アウトドア企業「パタゴニア」の食品部門「パタゴニア プロビジョンズ」より、日本初のリジェネラティブ・オーガニック認証(以下RO認証)を取得した自然酒「やまもり 2025」が、12月11日(木)に発売となった。

RO認証とは農業の健全化による地球再生を目指すパタゴニアと他団体によって、2017年に設立されたアメリカの非営利団体「リジェネラティブ・オーガニックアライアンス」が管理・運営する認証制度。「土壌の健康」「動物福祉」「社会的公平性」という3本の柱によって構成され、農地の土壌や生態系の保全だけでなく、働く人々の労働環境やコミュニティにまで目を向けた包括的な内容となっている。現在世界46カ国で約340ブランド、約2,750製品がRO認証を受けている。
今回認証を取得した自然酒「やまもり 2025」は、福島県郡山市で300年以上の歴史を誇る酒蔵「仁井田本家」が醸したもの。仁井田本家は、日本での食と農業の変革を目指してパタゴニア日本支社が2016年にスタートした「パタゴニア プロビジョンズ」の姿勢に賛同し、2021年ごろからパタゴニア日本支社とともに認証取得に取り組んできた。その取り組みは、アメリカの大陸型農業をベースに作られたRO認証にとっても、アジア・モンスーン地域や日本の気候風土におけるROとは何なのかを探求するきっかけとなった。その知見が反映される形で、2025年7月にRO認証における水田稲作ガイドラインが制定され、「やまもり」はその新たな基準に基づいて認証を取得した形だ。それは同時に、世界の人口の約半数の主食である米の栽培方法を改善する指標の誕生にもつながる大きな一歩となった。
11月27日に開催された発表会では、その取り組みの経緯や製品に対する思いが語られた。その一部をご紹介しよう。

(左)パタゴニア日本支社 近藤勝宏 (右)仁井田本家18代目 蔵元・杜氏 仁井田穏彦
仁井田穏彦(以下仁井田) 初めての水田での RO 認証をいただくことができまして、そのお米でお酒を醸させていただいております。仁井田本家18代目蔵元で杜氏を兼務しております、仁井田穏彦と申します。
—— 仁井田さんの自社田で一緒にRO認証取得を目指していこうとプロジェクトがスタートしたのが2021年。今回ようやく認証を取得することができました。この長い旅路はいかがでしたか?
仁井田 うちの自然派の酒造りは、私の父が1965年から地元の農家さんと農薬や化学肥料などを使わない自然栽培での米作りをスタートしたところから始まっています。自分たちの田んぼで農家さんにオーガニックな米作りをしていただいてきたことが、私は地球のためになっているとずっと思っていたんです。だからこそ、パタゴニアさんから RO のお話をいただいたときに、水田から出るメタンガスが二酸化炭素の20倍以上の温室効果があると知ったときは、本当にショックでした。地域、ひいては地球の役に立てているだろうと思っていたことが、実は温暖化の影響を引き起こしていた一つの要因なのかもしれない。それはどうやったら解消できるのか、というところから勉強を始め、認証取得を目指して約5年。ようやく今年認証を取ることができました。まだスタート地点ではありますが、今後どのようなことをしていけばいいのかというのが少し見えるきっかけとなった、とてもありがたい機会だったと、今振り返れば思います。
—— 仁井田さんがおっしゃった通り、水田はメタンガスの発生源となるという話がありますが、その一方で日本の水田には生態系を育んで国土の保全につながる非常に高い環境的価値もある。今回、国際認証を管理するROアライアンスと水田稲作ガイドラインを調整していく中で、その部分がパタゴニアが大きくインプットしたところです。仁井田さんやそのほかのパイロットファームとの取り組みや学びを経て、水田がいかにネイチャーポジティブ(自然生態系の損失を止め、回復させていく)という視点で効果があるのかといったところをしっかりとアライアンスとも話して、今回の国際認証の内容が形作られていきました。単なる炭素の問題と生態系の問題とのトレードオフ関係ではなく、水田を取り巻く自然環境というもともとの基盤があって、そこに対してメタンガス発生を抑えたり、中干し(田んぼの水を一時的に抜いて土を乾かす工程)の期間を工夫したりといった項目があるべきだろう考えて、認証内容が定義されて、無事に日本で認証取得が為されました。もともと仁井田本家さんはオーガニック認証を取得されていましたが、包括的な要素を含むリジェネラティブ・オーガニック認証を目指すことで、少し違った視点で見えてくるものもあったと思います。そこはいかがでしたか。

