JW Anderson 2024年春夏コレクション「実用性の中に遊びを、そして遊びの中に実用性を」

TEXT: Horiuchi Yuuki

 
2023年9月16日、ロンドンのチョークファームに位置するRoundhouseにてJW Andersonの2024春夏ウィメンズコレクションが発表された。“実用性の中に遊びを、そして遊びの中に実用性を”という文言で始まるプレスリリースの通り、個性的な素材を無邪気さたっぷりと取り入れたコレクションとなった。

ショーの3日ほど前、自宅に帰ると玄関前には透明なプラスティックのパッケージに包まれたオレンジ色の粘土のようなものが置かれていた。「プラスティシーン」と呼ばれる合成材料製の塑造用粘土で、学校で使用されるなどイギリスでは比較的なじみのあるものだが、よく見ると紙のパッケージにはJW Andersonのロゴがあり、ショーの日程と会場が書かれている。少し驚いた後で手に取ってみると、見た目の軽快なオレンジ色とは異なり、予想以上にずっしりとした重みがある。粘土独特の手になじみつつも反発するような感触。包装されているとはいえ、この懐かしい圧倒的な感触と存在感に、生活の中に突然差し向けられた“ナマモノ”といったような印象を覚えた。

当日、ショーではFred again..の楽曲「Danielle (Smile on my face)」が流れ、テンポよく軽快にスタートした。会場のRoundhouseは普段はライブハウスとして使用されていて、その広く飾り気のない会場には白い椅子だけが連なっており、まるで迷路を作るかのように全体に配置されている。
 

JW Anderson 2024年春夏コレクション1


最初に、グレーのフーディに白の短パン、サンダルという一見ラフな出で立ちのモデルが登場し、後に続くモデルたちと共にその迷路状のランウェイに沿って会場中をぐるぐると歩いていく。ジャケットやパンツ、ざっくりと編まれた赤と青の色違いのワンピースなど、JW Andersonらしい比較的シンプルながらも洗練されたアイテムをまとったモデルたちが次々と登場する中、全身にビニール袋をまとったようなモデルが登場した。
 

JW Anderson 2024年春夏コレクション2


トップスとパンツに分かれていて、それぞれ水色/オレンジ、白/ブラウン、イエロー/ブラックの3パターン。つやつやとした光沢がある。トップスはプラスティックの袋に空気をぱんぱんに入れたような半袖のシルエットで、肩についたリボンが袋の口を括ったかのようなデザインとなっているあたりにユーモアが溢れている。素材へのこだわりと遊び心に満ちたコレクションであることは間違いないが、実は最初に登場したフーディとショーツもまた、塑造用粘土で作られていたようだ。アイルランドの企業と制作したというこのフーディとショーツは、スポンジかポテト、あるいは確かに粘土を手でこねている時のような有機的なシルエットを形作っていて、そのためにモデルは背中を丸めたようなふしぎなポージングでランウェイを歩くことになった。

その後も、フェザーを組み合わせたネイビーとシルバー色のダウンジャケットや同素材のパンツ、シルバーのグリッターがキラキラと輝く編まれたスカート、そしてフラフープのような円形のシルエットが特徴的なワンピースなど、色鮮やかでバラエティに富むアイテムが登場し、拍手の中、ショーは幕を閉じた。
 

JW Anderson 2024年春夏コレクション3


ショーの後でインタビューに応じたデザイナーのジョナサン・アンダーソンは、素材や制作過程についての質問に一通り答えた後、「テクノロジーをどうやって芸術的に使うことができるかを考えている」と話した。粘土やビニールなどの圧倒的な物質感を取り込んだ今回のコレクションは、ファッションというものの、着て・触ることのできる豊かさを、そして文字通りその実用性に与えられた遊び心を、正に体現しているのではないだろか。