COMME des GARÇONS AW2021
Landscape of Shadows 「静謐な世界へ」

3月22日、南青山のCOMME des GARÇONS本社で、2021秋冬のショーが行われた。会場正面には、波に太陽が反射しているような光と影が壁に写っている。スモークがたかれ、ショーが始まる。幻想の中から立ち現れるモデルは雲の上を彷徨っていく……。全部で20体。その中で特に印象的な作品をここに紹介する。

TEXT:Arai Natsu

パニエで美しく円形を描いたドレスが印象に残る。側面から見るとスパッと切ったような半球。モジリアーニが描いた憂いを秘める女、ドガの描いたカフェにいる女。私たちは、19世紀後半の時間旅行を楽しむことになる。

黒の球体を二つ繋げたようにみえるフォルムはまるで、無限大のようにCOMME des GARÇONSの意志を伝えるものだ。過去と現在と未来を瞬時に行き来する。

白い球体のドレスにはジャケットを合わせる。シルクハットのクラウンが高く上に伸び、黒い生地は敢えてカットされ裏地がところどころ見えている。

交差した黒と白のドレスは、太極における陰陽を描いた太陰太極図で、内にある静かなエネルギーと動的なエネルギーを現す。陰と陽、どちらも欠くことはできない。

修道女のウィンプルを彷彿とさせるルック。前で手を重ねている姿は祈りを捧げ、来たるべく世界をのぞむ。その静かな内面には屈することのないしなやかさを感じた。

今季のショーのテーマについて川久保はこう語る。

カラーの氾濫
音の洪水
情報の過多
渦巻く全てのもの
それらから離れてモノクロームの静寂の中での一呼吸

“Landscape of Shadows” 影の風景と題されたショーは、懐かしいだけの黒と白の世界ではない。そこに展開するのは二層構造ではない、混沌の渦中。そしてそのモノクロームの静寂は実にたおやかに私たちを包み込む。深く一呼吸を、と川久保のメッセージを受け取る。過剰な情報が錯綜する今、心を落ち着かせ、静かなる世へと願いを贈る。ただ待つのではなく、わたしは立ち向かうという川久保の強い意志を受け止めよう。地の底から湧き上がるエネルギーが、不安定さをも、きっと力に変えていく。そう、川久保玲COMME des GARÇONSはここにいる。