STYLING for VEILANCE

ARC’TERYXで培った技術を生かし、都市生活における快適性とデザイン性を追求した「ARC’TERYX VEILANCE」。25年春夏のアイテムを用いて、3名のスタイリストはその魅力をどのように表現するのか。それぞれの視点からVEILANCEの新たな可能性を探る

INAGAKI YUTO
ドレスウェアとしての解釈

シャツ ¥93,500、パンツ ¥68,200/VEILANCE(アークテリクス カスタマーサポートセンター:arcteryx.jp)、アイウェア/HAFFMANS & NEUMEISTER(コンティニュエ:03-3792-8978)、バッグ/STUDIO NICHOLSON(スタジオ ニコルソン 青山:03-6450-5773)


VEILANCEはすごく都会的でシャープで、いわゆるテックウェアという枠に収まらないなと思っています。ブランドのミニマムなデザインから感じ取れる“エレガントさ”をなるべくスタイリングに生かしたいと思い、今回はテックウェア的な解釈ではなくドレスウェアとしてのアプローチでスタイリングを組んでみました。

ルックで使用したシェルジャケットとウールパンツは素材感も特別強くないので、シャツのような日常的なアイテムと合わせやすい。それら元々のアイテムが持つシャープな印象に加えて、トップスをタックインしてウエストマークを入れて、スエードのバッグを持たせてあげることでエレガントさをほんの少しプラスできるんです。普段この感じのスタイリングを組む時は、タイドアップをしてもう少しタイトなまとめ方をしていましたが、今回のようなストイックな服に対しては襟や袖などでニュアンスを入れたり、温度感を感じられたりする方が今は自分の中でしっくりきますね。

あと、最近気になっているのは人の温度感です。今回のモデルも独特の雰囲気を持っていて、僕の中ではシンプルに立っていることが一番カッコいいなという印象がありました。そんな人物に対してヘアで遊んでキャラクター感を持たせたことも、ミニマムなスタイリングの中にニュアンスや温度感を持たせるひとつのバランスの取り方だと考えています。

今回のスタイリングに限らず、自分の中では基本的にエレガントであることが正義なんです。「ミニマムで美しい」がタイムレスだと思っていて、結局そういうものに惹かれていく。仕事柄、撮影やリースで色々な現場に行くことがあるんですけど、機能面においてもVEILANCEは高いポテンシャルを持っているし、デザインに変な緩さが無くて、シルエットもすごく綺麗に出てくれる。そういった面でVEILANCEはすごく使いやすいなと思いますし、これからも長く着ていける洋服として捉えています。

稲垣友斗 大阪府出身。スタイリスト森田晃嘉に師事後、2018年に独立。繊細で中性的なスタイリングを得意とし、ファッション誌やカタログ、ミュージシャンのスタイリングなど幅広く活躍する

CHINO JUNYA
ファンタジーを描く

コート ¥198,000、シャツ ¥42,900、トップス ¥42,900、ジャケット ¥132,000、ショーツ ¥42,900/VEILANCE(アークテリクス カスタマーサポートセンター:arcteryx.jp



VEILANCEは洗練されたデザインに加えて色彩作りの考え方に現れているような詩的な魅力を併せ持つブランドです。スタイリングを組むにあたって印象の強いアイテムをミックスして要素を足すよりも、ブランドの持つ特性を強調した上に世界観を付け加える方がアイテムもより魅力的に写るのではないかと考えました。なので、今回のスタイリングではストーリー性を意識して、SWITCHを媒介にしたちょっとしたファンタジーのようなものを描き出そう、と。

一番上に着ている定番のモニターコートはゴアテックスの素材が使われていることもあり、雨が印象的な『ブレードランナー』や『ターミネーター』にも共通する無機質なサイボーグ的人物像がビジュアルイメージとして浮かんでいました。削ぎ落とされてミニマルであることが未来的なイメージにも繋がり、自分の中でも腑に落ちたんです。2ページではもちろん描ききれない部分が多いのですが、この見開きを予告編のように捉えてもらって、続くストーリーはみなさんの想像力で自由に膨らませていただければと思います。

クオリティが高くシンプルなVEILANCEのアイテムはある種記号的な服なので、どんな解釈でもできる受け皿の広さを持っています。今回僕は近未来のストリートモード風に見せたいなと思い、レイヤードで作ったトップスのボリュームと対比するようにショーツでメリハリを効かせて、足元にまた大きなボリュームを作るスタイルを組みましたが、もし別の方向性を目指していたとしてもVEILANCEのアイテムであれば違和感なく溶け込むと思います。今回の撮影にも言えることですが、僕自身、ストーリー性や人間像を描く時に洋服がどうあるべきかを考えるのがすごく好きなんです。普段何気なく着ているものに対しても、時には「なぜこれを着るのか」という自分なりの理由を仮定してみると面白いかもしれません。

千野潤也 東京都出身。2018年にスタイリストとしての活動を開始。ブランドのビジュアルディレクション、ミュージシャンの衣装、ドラマ衣装、広告まで垣根なく貪欲に新しいことに挑戦し続けている

HARU
レディーススタイリングの可能性

ブルゾン ¥99,000、シャツ ¥59,400/VEILANCE(アークテリクス カスタマーサポートセンター:arcteryx.jp)、サングラス/Oliver Peoples(ルックスオティカジャパン カスタマーサービス:0120-990-307)、バッグ/Allergy(Allergy:2717.skrk@gmail.com)


今回の企画の中で私が唯一レディースのルックだったので、女性ならではの視点で新しいアプローチができればと思ったところからスタートしました。ブランドのソリッドで洗練された印象を生かしつつ、抜け感や女性のいやらしくないセクシーさを表現したいと思ったんです。

これまでのVEILANCEのアイテムは光沢感のあるものやパキッとした素材感のものが多いイメージでしたが、今季から登場した「LIMINA SOFTSHELL JACKET」にはコットン素材が使われていて、少しカジュアルな印象を受けました。レディースのサイジングでミニマムに落とし込まれたブルゾンとインナーのシャツでVEILANCEのアイテムを取り入れつつ、ファッション性の高いスーパーロングブーツや、あえてスポーツサングラスを合わせたのも自分の中では挑戦でしたね。ブランドを深く理解することで、自分なりの解釈をスタイリングに反映できたと思っています。

スタイリングを組む際に意識していることは、ブランドのコンセプトとイメージに囚われすぎないということです。アークテリクスから派生したラインなので、どうしてもその生地感に寄せてコーディネートを考えがちですが、別素材のアイテムを使ってもスタイリングとしてはもちろん成立しますし、その組み合わせは無数に存在すると思うんです。「一着の服をどれだけ時間をかけて理解するか」ということを私の師匠によく言われていて、例えばカーディガン一枚、シャツ一枚に対してもひたすら向き合ってどういうアプローチができるのかを考えることで、スタイリングの幅が広がっていくのではないかと考えています。全身アウトドアで固めたスタイルを女性に着せるのもカッコいいのですが、今回のようにどこか抜け感と女性らしさのあるアウトドアスタイルは今私の中ですごく面白いなと感じているので、これからもスタイリングワークを通してそのカッコ良さを謳っていきたいなと思っています。

HARU 東京都出身。2019年よりスタイリスト猪塚慶太に師事後、2025年に独立。ストリートカルチャーに精通する一方、女性らしく品のある独自のスタイリングで注目を集めている

PHOTOGRAPHY: IWABUCHI KAZUKI
HAIR: NAKA KAZUHIRO
MAKE: YAMANAKA YUI
MODEL: ABDALLAH、JANNIS、ZHAO
TEXT: IKEDA MASATO