HIGASHIKAWA STORIES 小さな町を織りなすもの

愛され続ける町のシンボル
りしり(居酒屋)

三角屋根の洋風の建物が目印のりしりは、東川を代表する大人の社交場だ。店を切り盛りする中竹英仁さんの父がかつて魚屋を営んでいたことから、内陸にもかかわらず毎日新鮮な魚を仕入れられ、味はミシュランガイドのお墨付きだ。刺し盛りやホッケなどの海の幸や家庭的な料理を求めて、広い店内は平日でも早い時間から多くの客で賑わっていた。

中竹さんが札幌からUターンして店を継いだのはおよそ18年前。先代から数えると30 年の歴史がある。

「小学校をもうすぐ卒業する息子が、将来の夢を題材にした作文で『お父さんの居酒屋を継ぎたい』と書いてくれたんです。好きなように自分の人生を歩んでほしいと思っていますが、嬉しかったですね」

だからこそこの先の6年が頑張りどころなのだと中竹さんは言う。

「6年後には息子も高校卒業です。それにまだ現役で働いてくれている母さんも80歳を迎えるし、ずっと今のままではいられないんだってことに気づいたんです。だからこの6年間が、自分にとっての居酒屋業の集大成だと捉えています。いつの日かこんな時もあったなと過去を愛しく思えるように、1日1日を大切にしたい。母さんが女手一つで僕を育てながらお店を守ってきてくれたから、今のりしりがある。だから母さんがまだ元気に働いているうちに常連さんたちにはまた会いに来てほしい。そして昔のようにみんな母さんから元気をもらって帰ってほしい」


真の豊かさを考える
Less(洋服店)

心地いいBGM が流れる店内には店主の浜辺令さんが自信を持って薦める選りすぐりの商品だけが並べられている。浜辺さんは28歳まで旭川の洋服店に勤めた後ロンドンに渡り、優れたプロダクトが生まれる現場を自分の目で見て回った末にLess を開業した。名前の由来は「Less is more.」からきている。

「デザイナーや作り手とコミュニケーションがとれるブランドしか取り扱っていません。そうすれば接客に嘘がない。うちで扱っている洋服は素材ありきなので、値段にもちゃんと意味があります。買い手の経験値も問われるし、商品の背景をこちらが伝えることで満足してもらえたらより大事に着るだろうし、長く着続ければ結果的に安上がりになる」

この服のコットンの産地はどこで、綿花からどう糸を紡績してどのくらいの密度で生地を織ったものなのか。説明を聞いていると、人の手を介し、手間と時間をかけて今目の前にこの洋服が置かれているのかということに特別な感慨を覚える。

浜辺さんは10年程前から北海道の中標津や帯広、根室などの同業仲間の店に出かけて出店する「ローカルズ」という活動も続けている。回を重ねることで東川に来てくれるお客さんも増えているという。

「若い頃から僕も買い物を通じて多くのことを教えてもらってきました。インターネットにはない楽しみがあるのがお店の良さだと思うので、一生続けていきたいですね」


本物を追求する気概
Vraie(フレンチ)

これまで神戸や札幌でフレンチの腕を磨いてきた村上智章さんは、東川に移住してからもっと自由に料理を楽しめるようになったという。

「札幌や県外からわざわざお客さんが来てくれるのに、東京にもあるような店を自分がここでやる必要はないよな、と思うようになったんですよね。それからはその日に手に入る旬の食材を使ったおまかせコースのみに切り替えて、ランチは従来のビストロスタイルを残しています」

村上さんは積極的に生産者の元へ足を運び、強いこだわりを持ったところからだけ食材を仕入れる。この日いただいたエゾ鹿のローストは、誰がどのように撃った鹿で、どんなものを食べていたかまで把握したうえで調理されたものだった。

「理想はすべて100キロ圏内のものを使いたい。その日のうちに食材が届くちょうどいい距離なんです。あとは食材についてもっと勉強して、雑草ばかりの皿を出してみたい。畦道に生えている草の中には美味しく食べられるものがけっこうあるんです」

