INTERVIEW
ピーター・バラカン 本当に美しいもの

着る服はその人を表すとともに人を作るものと言えるかもしれない。ピーター・バラカンさんの服選びのこだわりを訊いた

PHOTOGRAPHY:NAOKI TSURUTA
TEXT: Coyote

HaaTやASHA BY MDS(以下ASHA)の服は私の好みの素材やデザインが多いので、いろいろ持っています。今日のジャケットはASHA、シャツはHaaTですね。イッセイ ミヤケ ペルマネンテも含めると30年以上着ていますね。インドのテキスタイル自体はもともと好きでした。中学生の頃にはジョージ・ハリスンがビートルズの楽曲でシタールを演奏したり、インドの音楽や文化に触れていたので、その影響もあったのでしょう。日本に来てからもアジアの服に惹かれるところはありましたね。それに日本の夏は高温多湿なのでアジアの服のほうが間違いなく気候に合っています。

イッセイ ミヤケの服と出会ったのは1988年のことです。TBSの『CBSドキュメント』という海外のドキュメンタリーを放送する報道番組で司会を務めることになったのですが、衣装を自前で用意しなければなりませんでした。報道番組なのでスーツがお決まりのパターンですが、僕はスーツとネクタイはどうしても避けたかった。衣装選びに悩んでいた時、ちょうどイッセイ ミヤケのブティックの前を通りかかりました。その時に目に飛び込んできたのが、インド風の丸首のシャツでした。自分に似合うイメージが瞬時に湧いたし、このシャツならネクタイをつけなくても大丈夫だと思った。そのスタイリングで番組に出て以降、イッセイ ミヤケのシャツを定期的に買うようになりました。

ASHAの服との出会いは、90年代に入ってからだったと思います。その時も偶然です。お店の前を通りかかって、インドの刺し子が施された自然素材のシャツやジャケットを見つけた。肌触りがとても良くて、ほとんどが綿や麻などの自然素材。色、素材ともに変に誇張したところもなく、極力自然のものを自然に見せている、そんな印象を受けました。まさに僕が好むタイプだったので時々買うようになったのですが、当時はイッセイ ミヤケの系列であることも知らなかったし、皆川魔鬼子さんの服づくりの思いも知りませんでした。でも服を見れば瞬時に伝わってくるものがあります。

前衛的なものを作っていながらも長続きする人というのは、自分の前にどのような流れがあったのか、伝統をちゃんと知っているんですね。昔の美しいものを知った上で、それをただ踏襲するのではなく、自分の感性で新しいものを作り出す。そうやって伝統が継承されていく。継承されながら変わっていく。それが一番説得力を持っている気がします。

身に着けるものは自分を表現するものでもあります。イッセイ ミヤケと出会えたことで視野が広がり、私の人生はますます豊かなものになりました。知らない物事に対して好奇心を持ち続けることがなにより大切だと思います。これからも自分の感性に従って美しいものを発見したいです。

永く愛用しているASHA BY MDSやHaaTのシャツ

<プロフィール>
ピーター・バラカン 51年ロンドン生まれ。ブロードキャスター。様々なラジオ番組を持つ。主な著書に『ラジオのこちら側で』など多数

HaaT 2022 SS COLLECTION -FORWARD PAST-

風土に根ざした先人たちの優れた知恵と工夫も、ただ守ろうとするだけではやがて淘汰されていく。時代を経て、様々な文化が交わって進化することで伝統的な技はカタチを変えて新たに息を吹き返す