「縦型映画」が導く映画の未来。
TikTok TOHO Film Festival 2021

 
 

TEXT: SATO CHIHO

 
新たな才能の発掘を目的に、ショートムービープラットフォーム・TikTokと東宝がタッグを組み、縦型フォーマットを用いた映像作品を公募、グランプリを決める映画祭「TikTok TOHO Film Festival 2021」が開催された。
 
TikTokの規定に合わせ9:16の縦長画面サイズで作成された15秒から10分の映画を、専用のハッシュタグ「#tt映画祭2021」を付けて投稿すれば応募は完了。その手軽さと、13歳以上のTikTokユーザーなら誰もが応募できるという間口の広さが功を奏し、応募作品の総数は5000を超えた。そして、映画祭のアンバサダーを務めた俳優・アーティストの北村匠海をはじめ、映画監督・三池崇史、映像クリエイター・山田智和、TikTokクリエイター・しんのすけらによる審査の結果、大学院生の吉川啓太制作『トラベルノート』が初代グランプリに輝いた。
 
約1分の動画を10本連ねて1作としたグランプリ作品『トラベルノート』は、何気ないようで詩情が滲む台詞や、縦長の構図を生かした美しい映像がちりばめられていて、観る者を最後まで引き付ける。吉川啓太監督には東宝のサポートのもと、俳優の浜辺美波、第8回「東宝シンデレラ」オーディション出身の新人・井上音生をキャストに迎えた新作映画を制作する権利が与えられ、その受賞記念作『夏、ふたり』が10月の完成披露イベントでお披露目されることとなった。
 
半地下の部屋で“借り暮らし”をするふたりの女性の姿を描いた『夏、ふたり』。約1分の動画を8本連ねて1作としており、やはり、吉川監督独自の視点と台詞が楽しめる作品だ。またエンドロールには、北村匠海が自前のカメラで撮影した現場スチールが多数使用されている。『夏、ふたり』はTikTokの映画公式アカウントにて配信中だ。
 
 

 

あの夏を思い出す「縦型映画」
井上音生インタビュー(『夏、ふたり』主演)

PHOTOGRAPHY: KITAMURA TAKUMI

 
——「TikTok TOHO Film Festival 2021」の企画を聞いてどう感じましたか。
 
「私もTikTokユーザーのひとりで、よく大好きな動物の動画を観たりしています。“いいね”を付けると、かわいい動物の動画がおすすめでいっぱい出てくるんです。それを次から次へとスワイプしていって気づいた時には2時間経っていたことも(笑)。そんな、本当によく使うTikTokで気軽に映画を観られたら楽しそうだなって、企画を聞いて純粋に思いました」
 
—— 吉川啓太監督のグランプリ受賞記念作『夏、ふたり』に出演されましたが、脚本はどんな印象でしたか。
 
「吉川監督の書かれた、リアルだけれどファンタジーな感じもする台詞が魅力的だと感じましたし、その台詞の中に浜辺(美波)さんが演じるひかりと、私が演じるみづきの対照的な性格が表れているのもいいなと思いました。あと脚本のほかに吉川監督が作ったキャラクターシートもいただいたのですが、それも参考になりました。そこには“みづきは遊園地で人から言われて初めてカチューシャを付けるタイプ”といった細かい設定が書かれていて。また面白いなと思ったのが、自分の役のものだけではなく、ひかりのキャラクターシートもいただいたんです。そのおかげで“ひかりはこうだから私はこう動く”という立ち位置がわかりましたし、“相手のことをわかっているつもりだからこそすれ違う”というふたりの関係性がよりリアルに感じられました」
 
—— 実際にみづきをどんな女性だと感じながら演じられたのですか。
 
「みづきは慎重で、どちらかと言うとひかりよりも真面目でコツコツ努力するタイプの女の子です。ただ、ひかりとふたりの時だけは気張らず、お茶目なところも見せられるような女の子なのかなとも思います」
 
—— 浜辺さんの演技を受けて、思いがけない感情が溢れ出るようなこともありましたか。
 
「ありました。最後のほうでひかりがみづきに重要な言葉を投げかけるところで、浜辺さんが台詞を言う時に泣きそうになっていたんです。その姿を見た時に初めて“抱きしめてあげたい”という感情が芽生えました。そうさせてくれた浜辺さんの演技がすごいと思いました」
 

PHOTOGRAPHY: KITAMURA TAKUMI

 
—— 縦型映画の撮影についてはいかがでしょうか。新鮮に感じたり、難しさを感じたりしたことは?
 
「思っていた以上にカメラと自分の距離感を掴むのが難しかったです。いつも以上に近い、いつも以上に遠い、と感じることが多かったです。例えば、寄りの場面を撮影する時には本当に自分の目の前にカメラがあるような感覚で。ただ、その独特な距離感が縦型映画のいいところなんだろうとも思います。寄りの場面も、私たちはもちろん共演者に対して話しかけているんですが、作品を観る方からすれば、まるで自分が話しかけられているように錯覚してしまうぐらいなのかなって。そのくらいの臨場感を感じました」
 
—— 完成した映画はご自身がTikTokで観てみたいと思える作品になりましたか。
 
「はい、もちろんです! 綺麗な映像が所々にあって印象的でしたし、観ながら撮影の思い出が次々と蘇り、エンドロールでは泣きそうになったぐらいです。多分私、暑い夏が来る度に『夏、ふたり』の撮影を思い出すと思います。そして“もう一度TikTokで観てみよう”と思うだろうなって。吉川監督ともまたいつかご一緒できたら嬉しいです。そんな日が来るのを楽しみに頑張りたいと思います」
 
井上音生 2004年生まれ。2016年に第8回「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞し、2018年に映画『嘘を愛する女』で俳優デビュー。主な出演作に映画『最高の人生の見つけ方』、舞台『魍魎の匣』、ミュージカル『魔女の宅急便』がある
 
▷『夏、ふたり』の視聴はTikTok特設ページ