戦争と平和を伝えるために生み出された絵本に込められた願い、次世代の子供たちへの思いを探る(Coyote No.77/7月15日発売)

7月15日(金)、「Coyote No.77 特集 絵本の中の『せんそう』」が発売となります。

今年5月19日、広島市南区にある最大級の被爆建物「旧陸軍被服支廠」は、県所有の3棟に続き、国所有の1棟の耐震化が表明されたことで、現存する4棟すべてが保存される見通しとなりました。今号ではこの旧陸軍被服支廠をテーマに、作家の池澤夏樹と画家の黒田征太郎が描いた絵本『旅のネコと神社のクスノキ』と連動をしながら、戦争と平和を絵本という視点から改めて考えます。

特集では絵と木工の造形物を用いた絵本『旅のネコと神社のクスノキ』の制作に至った背景や、黒田と池澤がそれぞれ考える戦争と平和について、絵本制作の過程で生み出された絵や木工作品の数々を掲載します。また、陸軍被服支廠での動員中に原爆投下に遭い、奇跡的に一命を取り留めた切明千枝子による被爆証言。原爆や平和に関する絵本を手がけている詩人のアーサー・ビナードへのインタビューも収録。
 

絵本ができる

ある日黒田征太郎からカードが届いた。「今“ヒロシマのこと”を少し手伝っています。あらためて一九四五年八月六日を考えます。 広島駅近くに『被服支廠』と呼ばれる建物があります。四棟からなる被爆遺構です……」

対話
池澤夏樹 黒田征太郎
陽が昇る場所

戦争と平和を考える。絵本の構想を練るために池澤夏樹と黒田征太郎はこの地を訪れた。大きな建物をゆっくりと見て回る。午睡をする一匹のネコ、一本のクスノキが茂った枝を空にかざしている。蔦がもう少しで巨大な建物を覆い尽くす。あと何十年したらこの建物は草で覆われるのだろう。

木と組む絵本を作る
杣工房での仕事

絵本『旅のネコと神社のクスノキ』の制作の最終段階にて、黒田征太郎は岐阜県付知の杣工房に早川泰輔を訪ねた。この広島の物語に木工作品の立体の美しさを取り入れたいと黒田は願った。

アーサー・ビナード
戦争と平和を考えるための4つの質問

戦後77 年を迎えた今、私たちは“ 戦争の語り手” を失いつつある。身近へと戦火が迫り、揺れ動くこの現代社会を私たちはどのように生き延びれば良いのか。そして未来のためにできることとはなにか。 遺構や遺品の声なき声に耳を傾け、さまざまなかたちで日々、語り続ける詩人アーサー・ビナードにひとつの紙芝居を手がかりに話を訊いた。

 

夏にぴったりのアウトドアコンテンツも充実

「サーフィンの神様」と呼ばれるジェリー・ロペスの偉業を、過去のCoyoteの取材から振り返るコーナーのほか、映画『アルピニスト』の公開で注目を集める孤高のアルピニスト、マーク・アンドレ・ルクレールの生涯、登山界最高の栄誉「ピオレドール」受賞のクライマー馬目弘仁や、山岳写真において世界的に評価されている水越武のインタビューなど、アウトドア企画も盛りだくさん。

俳優・イッセー尾形が宮沢賢治の名作を独自の視点から解釈し、新たな作品を生み出す好評連載では『税務署長の冒険』を“カバー”!さらに、漫画家の五十嵐大介のトラベローグと描き下ろしスケッチも収録。

Patagonia
ジェリー・ロペス
海に遊ぶ

世界を旅しながらサーフィンというスポーツをライフストーリーに変えてきた男、ジェリー・ロペス。なぜ彼はレジェンドとして長く憧れの存在であり続けるのだろうか、 COYOTE は彼の魅力を伝えるべく数多くの取材を敢行してきた。彼を追ったドキュメンタリー映画、『ジェリー・ロペスの陰と陽』が パタゴニア・フィルムズより今年8 月に公開される。公開に先駆け、これまでCOYOTE の取材で語ってくれた珠玉の言葉をここに掲載する。 波に乗る、ジェリー・ロペスの魅力的な生き方を考えてみたい。

