1984年に撮影された坂本龍一の “幻のドキュメンタリー映画” 4K レストア版がついに劇場公開

 1984年5月。坂本龍一が4枚目のソロアルバム『音楽図鑑』を制作し始めた頃、東京でわずか1週間という短期間で撮影が行われたドキュメンタリー映画『トーキョー・メロディ』。エリザベス・レナード監督を含む6名のスタッフは、坂本龍一という音楽家を記録した。完成後の1985年には、ロッテルダム、ロカルノ、サンパウロなどの国際映画祭で上映され、日本では同年6月9日に第1回東京国際映画祭で上映。1986年、フランスでテレビ放映されたのち、発売されたVHSとDVDも長らく入手困難な状況が続いていたが、近年になり倉庫に眠っていた16mmフィルムが発見され、修復を経てデジタル化が実現した。

 この60分余りの映像には、坂本の貴重なインタビューやスタジオでのレコーディング風景に加え、出演したCM、YMOの散開コンサート、大島渚監督『戦場のメリークリスマス』(83)の印象的な一場面などが収められている。渋谷スクランブル交差点、新宿アルタ、原宿の竹の子族……80年代の息づくような東京の景色とともに映し出されるのは、幼少期の記憶、変わりゆく文化と社会、創作のプロセス、そして自らが追い求める音楽について語る坂本の姿だ。育った街に耳を澄まし、時代の流れを感じながら、どのような未来を見つめていたのか。

 本作の撮影が実施された「1984年」について、坂本はかつて本誌のインタビュー取材にこう語ってくれた。

「そもそも1984年という年は、『何か特別な年だ』と強く思っていたんですね。それは僕だけではなくて、わりと多くの人がそう思っていて。なぜかというと、まだバブルになる前の東京でしたけど、ナム・ジュン・パイクの個展があって、ローリー・アンダーソンのライブがあって、ヨーゼフ・ボイスが来た。当時僕は『パフォーマンス元年』と勝手に呼んでいました。何かのスイッチがカチッと入った感覚があったんです。今思うと、メディアアートの方向に舵を切った最初の年だったのかもしれない。ピテカントロプス・エレクトスという原宿のクラブで、パイクさんと一緒にパフォーマンスをした時、高橋悠治、立花ハジメ、三上晴子、細野(晴臣)さんなど、いろんなバックグラウンドのメンバーが集まった。客席に作曲家のクセナキスが来ていたり、なんだかすごく変な時間でした。そしてその年の10月、パイクさんと映像作品を共同制作するためにニューヨークに来た。

 その時に思ったのは、20世紀初頭のアート、未来派、シュールレアリズム、マルセル・デュシャンといったものが出てきたのも、やはり19世紀までの文化からカチッと変わったタイミングだったんじゃないかということでした。それは文明的・技術的な革新も大きかった。たとえば、街路のガス灯が電灯に変わった。馬車から自動車になった。そういうことが刺激となって未来派が出てきた。1984年に僕が意識したのは、そこからの繋がりでした。そういう流れの中にパイクさんもジョン・ケージもいると思う。84年はカルチャーだけではなくて、科学の分野もスイッチが入ったんです。フラクタル幾何学が紹介され、生命に対する捉え方も変わってきて、悪い方向で言えば電子工学を悪用するような動きが社会の中で見え始めたり。何より、マッキントッシュのコンピュータが出てきた年なんです。そういう意味でも、現在にまで繋がる原点のような年だったと思います」
(「SWITCH」VOL.35 NO.5 2017年5月号)

 本作は、そのような時代の転換点にあった1984年の東京、そして当時32歳の坂本龍一という音楽家を捉えたきわめて貴重な記録と言えるだろう。
 
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映画『Tokyo Melody Ryuichi Sakamoto』4K レストア版は1月16日より全国順次公開
監督:エリザベス・レナード
出演:坂本龍一、矢野顕子、細野晴臣、高橋幸宏
音楽:坂本龍一
©Elizabeth Lennard

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