Foxfire True to nature Vol.21 稲葉可奈

自然に挑むのではなく、自然と共に生き、自然に対して真摯であること。表現者は自然の声に耳を傾け、生きる知恵を学ぶ。自然の循環を可視化するイラストレーターの稲葉可奈さんが自身の絵に込めた思いとは。

Foxfire True to nature Vol.20 仁科斎
稲葉可奈 兵庫県淡路島生まれ。武蔵野美術短大を卒業後、2004年から知床に移住。現在は自然ガイドの夫とともに知床半島の先端側に暮らす。知床財団で働く傍ら、「知床デザイン」の屋号でイラストレーターとしても活動する。
構成=奥田祐也 写真=二神慎之介

私が暮らしているのは、もうこの先には誰も住んでいないほどの知床半島の羅臼側の先端部。「なんであんな奥まったところに住んでるの?」って町の人たちから心配されるような場所で、ガイドを営む夫と番屋で暮らしています。夏に観光で来る人たちからは、「こんな自然豊かな場所に住めて羨ましいです」と言われることもあるんですけどね。やっぱり地元の人たちはここで生きる大変さや自然の厳しさを知っているので、そのギャップはなんだかおもしろいです。

確かに知床での生活は「厳しい」の一言。山脈から一年中吹き下ろす強い風、そして凍てつく寒さ。ここで暮らすのは本当に大変です。でもそういった知床の自然環境というのは、私にとっては今の自分に与えられた条件のようなものだと捉えています。ここでの暮らしは不便で嫌だと言って投げ出すのは簡単ですが、自分で選んでここに来たのですから、自分からこの環境に合わせていくほかありません。

東京から知床に移り住んでかれこれ20年が経ちましたが、厳しさと同じくらい変わらないのが、ここの自然の美しさ。家の前から見える雪を被った国後島、羅臼町から家に帰ってくる途中の海岸線、何度も登っている羅臼岳からの景色……見慣れた景色のはずなのに、やっぱり綺麗だなって思うし、毎回新鮮な感動を覚えるんです。

Foxfire True to nature Vol.20 仁科斎

今私は知床財団で働く傍ら、「知床デザイン」という屋号で知床の自然をテーマに絵を描いています。知床自然センターのパンフレットや観光マップ用の絵を描いたり、Tシャツや雑貨の制作と販売をしています。私の絵は、自分の目で見た知床の自然を、あくまで私の主観で描いたものです。知床には生き物の生態にくわしい方も多く、ファンタジックなものよりもリアルなものを求められることも多いのですが、あまりそっちに引っ張られないようにしながら自分の表現を追求しています。だから写真を参考にして描くこともしません。描いているうちに次第にキャラが確立されて、知床の生き物を描いた「目つきの悪い〇〇」シリーズが周りからおもしろがってもらえているのは嬉しいことです。

知床の自然を描いていると、生態系の繋がりや循環というものに常に意識が向くようになるので、その変化にも真っ先に気づきます。今年は例年に比べて流氷の接岸が遅かったり、ここ数年でカラフトマスやサケの遡上が激減していたり。循環を担うサケ、マスの存在が抜け落ちてしまったら、知床は今後どうなってしまうのでしょう。森に、陸の生き物たちにどれだけの影響が出るのか、研究者でも試算できないみたいです。それってとても怖いことだと思いませんか? だからこそ、ここでの兆候を都会に暮らす人たちにも伝えられないかと思うんです。自分にそこまで大きなことができるとは思っていませんが、私の描いた絵が誰かにとっての自然との接点になったり、結果的にこの地域の自然の循環を保っていくうえで少しでも意味のあるものになってくれたら……。そんなことを思いながら、この場所で絵を描き続けています。

Foxfire KTLフリースジャケット
知床の自然循環がモチーフ
KTLフリースジャケット
「海~川~森~山~空」。知床在住のイラストレーター稲葉可奈さんが描き起こした「Keep the loop」柄を、シープ感のある毛足の長いフリース素材に配した総柄デザインのジャケット。自然の循環を維持することへのメッセージを込めた一着です。放電テープを縫い込んだ帯電防止仕様で不快な静電気を防ぎます。ベージュとブラックの2色展開。¥26,400(税込)

<問い合わせ>株式会社ティムコ 03-5600-0121
more info ☞ www.foxfire.jp

 
 
本稿を収録した「Coyote No.87 特集 皆川 明の道しるべ minä perhonenのいま」はこちら