2018年6月20日

あからじめ失われた

4月29日、マーティンギターの愛好家が集うコンサートが恵比寿ガーデンホールで行われた。ステージ上のミュージシャンも、オーディエンスもそうそうたるギター弾きのようで、それゆえ会場は仲間意識といった楽しい雰囲気に包まれていた。

オープニングアクトに登場したのは優河。まばゆいほど清冽とした歌声を、母から譲り受けたギターの弾き語りで披露する。彼女の柔らかな声が記憶を紡ぐように、大切な人を思い浮かべた。優河のミニアルバム『街灯りの夢』の一曲「Water is Wide」が好きだ。オリジナルはカーラ・ボノフ、「あなたとわたしを隔てるこの河を渡る船をください」という愛おしい人に思いを寄せる歌だ。

1995年龍村仁が池澤夏樹と作ったドキュメント番組『未来圏からの贈り物——この風を旅する』の中でこの曲が使われた。星野道夫が出演し、小説と連動する構成で思い入れがあった。星野道夫をアラスカはフェアバンクスの自宅に訊ね池澤がインタビューする。移動するシーンでその曲は流れていた。

自然は征服するのではなく、自然に沿って生きる、そのために自然を理解する。未来に向かって旅をする、科学者や宗教家を訊ねその智慧を語っていただくというのがドキュメンタリーの指向だった。星野道夫は悠久の自然が残るアラスカの魅力をこう語っていた。

「自分の一生がとっても短いもんだなってことを教えてくれるところのような気がするんですよ。でもそれは別にそんなに悲しいことではなくて、逆にそれを知るとなんとなく元気が出るような、力づけられるような、そんな気がするんです」

嬉しいは悲しい、寂しいは緩やかに、自然が内包するリズムはただただ深く目に見えなくてわからない。

昨日友人が死んだ。あらかじめ失われた若者たちというテーマで作った一冊『NEW LOST GENERATION』で、アメリカの気鋭の作家を撮った依田恭司郎、素晴らしい写真家だった。

スイッチ編集長 新井敏記