JW Anderson 2024AWウィメンズコレクション「ブリティッシュカルチャーへの愛に溢れた服づくり」

TEXT: HORIUCHI YUUKI

世界を牽引するファッションデザイナーのジョナサン・アンダーソンが自身の名前を冠したファッションブランド、JW Andersonの 2024年秋冬ウィメンズ コレクションが、ブランドの拠点となるロンドンで2月18日に発表された。

今回のコレクションのポイントはユーモアがたっぷりと盛り込まれた”イギリス的なもの”の再構築にある。「ラスト・オブ・ザ・サマー・ワイン」というイギリスのヨークシャー地方を舞台とした、いわゆる労働者階級のご老人や奇妙な隣人についての、なんとも言えないニッチな70年代放映開始のコメディドラマが、今回のインスピレーションの源のひとつである。イギリスの“奇妙な“当たり前が詰まったこのドラマをモチーフの一つに、”まだ経験したことのないノスタルジア”を展開した。

普段はフィットネスジムとして利用される施設Seymour Leisure Centreにある体育館が会場となっていた。体育館全体にボールがバウンドするような音響が流れている。なんてことはないが無意識の中に紛れ込み、幾度となく聞いてきた懐かしい反響音。授業中や放課後のなんでもない、ありふれた瞬間が思い起こされる。ファッションショーの現場には似つかわしくないとその音が、ファッショナブルな服を身に纏った観客とのコントラストを生み出していた。

ショーの1曲目は、イギリスのシンガーソングライターLabi Siffreの1971年の楽曲「Bless the Telephone」で静かに始まった。イギリスでは有名な歌手のようである。ノスタルジックで、しかし普遍的な生活者のラブソングであることはすぐにわかった。

最初に登場したのはイエローの、大きな網目のニットのトップスとミニスカート。イギリスといえば羊毛のニットであるが、その文化を受け継ぎながらも完全に新しく作り替えているような編み方と色合い。触ってみたいと思わせるふわふわの素材感で、丈がかなり短い。

続いて登場したニットのセットアップは古き良きイギリスのアンダーウェアという印象だ。ネイビーと白の色違いで、トップスがキャミソールのものと丸首のTシャツのものがある。

度々、モデルたちはグレーのカーリーヘアのウィッグをかぶって登場した。このいかにもイギリスの老婆というようなウィッグはジョナサンによると帽子だという!

明らかに肩の大きすぎるコートは、イギリスの大人気ストップモーションアニメ「ひつじのショーン」で、羊たちが街へ出るために人間のふりをする際に着るオーバーサイズのコートを筆者に思い起こさせた。

足元はいずれもシャーリングのアンクルブーツやコーデュロイのフラットシューズで、主婦

のスリッパを彷彿とさせるようなリラックスしたデザイン。

JW Andersonは、イギリス・アイルランド的なものを非常に巧妙に、独自に追求したブランドだ。イギリスには独自の文化が多くあり、アメリカや他のヨーロッパ諸国とも異なっている。今でも拭いがたい階級意識が当たり前のように人々の意識の中に横たわり、出身地や出身階級によって少しずつ異なる方言や身振り、服装、ありとあらゆる文化的差異を、良くも悪くも人々は繊細に感じ取りあって、現代を生きている。上流階級のしきたりと労働者階級の暮らしとユーモア、そしてクラフトマンシップや様々なポップカルチャーが混ざり合ってこの国を作り上げてきた。

今回のインビテーションはツイードの布にシルクスクリーンでインフォメーションがプリントされたものだった。それはかつて、生地を買ってから服を仕立ていたことを連想させようという狙いだという。現代では服を買うという行為すらも変化した。しかし、何十年も昔の曲が若者たちによって突如再ヒットすることがあるように、過去のファッションやカルチャーもまた、変化の中で見返され、別の形で生まれなおすことがある。見過ごされてきたものが、長い時を経たのちに新たな文脈の上で享受される不思議な現象。イギリス独特のカルチャーやクラフトマンシップと、JW Andersonらしいセンスと遊び心が融合したすばらしい今季コレクションは、異なる見方で過去と、そして未来を眼差している。