QUIET WILL

都市生活の環境に合わせてデザインされたアークテリクスのアーバンライン「VEILANCE」。スタイリストのHARUと3名のクリエイターが25年秋冬のアイテムを用いて表現するのは、日常に潜むカラーパレットとそこに息づく“個”の在り方。機能と色彩が交差するその装いは、都市で生きるという選択を静かに肯定する。

SHOP OWNER
MOHAMED AZHARI AHMED

2022年にスタイリストの森下凌司とともに「DISSONANCE」をオープンさせ、2024年にはオリジナルブランド「Ntrul」を始動。ショップオーナーの傍ら、フォトグラファーやモデルとしても活動している。

ウールジャケット ¥154,000、パンツ ¥59,400/ともにVEILANCE(アークテリクス カスタマーサポートセンター:arcteryx.jp)、シャツ ¥29,800/Ntrul(DISSONANCE:contact@dissonance.jp)

HARU:DISSONANCEで取り扱っているアイテムもオリジナルブランドの「Ntrul(ニュートラル)」も、“行きすぎてない”っていう要素が軸にあるなと思っていて。ミニマルではありつつその細部にちょっとしたこだわりや意外性がある。だから今回お店のアイテムとミックスしながらスタイリングを考える時もVEILANCEのプロダクトとは自然とリンクしていく感覚がありました。全体としてのバランスは崩れないようにしながらも、「モハ(Mohamed)らしさ」とか「DISSONANCEらしさ」、「Ntrulらしさ」を感じられるように意識して組んでみようと。

Mohamed Azhari Ahmed:お店のアイテムの候補としてシャツやテーラードジャケットをいくつか用意したのですが、いわゆる“サラリーマンが着てるテックウェア”みたいな印象にはしたくなくて。遊びや抜け感があるアイテムを意図的に選ぶことで、企画のテーマのひとつでもある「色味」の部分をうまく引き立てたいなと思ったんです。あと、“らしさ”の話で言うと普段から「モハっぽい」みたいなことを言われるんですけど、自分ではそれが何を指しているのか掴み切れてなくて(笑)

H:もちろんいろんな要素がある中で、まず思いつくのは色使いじゃないですかね。たとえば、今回のスタイリングで言うとカーキのジャケットにNtrulのベージュのシャツを合わせて、そこに青のレジメンタルタイを挿すのとか。その感覚は「モハらしさ」がすごく表れていると思うし、スタイリングの中にどこか上品さを感じますよね。

M:色使いと上品さか、確かにそこは意識してるかもしれません。

ジャケット ¥132,000、ニット ¥59,400/ともにVEILANCE(アークテリクス カスタマーサポートセンター:arcteryx.jp)

H:ニットとブルゾンを同じ色で揃えたルックもすごく綺麗にまとまっていましたが、着る人によってはストリートに寄りすぎてしまうと思うんです。裾のたまり方とか、それに合わせる革靴のチョイスとかがやっぱり絶妙で。カーキのジャケットと合わせた「CORBEL PANT」も、丈感とシルエットが全体を上手く整えてくれてましたよね。

M:あれ、すごく良かったですよね。タックが入ってないのに、程良いワイド感があって。ソリッドな素材なのにベルトループがついてるのもアレンジの幅が広がるなと思いました。

H:あと、今回は2ルックの撮影でしたが、シューズの候補を何足も用意してくれるあたりが本当にモハらしいなって(笑)。セレクトしてるものも、ベーシックだけどちゃんと遊び心があるアイテムが多くて、その感覚はさすがだなって思いました。

M:僕の中ではVEILANCEのアイテムにもそういうニュアンスを感じているんです。ソリッドでミニマルだけど、ディテールにちゃんと面白みがある。今回着た中だとカーキのジャケットは袖に切り返しのデザインが入っていましたが、そこからシャツが見える感じとか個人的にはすごくツボでしたね。ああいうディテールがひとつあるだけでいろんなスタイリングに応用できるなと思うんです。

H:あれはVEILANCEならではの良さですよね。袖からニットが覗いてても良いし、スウェットのリブが出てても良いですし。機能性だけじゃなくて、着る人の感性やスタイルを受け止めてくれる洋服。VEILANCEにはそんな懐の深さがあるからこそ、“上品な遊び”がスタイリングに生きてくるんだなってあらためて感じました。

