ハンバート ハンバート | 変わらない日常から生まれる音

夫婦デュオとして3人の子どもを育てながら音楽活動を続けるハンバート ハンバート。
生活と創作が地続きの二人だからこそ、日々暮らしの中で心掛けていることは何か。
暮らしが音楽にどのように影響しているのか、佐藤良成と佐野遊穂の二人に話を訊いた

PHOTOGRAPHY : SUZUKI YOSUKE
STYLING : LIM LEAN LEE
HAIR & MAKE-UP : TAKAKI MARICO
TEXT : SUZUKI ATSUSHI

ひとつの曲が生まれるまで

—— 日々の暮らしの中で曲が生まれてくる瞬間についてお伺いしたいのですが、メロディと歌詞、どちらが先に出てきますか?

佐藤良成 昔からずっとメロディが先の、いわゆる“曲先きょくせん”です。逆に“詞先しせん”はないですね。例外としては、お仕事の依頼を受けて楽曲を提供することもあるのですが、その場合は先に歌詞をいただいてからメロディを付けます。ただ、自分たちの楽曲の場合は歌詞から楽曲を思いつくことはまずありません。メロディが出来たら、その場ですぐ詞を付けることもありますが、メロディだけが出来上がっていて詞は15年くらいほったらかしになっている、なんてこともありますね。

佐野遊穂 最初に詞を付けた時はピンとこなくて、少し時間を空けてからまた書いてみて、ということを繰り返しているうちに気付いたら15年くらい経っていたなんてこともあるんです。そして15年目にしてようやく「これだ!」と納得する詞が書けて曲が出来る。そうやってメロディに歌詞が付いたら、今度は私が聴いてみて、「ここはこうした方がいいんじゃない」と意見をしたり、「うん、これでいいね」と、そのまま曲が完成することもあります。

佐藤 要は、最終的には遊穂のジャッジなんです。でも、15年かかったと言っても、その間ずっとその曲だけを作っていたわけではないですからね(笑)。結果、その曲は最初にメロディを作った時から15年の月日が経っていたというだけで。他のミュージシャンはどのように作曲しているのか、僕も気になって様々な方に訊いてみたことがあるのですが、9割近くが曲先なんですよ。その中でも、まだ詞が付いていない状態でアレンジを詰めていって、場合によっては仮のハミングや適当な言葉で仮歌を歌ってレコーディングまで進めて、詞はギリギリまで悩んでいる、という人が多かったんですよね。僕もそんな風に出来たらやりやすいのですが、うちの場合はそのやり方では許してもらえないんです。まだ詞が付いていない状態で遊穂に聴かせたことも何度かあるのですが、毎回「詞がないとわからない」と言われる。結局、詞が付かない限り、楽曲が出来たことにはならないんです、ハンバート ハンバートでは。

—— アレンジやレコーディングを進めつつ、並行して詞を書いていくことができたら、曲作りも楽になるのでしょうか。

佐野 今度やってみる?

佐藤 楽ってことはないですけど、結局は後に宿題を残しているだけですから。もしかしたら、それはそれで苦しいのかもしれないね。

佐野 この詞だからこのアレンジ、という具合に連動しているからね。

自宅での作曲風景

—— お二人は普段はご自宅で作詞作曲作業をされていると思うのですが、その場合、オンとオフの切り替えはどうされていますか?

佐藤 楽曲制作をしているところは人には見せたくないのですが、そうも言っていられない時もあるので、自宅の居間で作ることもあります。子どもたちがドタバタとトランポリンで遊んでいる横で作っていることもありますし。

佐野 作業部屋があるので、そこには基本的に子どもたちは入れないようにしています。録音作業をしている時は、ドアに『あけないでください』と貼り紙をしたりして。

佐藤 それでも入ってくるけどね。

佐野 せいぜい1曲4分程度なんだから、曲が終わるまでは待っていてほしいんですけど、そういう時に限って途中でバタンと音を立てて入ってきたりして(笑)。

—— ずっとご自宅で作業をされていると、煮詰まったりすることはありませんか?

佐野 気晴らしに料理したりするよね。毎回気持ちを切り替えて作業に入るというよりは、そもそもの基本が作業モードなんです。でもたまにオフにしないと疲れてくるので、そんな時は台所に立って玉葱を切って炒めたりしています。

佐藤 料理をしていると自然と無心になれるからね。

—— ご自宅では曲のアレンジまでされるのですか?

佐藤 そうですね。アレンジが一番時間がかかります。昔は曲が出来上がったばかりの段階でミュージシャンに集まってもらって、スタジオでセッションしながらアレンジを決めたりもしていました。でもここ数年はそうしたやり方ではなく、自宅でアレンジまで詰めてからスタジオに持って行くようになりました。そのように変えたのはいくつか理由があるのですが、一番は子どもたちがまだ小さかったので、なかなか二人揃って家を空けることができなかったんです。
 でも、どちらのやり方にもそれぞれの良さがあって、ミュージシャンとセッションしながら積み上げていくことで、自分には無い発想が出てくることもありますし、「この曲には意外とこんな一面もあるんだな」と、人を介して気付くこともあります。一方、自宅で一人でアレンジをする場合は、コンピューターでの作業ならではの利点がある。相手が人だったら何百回もやり直してもらうことはできませんが、コンピューターが相手なら自分が納得するまで延々と詰められるので。

佐野 と言っても、最終的にそれが正しい選択となるかどうかは自分次第なんですけれど。

佐藤 いくらコンピューターでアレンジを詰めていっても、それと寸分違わないものを生で演奏できるわけではないからね。自分でどれだけアレンジまで詰めても、その次のセッションの段階でグッと何かが変わっていきますから。

自宅の庭から生まれる音