食材への探究心をのぞかせる村上さんは、これがずっとやりたかったことだから、お客さんも含めて共感してもらえるのが嬉しいと話す。

「自然が身近にあるからこそ魅力的な生産者と出会う機会も増えるし、人と繋がることで自分にできることも増えていきます。それに、最近こんな人に出会ったんだよって家族と話している時に、東川でお店をやっている意味を感じられるんです」


一杯のお茶のために
奥泉(中国茶専門店)

東川には日本では数少ない希少なお茶を提供する専門店がある。中国茶の世界に魅せられた奥泉富士子さんは、中国政府認定の評茶員・茶藝師の資格を持つ中国茶のスペシャリストだ。東京・中目黒にある老舗の中国茶専門店で経験を積み、夫の斎藤裕樹さんとともに2016 年に札幌市円山で奥泉を開業し、2020年に東川に移転した。

奥泉で扱うのは、中国の福建省にある世界遺産の山の上で育つ武夷岩茶。それも取り扱うのは人間国宝の茶師、劉宝順さんが手がけたお茶のみという徹底ぶりだ。日本でこのお茶を飲むことができるのはたったの4店舗しかないという。

「私はこの人が作るお茶と出会ったからお茶をやりたいと思ったんです。中国政府の要人にもお茶を献上されている方で、日本では私が働いていた中国茶専門店しか輸入することが認められていないので、お店の信頼を得て今はそこからお茶を仕入れています」

武夷岩茶はその年の育った環境によって茶葉の状態が異なる。茶葉一枚一枚に向き合い、炭火で時間をかけて焙煎されることで一煎一煎味や香りの変化を長く楽しめるお茶が出来上がる。そんな最上級の武夷岩茶の味をきちんと届けるために奥泉さんも水にこだわり、汲み置きして一晩寝かせて味を安定させてから煎じる。

「ほんのちょっとの違いかもしれませんが、来てくれた人が一煎一煎変化する香りを楽しみながら、満足して帰ってもらえたら嬉しいです」


HIGASHIKAWA information

国内外の写真文化に触れられる町

1985年に「写真の町宣言」をした東川町では、毎年夏に東川町国際写真フェスティバルが開催される。期間中は町中に写真が溢れ、国内外から写真家や写真関係者が集まるほか、全国の高校写真部の学生を対象とした写真甲子園も町の名物になっている。 2015 年には新たに「写真文化首都宣言」を発表した。「未来に向かって均衡ある適疎な町づくりを目指し、『写す、残す、伝える』心を大切に写真文化の中心として、写真文化と世界の人々を繋ぐ役割を担う」と決意を新たにする。
 

大雪山の恩恵を受けた暮らし

大雪山の主峰、旭岳のふもとにある東川町は、豊かな自然の恩恵を受けて暮らす町。ミネラルバランスに優れた旭岳の地下水を全家庭で飲むことができ、豊かな水は農作物を育み、北海道随一の米どころを支えてきた。近年はこの水で仕込んだ日本酒も誕生した。美しい自然の景観が、町の文化や暮らしと密接に結びついている。
 

町が誇る豊富な飲食店

東川を訪れる人にとっての町の魅力は何と言ってもこだわりの詰まった飲食店だろう。Coyote 編集部が訪ねたお店を含む50軒を紹介した「東川FOCUS on gourmet」は、東川在住の4人のフォトグラファーが撮影した写真に、東川在住ミュージシャンGUAN CHAI の楽曲を乗せた10本のスライド動画。この町の豊かな自然環境を求めて良質なお店が次々に開店し、町の賑わいを生み出している。東川のクリエイティブを結集して作られたこの動画は「東川町公式note」で公開中。

 

羽田空港から旭川空港まで飛行機で100分、空港からわずか7キロの距離にある東川町は、北海道の空の玄関口だ。