ARTIST
VICTOR TAKERU

21歳で東京に移住後、日本特有の文化を自身の作品に取り込み、出身であるフランスと日本のカルチャーを融合させたユニークな作品を生み出す。2025年1月には個展「EXIT MELODIE」を開催した。

ダウンコート ¥297,000/VEILANCE(アークテリクス カスタマーサポートセンター:arcteryx.jp)、マウンテンブーツ ¥187,000/J.M WESTON(J.M WESTON 青山店:https://jmweston.jp/)

HARU:私の中でタケルの描く絵のテンション感とVEILANCEのソリッドで静けさのある洋服はなんとなく繋がる部分があるなと思っていたんです。タケルが作品のテーマに掲げているアンビエント的な精神性や考え方も共通する部分があるのかなと。

Victor Takeru:作品に対する考え方で言うと、僕が普段から目指しているのは、どこにあってもその場所に馴染んでいくような、静かな存在感を持った絵なんです。主張しすぎないけれど、ふと目を向けた瞬間に心が引き込まれてしまう絵。それはアンビエントミュージックに近いんじゃないかと思っていて。空間の一部として自然に存在して、聞き流してしまうようなさりげなさを持っていながら、気づいた瞬間に心に染み込んでいく。そんな感情を表現したくて、自分の作品のテーマに「Ambient Music Painting」という言葉を掲げているんです。

H:まさにその感覚がVEILANCEのプロダクトにも通じている気がします。気がついたら自分のスタイルに馴染んでいたり、ふとした瞬間に惹き込まれてたりする独特の魅力を持っていて、それはタケルの言うアンビエントに似た要素なんじゃないかなと思いますね。

V:今回着たアイテムも見た目はシンプルですけど、素材の質感とかパターンの切り返しとか、着ているうちに何カ所か面白いディテールに気付くことがあったんです。その奥行きが自分の作品に近いというか、自分の目指す作品づくりに似ているなと感じました。

H:あとVEILANCEのカラーパレットと、普段タケルの作品で使っているカラーがなんとなく近かったりしているところもあって。本当にたまたま今回着てもらったダウンコートの色がタケルの描いていた絵と同じような色味でしたね。

V:ちょうど描いてた作品があの色に近いトーンだったんです。これまで絵を描くときは寒色系を中心に使うことが多かったんですが、最近は作品の中に静けさや哀愁を感じられるようにしたくて、赤や黄色など少し鮮やかな色の組み合わせをすることが気分なんです。なので色使いに関しても親和性を感じる部分がありました。

ニット ¥59,400、パンツ ¥84,700/ともにVEILANCE(アークテリクス カスタマーサポートセンター:arcteryx.jp)

H:スタイリングに関して言うと、タケルはテクニカルウェアの素材を時々取り入れている印象もあるんですけど、全身がいかにも機能的という感じではなくて。そういったバランスを考えた時に、今季から新しく登場したニット「CONIC WOOL MIDLAYER」は、タケルの生活スタイルにも自然と溶け込むような、カジュアルに取り入れられる一着なんじゃないかなと感じました。ダウンコートのルックでは作品の色味を拾いつつ、もうひとつのルックでは、より日常に近いVEILANCEの空気感や親しみやすさみたいなものを表現できたらと思ってコーディネートを組みました。

V: ニットのルックは、パンツにもウールの素材が使われていて、肌触りだったり着心地だったりがすごく良かったです。ちょっとした外出にも、制作に没頭するような時間にも無理なくフィットしていく感じがありました。さりげないけど、ちゃんと芯がある。上手く言葉にはしづらいですけど、そういうものに自分はこれからも惹かれていくような気がしますね。

MUSICIAN / MODEL
JULIA SHORTREED

日本とカナダをルーツに持ち、東京を拠点に活動するSSW。Black Boboi、Quantum Orangeのメンバーとしても活動。ソロでは21年に1stアルバム『Violet Sun』をリリース。モデルとしても活動し、表現の幅を広げている。

シェルジャケット ¥165,000、中に着たニット ¥59,400/ともにVEILANCE(アークテリクス カスタマーサポートセンター:arcteryx.jp)

HARU:ジュリアさんは普段から色使いやシルエットにひと癖ある、シンプルすぎない洋服を選ばれている印象があったので、今回はその感覚を大切にしました。ベースはシンプルですが、首元のチョーカーでアクセントを加えたり、手元にリングを添えたりすることで、ジュリアさんの存在感や魅力をさらに引き出せたらと思ったんです。