マーク・アンドレ・ルクレール
ある若きアルピニストの素顔

なぜ冒険家は険しい山をより困難な方法で登るのか、その理由が富や名声でなければ尚のことだろう。ソロアルピニスト、マーク· アンドレ· ルクレールのドキュメンタリー『アルピニスト』が本邦初公開された。この映画の監督を務めたニック· ローゼンの話と、 偉大な功績を残した若きアルピニストの生き様からクライミングという行為の本質について考えたい。

山崎猛と北のアルプ美術館

今年で開館30 周年を迎えた北のアルプ美術館は、山の文芸誌『アルプ』をこよなく愛した山崎猛がその精神を次世代に伝えるために設立した美術館だ。 2020年に山崎猛が急逝した後は妻のちづ子さんが館長に就任し、一般社団法人として運営を続けている。COYOTEが初めて北のアルプ美術館を訪ねたのは2017 年、 『アルプ』責任編集者の串田孫一を特集した時だった。COYOTEの完成直後に再訪し、山崎と交わした言葉をここに。

水越武 夢の軌跡

山岳写真において世界から注目される写真家、水越武。若き日に田淵行男に師事し、数々の山行を共にした後、日本の山岳や原生林、ヒマラヤ、北米・シベリアの森林、 中南米・ボルネオ・アフリカの熱帯雨林と地球をフィールドに半世紀以上写真を撮り続けてきた。北海道の屈斜路湖のほとりに暮らす水越武を訪ねた。

第2回 イッセー尾形
賢治再訪としての『税務署長の冒険』

イッセー尾形が宮沢賢治の世界を旅する連載の第2回は密造酒を取り締まるために活躍する税務署長の姿を描いた『税務署長の冒険』のオマージュ。明治32年の「濁酒密造禁止令」によって自家用酒が飲めなくなった農民達に同情した物語。

五十嵐大介
島或る記

島の数だけ独特な風土と生活文化がある。自然風景や暮らし、目には見えない世界を描いてきた五十嵐大介は数々の神話の舞台として知られる壱岐を訪ねた。古くは魏志倭人伝にも登場し、元寇の激戦地にもなった島を歩く。

戦争と平和、次世代のためにできることについて改めて考えるきっかけとして。また、サマーアクティビティを楽しむヒントとして。今夏をさまざまな視点から充実させる扉となる一冊。ぜひご覧ください。

<以下コンテンツ一覧>

Coyote No.77
CONTENTS
Cover and Contents illustration by Kuroda Seitaro

特集
絵本の中の「せんそう」

12
絵本ができる
文=新井敏記
 
24
池澤夏樹
ヒストリー
陸軍被服支廠
 
30
対話
池澤夏樹 黒田征太郎
陽が昇る場所

 
36
切明千枝子さんのこと
文=松谷文緒
 
42
木と組む絵本を作る
杣工房での仕事
意匠=宮古美智代 写真=ただ
ノート制作=山本千聖
 
55
木で薪ストーブを作る
父 早川謙之輔のこと
文=早川泰輔
 
56
木と遊ぶ 木に学ぶ
早川謙之輔の木工作品
 
64
SESSION
藤原新也 黒田征太郎
戦争画
死を想え、そして生を想え。

 
70
アーサー・ビナード
戦争と平和を考えるための4つの質問

写真=朝岡英輔 文=北澤宏明
 
78
ブックガイド
絵本の中の「せんそう」
3
for Readers
 
82
ジェリー・ロペス
海に遊ぶ

 
92
マーク・アンドレ・ルクレール
ある若きアルピニストの素顔

 
96
THE NORTH FACE
馬目弘仁
消えることのない灯

写真=黒田誠 文=成瀬洋平
 
100
山崎猛と
北のアルプ美術館
 
106
水越武 夢の軌跡
文=奥田祐也
 
112
SEA TO SUMMIT
海と山と人を繋ぐ道
 
114
Foxfire
True to nature
Vol.11 吉田拓
 
116
第2 回
イッセー尾形
賢治再訪としての
『税務署長の冒険』
 
123
森へ 第6 回
青木奈緖
写真=藤原章雄 青木奈緖
 
132
五十嵐大介
島或る記

 
138
最初の一歩 第77 回
五味太郎
絵=楓真知子
 
142
谷川俊太郎 詩
ハダカだから
絵=下田昌克

Coyote No.77
特集 絵本の中の「せんそう」
1,320円(税込)

ISBN:978-4-88418-591-6
2022年7月15日刊行