Travelogue CYPRUS「キプロスへ 」特別版 後篇

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2019年2月23日(土)

海沿いの街レメソスを経由し、アーモンドの村へ向かう。

アーモンドの産地リムナティス村は、来週開かれる花見のフェスティバルを控え、野原の広場は準備の途中だ。主役のアーモンドの花は、昨日の冷たい雨で、花見の盛りは過ぎてしまったが、それでも春色をした光景が遥か向こうまで広がっている。ここの村人は和やかで、すれ違う車からも手を振って迎えてくれる。村に外国人が来ることはあまりないらしい。特に観光名所があるわけではないが、この村に流れる時間はとても豊かだ。土曜の午前中だからか、家族で出かける支度をする人、窓に座って携帯を触る若者、子どもをあやす若い母親、なんてことない日常が村の風景だ。坂道の上の1番見晴らしの良いところに教会があって、小さな子どもが母親と手を繋ぎ、中へと入っていった。猫たちはもちろん、丁度いい自分たちの場所を見つけている。

村人が集まるカフェのカウンターでは、小学生の男の子が中にいる母親らしき女性と話をしている。家にいてもつまらないし、母の仕事場まで来てゲームでもしていようか、という感じだ。入り口では男達が輪になって大きな声で笑い、時々深刻な顔で話をしている。村の名物アーモンドドリンクが出てきた。杏仁豆腐のような香りが鼻にプンと通って身体が温まっていく。採れたてのアーモンドをもらった。外殻は一見固そうに見えるが、2つ一緒に握りしめると簡単にひび割れる。ディミトリスさんが「ほらね!」と教えてくれた。殻から取り出したばかりのアーモンドはしっとりしていて新鮮で甘くて、もちろん美味しい。もう少しここに居たいと呟いてみた。

最後の昼食は空港に近い小さな漁村ジギのレストランだった。岸壁には鮮やかな色のペンキを塗った釣り舟が停泊し、レストランの入り口には新鮮な魚が並ぶ。私の注文は、迷いなく魚のフライだ。レモンをぎゅっと絞り、コリアンダーを乗せて、口を大きく開けて、頬張る。添えられたフレンチポテトをざっくりフォークに突き刺して、頬張る。冷えた白ワインを一口。そしてまた熱々の魚を頬張る。そこに太陽の光と海からの潮風がやってくる。今日は遠洋に立ち上る雲があるだけで、頭の上は真っ青だ。

ふとよぎる。ラルナカで大きな鳥籠を持ってベンチに座っていたおばあさん、今日も海を見ているのかな‥‥おばあさん、どこから来たのかな、と。おばあさんが見ていたものは、海であり、海ではなかった。父のことを知る誰かは、今日もこの島で朝を迎えているのだろうか。「いつかのあなたが差し出した手紙。そこに貼った切手ですよ」なんて想像しないだろうな。そんな知る由もない時間が、私を夢見るところへ誘ってくれる。

空港に到着すると、ディミトリスさんがキャリーバックを手渡してくれた。何から話せば良いか戸惑っていると、「まあ、大丈夫だよ」と言って私の背中をポンとひと叩きした。ああ、ダメだ、泣いてしまった。その瞬間、沈黙の時間は終わり、次の幕は上がった。

旅の前に「タッチ・オブ・スパイス」というギリシャ映画をみた。イスタンブールに生まれたギリシャ人少年が主人公で、キプロスも登場する映画だ。少年のおじいさんは教えてくれる「人生は料理と同じ。大切なのはスパイスの匙加減」と。それぞれの人生にはオリジナルの塩加減がある。それから、必要なスパイスがある。ちょっと塩をつまむ。塩は見えないところで溶けてしみて味になる。大事なのはいつも「私の加減で」ということ。それが最高にしあわせな味なのだ。

おわり

<プロフィール>
高濱浩子 Hiroko Takahama
69年神戸生まれ。アーティスト。無類の旅好き。六甲山麓に座す神社の宮守となり3年目。日々、猫を撫で、海と空を眺め、土を触り、絵を描く。どこか旅に出ては文を記す。

畠山浩史 Hirohumi Hatakeyama
62年生まれ。多摩美術大学建築学科卒業。94年9カ月におよぶニュージーランド滞在をもとに97年、京都で初個展『Kia Ora!』開催。以降関西、熊本を中心に写真展を開催。2009年より熊本在住。
 
 

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トークイベントのお知らせ

今回のTravelogue CYPRUS「キプロスへ 」を手がけた高濱浩子さんと畠山浩史さんによるトークイベントを、神戸のKITSUNE Book & Artで開催します。ぜひ奮ってご参加ください。

イベント 旅先BAR Vol.3 キプロス 〜東地中海、女神の島へ
日程 2019年8月9日(金)
19:00 OPEN
19:30 START
登壇者 旅人 高濱浩子(アーティスト)
写真 畠山浩史(写真家)
ゲスト 伊勢田雄介(職人・デザイナー・編集人)
会場 KITSUNE Book & Art
〒650-0003 兵庫県神戸市中央区山本通1-7-15東洋ハイツ1F Kitanomad 1G
会費 1,000円(1ドリンク付き、要予約)
ご予約、問い合わせ hiroko.aqua@gmail.com
ホームページ http://antenna-web.jp/

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