仁井田 このお酒にも名付けをさせていただきましたが、やはりお酒は米と水で作るので、米を育む水田だけではなく、水を守ってくれる山も大事にしています。その山を守るという意味で「やまもり」でもあったのですが、水田から出たガスも山の樹木が二酸化炭素として吸収してくれる。それは大気というキーワードで言えば、山を守ることで水田から出るガスを相殺し、場合によってはプラスの効果をもたらしてくれるかもしれないということに改めて気付かされました。また、社会的な貢献という視点で言えば、働いているスタッフや水田で米を作ってくれる農家さんに対しても、きちんとした対応をしていくべきなんだということも教えていただきました。最低賃金ではなく、リビングウェイジ(生活賃金)もきちんと考えていきましょう、と。仁井田本家は良い会社を目指したいと思っています。そういう意味でスタッフたちや協業している人たちに幸せになっていただきたいと思っていますので、そこをより鮮明にしていただけたのはとても勉強になりました。
—— 僕も農業のお手伝いやお祝いで仁井田本家さんにお邪魔しましたが、蔵人の人たちが本当にいい笑顔で。認証監査では「ここで働いていてどうですか」というような質問が蔵人の方々にされるのですが、みなさん「最高です」とやはりいい笑顔で答えていた。そういう様子を見ていて、ROのパイロットファーマーとして一緒に歩み、そして認証の取得ができて本当によかったと感じています。今回のRO認証を経て、仁井田本家さんで期待されることなどはありますか。
仁井田 僕の父は50年前から無農薬で蔵元をやってきましたが、それはやはり自然の力を利用するということと同時に、自然に負荷をかけすぎない生き方が永く自然と付き合っていくために大事な手段だという思いでやってきたんだと思います。そういった視点や考えに、いろんな人に関心を持っていただきたい。オーガニックな米作りが自分たちや農業、周りの環境にも良い影響が生む。そういう思いを持ってくださる農家さんが増えれば、日本の水田から環境を再生する力がより生まれてくるのではないでしょうか。あとはROってどんなものなの? と関心を持つところから、認証についても考えていってもらえれば嬉しいなと思っています。
商品情報

〈両製品共通〉 原材料:米、米こうじ アルコール分:13% 生産:仁井田本家(福島県)
日本初のリジェネラティブ・オーガニック認証を取得した、仁井田本家醸造のパタゴニア プロビジョンズオリジナル自然酒。麹米・掛け米は自社田栽培の認証米「雄町」100%、自社山のスギ木桶仕込み。精米歩合85%、汲み出し四段仕込みで甘み・旨み・酸味が調和し、複雑でジューシーな味わい。柑橘系の爽やかな香りと、燗酒で木桶由来の酸も楽しめる。
〈発売場所〉 パタゴニア直営店、パタゴニア公式オンラインショップ、FOOD&COMPANY 全店、ムスビガーデン青葉台店、千歳烏山店、信濃屋 六本木店、cask、ワイン館、ヤマダストアー(一部店舗)、ビオ・あつみエピスリー浜松などで取り扱い。©2025Patagonia,Inc.
イベント情報
パタゴニアでは日本初のRO認証取得を記念したさまざまなイベントを開催する。会場に足を運んで「やまもり」を味わいながら、日本の食や農業の未来、環境保全の知識を深めてみては。詳細はこちら。






