Julia Shrotreed:確かに普段洋服を買う時も、衣装として着た後に自分の服にしても可愛いかどうか、みたいな基準で選ぶことはありますね(笑)。ステージで着ている自分が想像できると買ってしまうので、普段着でもどこか衣装的なニュアンスがあるものが多いかもしれません。

H:私も結構同じ考え方で洋服を買っていて、撮影の衣装で使えそうだとか、基本的にそういう選び方をします。今回着用いただいたシェルジャケットも、発色が印象的である一方で、撥水性や耐風性などの機能性が非常に高いんです。ミュージシャンとして活動をされるジュリアさんにとっては、洋服に求める条件も幅広いのではないかと思いました。

J:まさにその通りで、野外でのライブや移動が多い日は気分が上がる洋服に機能性もプラスしたい。今回の水色のシェルジャケットは軽くて着心地も良くて、発色もすごく綺麗でしたね。私の中では「これさえあれば」という一着になりそうだなと思いました。逆にブルゾンの方は触り心地が不思議な感じがありましたが、何の素材なんでしょう。

ブルゾン ¥99,000、パンツ ¥84,700/ともにVEILANCE(アークテリクス カスタマーサポートセンター:arcteryx.jp)

H:ブルゾンは「HollowTex™」というVEILANCE独自のソフトシェル素材を使用していて、ポリエステルがメインになっています。通気性と伸縮性に優れていて、他にあまりないような感触ですよね。

J:見た目と触った時の質感が違うとか、洋服の形に対して意外性のあるテクスチャーとか、普段から素材が面白いアイテムにすごく惹かれるところがあるんです。ブルゾンの素材は肌触りも柔らかくて面白かったし、自分の持っている洋服とも合いそうだなと思いました。

H:いわゆるシャカシャカ系の素材に抵抗のある方でも選びやすい素材感がVEILANCEにはたくさんあるんです。ジュリアさんはミュージシャンやモデルとしての顔だけでなく、母親としての一面もお持ちじゃないですか。そういった日常の中でも活躍する服として、VEILANCEのアイテムはすごくフィットするんじゃないかなと思っていました。

J:たしかに、子供と外に出ている時も急に雨が降ってきたり、自転車で移動している時に濡れてしまうような場面って結構あるんですよね。そんな時に雨を弾いてくれたり風を遮ってくれたりする機能性は本当に助かるし、忙しい毎日を過ごすママたちにとっても心強いと思います。あと、色彩の幅広さが印象的でしたね。Black Boboiの時は基本的に黒しか着ないんですけど、自分のソロとかプライベートの時は発色の良い色を選ぶことも多くて。その点VEILANCEはブラックもあれば発色の良い赤も水色もある。どんなシーンでもVEILANCEの中で選ぶことができる幅広さがすごく魅力的ですね。

H:ジュリアさんのように“日常”と“表現”を並行して生きる方にとって、洋服は自己の多面性を繋ぐツールでもあると思っています。VEILANCEは、まさにその接点に立つブランド。あらゆるシーンに寄り添いながら、個人の感性を支えてくれるようなアイテムが揃っていると感じます。


HARU 東京都出身。2019年よりスタイリスト猪塚慶太に師事後、2025 年に独立。ストリートカルチャーに精通する一方、女性らしく品のある独自のスタイリングで注目を集めている。

VEILANCE カナダ西海岸の山脈地帯に拠点を置く「アークテリクス」から2009年に誕生した都会に生きる人のためのアーバンライン。様々なアウトドアフィールドで培った経験を基盤に「デザイン、クラフトマンシップ、パフォーマンス」にこだわり、最高品質の製品を生み出し続けてきた「アークテリクス」の技術と、革新的かつ洗練されたミニマルなデザイン思想との融合により、さまざまな場面、天候に適応可能な性能を備えた製品開発を追求している。https://arcteryx.jp/pages/veilance

PHOTOGRAPHY: NAITO KAI 
STYLING: HARU 
HAIR: UEJO MIRAI 
MAKE UP: ANNA[JULIA SHORTREED]
TEXT: IKEDA MASATO 

SWITCH Vol.43 No.11
特集 WHAT IS BMSG?


1,430円(税込)