HM9S作者 Jcドゥヴニ&PMGLインタビュー 第1回

HARUKI MURAKAMI 9 STORIES
刊行記念スペシャルインタビュー​​​​

Jc ドゥヴニ&PMGL

Jc ドゥヴニ と PMGL に訊いた、
バンドデシネってなんですか?​
〜Enchanté Japon!

フランスの気鋭のバンドデシネアーティストであるお二人は、日本でははじめまして(Enchanté!アンシャンテ!)。

まだまだ多くの謎に包まれているお二人に、

・バンドデシネについて
・どうして村上春樹作品をバンドデシネにしようと思ったのか
・影響を受けた日本の漫画家について

などなど、MONKEY編集部が気になることを質問しました。
​​​
​お二人の魅力をたっぷりとご紹介します。
​公式プロフィールは以下のとおりです。

Jc ドゥヴニ Jc Deveney (翻案担当)
1977 年南フランス生まれ。リヨン在住。様々な出版社とコラボレーションを行ない、翻案を手がけた作品はイタリア、スペイン、アルゼンチンなどで翻訳されている。リヨン・バンドデシネ・フェスティバルでは国際的な共同創作プロジェクト「Webtrip comics」や展示の企画を手がける。漫画とイラストレーションの学校で翻案や演劇学を教えている。

PMGL Pierre-Marie Grille-Liou (漫画担当)
1980 年フランス・リヨンのそばで生まれる。リヨンにあるグラフィックの学校を卒業後、雑誌や同人誌、オンラインマガジンなどで活動。ナンセンスコメディ、シュメール神話、ノワール、風刺漫画を好み、コミック・ストリップや短篇、長篇の漫画を発表。2016 年、バンドデシネ『Jojo, moniteur de ski』(B-gnet との共著)がLapin Éditions から刊行された。

1.Jc ドゥヴニ と PMGL (以下Jc、PMと表記)​​​​


——お二人のバンドデシネアーティストとしてのバックグラウンド、二人で活動をするきっかけを教えてください。​​

Jc PMとは2008年に知り合いました。二人ともリヨンに住んでいて、それまでも書店のサイン会とかで何度かすれ違っていたんだけど、最初に話したのはフランスで一番古いバンドデシネ専門書店Expérienceでした。​

僕はフランスの南東部の地中海のそばで生まれて、父親が漫画をよく読んでいたこともあって、子どもの頃から父の本棚から借りて読んでいました。​

高校時代は毎週水曜日にバンドデシネ作家のDidier Tarquinのワークショップに通っていて、おかげで早いうちから今の仕事の本質的なことを知ることができた。物語を語りたいとずっと思っていたから、それを叶えるツールを彼が与えてくれたと思う。​

——幼い頃から漫画に囲まれた環境で育ったんですね。​

Jc 大学では文学と歴史を勉強しました。その二つは脚本・翻案を書くことにとても近いと思っていたんです。フランスではアカデミックな教育の場でスクリプトライティングを学ぶ場所はないから、ケベックのモントリオールに一年間留学し、帰国後、プロのスクリプトライターになろうと決めました。リヨンには16年くらい住んでいて、今もバンドデシネの業界で仕事をしています。​

——PMさんは?​​

PM 両親が昔から本とレコードを集めていて、僕はまだアルファベットを読めるようになる前から、親の本棚にあった漫画の噴き出しを想像でうめていくことで、漫画の読み方を学んだと思う。​​

小学校にあがると、友達が漫画を描いていて、それがお告げというかきっかけになって、友達と一緒に僕も描き始めました。幸運なことに、僕の学校ではドローイングを学ぶ時間があって、いろんな人と描くことへの情熱を共有することができた。それはとても大切な時期でした。

*PMGLが描いた『パン屋再襲撃』の1ページ目ラフスケッチ
PMGLが描いた『パン屋再襲撃』の1ページ目ラフスケッチ

——PMさんも漫画に囲まれた幼少期を過ごされたのですね。​​

PM ちなみに当時のクラスメートだったB-gnetとは、2016年に『Jojo Moniteur de ski』を一緒に出版しました。​​

また『Bang !』という作品では、Jcと Loic Godartとコラボしたんだけど、Loicも元クラスメートです。​​

——すでにフランスではBDアーティストとしてキャリアを積まれているお二人ですが、村上作品とはどのように出会われたのですか?​​

Jc フィリップ・デュピュイとチャールズ・バーベリアンというバンドデシネの作家が、ラジオのインタビューで、村上さんの作品から大きな影響を受けていると話していたんです。僕は彼らの漫画から影響を受けていたので、好きな人たちが読んでいる本を読んでみたいと自然に思いました。​

それで『神の子どもたちはみな踊る』を買って読んでみたら、いい意味で本当に衝撃を受け、物語に驚き、感動し、現実と空想の間を行ったり来たりと気持ちよく漂っているようでした。​​

PM 僕が村上さんを初めて知ったのは、女性誌に載っていた『海辺のカフカ』のペーパーバックの表紙でした。当時の恋人のお母さんの家のバルコニーで見つけたんです。長篇小説よりも短篇集が好きなので、『神の子どもたちはみな踊る』を買いました。​

——お二人とも『神の子どもたちはみな踊る』を買われたのですね。​

Jc 『神の子どもたちはみな踊る』に収録された短篇の中でも「かえるくん、東京を救う」が好きで、読んでいる途中から、構成も、登場人物も、突然起きる最後の展開や、笑いと興奮の間を行ったり来たりする感じも、すべてが完璧だと思った。これを発見したことは大きな喜びであり、書くことの教訓にもなりました。​​

この短篇の翻案をしてみたいと強く思ったのは、後にPMに出会って、村上さんの作品への愛を彼と共有してからでした。漫画に置き換えるというプロセスを通して、二人ともテキストの中に浸り、読書の喜びを再び見つけたんです。​

PM Jcに出会って、カフェのテラスで話していると、お互いの共通の好みの話になって、「かえるくん、東京を救う」は視覚的に解釈するのにすごく適していて、漫画にするのに完璧だといった話をしました。ずばぬけて平凡な男と空想の登場人物たちの闘い、ビジュアルと普遍的なストーリー展開があるとか、そういった話ですね。


翻訳協力:Isabelle Licari-Guillaume

次回は翻案について詳しく聞いていきます。

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