み”の状態が良くないと目指すウイスキーにはなりませんが、この段階まで到達したらあとは自然に任せていきます」
「シングルモルト駒ヶ岳」誕生
ウイスキー需要の低迷から蒸留の休止を余儀なくされた時代もあるマルス駒ヶ岳蒸溜所。「シングルモルト駒ヶ岳」は、2018年から本数限定のエディションとしてリリースを続けてきた。そして昨年、蒸留再開から14年が経過し、満を持して「シングルモルト駒ヶ岳」の通年発売を開始した。
「通年でリリースできるようになり、ウイスキーブランドとして大きな一歩を踏み出した感じがします。蒸溜所の“顔”といえるシングルモルトが誕生し、新しいお客様にも覚えていただけるようになったことはとても嬉しく思います」
そう語る河上氏に、「シングルモルト駒ヶ岳」開発への道のりを訊ねた。
「レシピづくりから携わったのですが、香味の一貫性、定番のシングルモルトとして幅広い方に親しんでいただけるバランスを追求し、さらに一口飲んだ時にこの土地の情景が思い浮かぶ、そんな味わいを目指しました」
実際にウイスキーを口に含むと、フルーティーな香りと上品な甘みが広がり、滑らかな口当たりが印象に残る。仕込み水として、中央アルプスの山々から流れ出る清冽な伏流水のまろやかさが、その柔らかな味わいにつながっているのだと感じられる。
「バーボン樽で熟成した原酒をベースに、シェリー樽やポートワイン樽で熟成した複数の原酒をブレンドしています。それによりバーボン樽由来の柔らかな甘みが際立ちつつ、多層的な味わいも生まれます。試行錯誤を繰り返すなかで、『これだ!』と理想の味に重なる瞬間がありました」
さらに河上氏は続ける。
「シングルモルトをつくる上で一番大切なことは、この先もずっと原酒をつくり続けていくことにあります。将来を見据え、長い年月をかけて原酒を育む。複数の熟成した原酒の“持ち札”がどれくらいあるのかを常に把握したうえで、ブレンドの技でつくり込んでいく必要があります。私たちには、私たちのシングルモルトを、いつの時代も特別な一杯として変わらず届ける責任があるのです」
シングルモルト駒ヶ岳の購入については公式オンラインストアより



























