イタリアの地に感化された豊かな色彩。HOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKEの2026年春夏コレクションを現地からレポート

©️ISSEY MIYAKE INC. 

TEXT: KAWAKAMI HISAKO

 2013年にスタートし、12年目を迎えたHOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKE。これまでコレクションの発表を重ねたパリを後にし、2025年からは心機一転、世界各地でものづくりの成果の発表を行うことを決めた。記念すべき第一回目としてイタリア・フィレンツェにて行われるメンズウェアの祭典「Pitti Immagine Uomo」で2026年春夏コレクション「Amid Impasto of Horizons ―積み重なる地平―」を披露した。

©︎ ISSEY MIYAKE INC. Photography: Delfino Sisto Legnani, Melania Dalle Grave (DSL Studio)

 ランウェイの会場となったのはフィレンツェ郊外にある「Villa Medicea della Petraia」。ここはルネサンス期のイタリア、そしてフィレンツェで絶大な存在であった名門一族のメディチ家に縁のあるヴィラのひとつとされている。エントランスを抜けると、この建物のシンボルでもある壁画に目を奪われる。

©︎ ISSEY MIYAKE INC.

 この空間ではコレクションにまつわる展示が催されていた。今回のコレクションは1本の筆を持ち、イタリアの様々な場所を旅することから創作を始めたという。デザインチームが各地を巡る中でイタリアの自然や生活に根差した“色”を採集し、独自のカラーパレットを作成。展示では色を採取していくプロセスがまるで研究結果を発表するかのように丁寧に紐解かれていた。

 イベントのメインであるランウェイはヴィラの中にある広大な庭園で行われた。6月のイタリアは夕刻を過ぎてもまるで昼過ぎのように明るい。照りつける日差しの中に湿度のない乾いた風が吹き抜けていくのが心地いい。

発表された39体のルックの中から特筆すべき3つを紹介しよう。

©︎ ISSEY MIYAKE INC. Photography: Giovanni Giannoni

 ひとつ目は「LINEN LIKE」シリーズのルックから。リネンのようなさらさらとした風合いの素材を使用したテーラードシリーズ。このルックでは透け感のあるシアー素材のインナーを中に着ることで、涼やかで色気のある印象に仕上がっている。シューズはこのコレクションのためにつくられた「CIOCCOLATO」。つま先が親指から小指まで斜めになっており、さらに左右の縁が角ばったフォルムが板チョコを彷彿とさせる。

©︎ ISSEY MIYAKE INC. Photography: Giovanni Giannoni

 ふたつ目は「PALETTE」と題されたプリントシリーズから。色の採集に使っていたパレットをそのままモチーフとしてプリーツ生地にプリントしており、このコレクションを象徴するシリーズと言えるだろう。パレットの上で色が混ざり合う様や筆でぼかされた跡など、作為と偶然の間を突いた筆致が面白い。

©︎ ISSEY MIYAKE INC. Photography: Giovanni Giannoni

 最後は衣服を持ち運ぶために用いられるガーメントバッグから着想を得た「CARRIER CARRIED」シリーズ。ランウェイの終盤に登場し、それまでのルックとは大きく異なった遊び心のあるフォルムに驚かされた。実用性もきちんと担保されており、収納時には折りたたんでガーメントバッグの形にすることもできる。薄いレギンスとのスタイリングも秀逸だ。

 ヴィラでの展示でも感じたことだが、全体として“イタリアでコレクションを発表することの意味“を深く問うたコレクションに仕上がっていたと感じた。イタリアという土地の気候や景観をよく理解した上で、そこにHOMME PLISSÉ ISSEY MIYAKEらしさが随所に見てとれる。ブランドの新しい門出にふさわしいランウェイであった。