Travelogue CYPRUS「キプロスへ 」特別版 前篇

Travelogue CYPRUS「キプロスへ 」特別版 Day2-1
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2019年2月20日(水)

早朝、人の匂いを求めて再びレドラ通りへ向かう。通りは夜の賑わいの気配だけ残している。猫はまだ寝ているのか姿が見えない。レストランが開く頃には起きてくるのだろう。脇道の建物から女性が慌ただしく出てきた。どこにでもある朝の光景だけど、ここに誰かが住んでいることに安心した。

レドラ通りから城壁に向かったところに中央郵便局がある。2階建てのこじんまりした建物で、扉を押して入ると数人の職員が郵便の仕分けをしていた。客もそれほどいない。オフィス街から離れた旧市街の郵便局という感じだ。カウンターで記念切手を買い求め、キプロスから帰った自分宛の手紙に貼り付けた。父へ宛てられた郵便には、レフコシアの別名ニコシアの消印があったことを思い出した。もしかしたら父への郵便もこのカウンターから出されたのかもしれない。レドラ通りに戻ると、樹の下から靴磨き屋が手招きしていた。私は布地の靴だったが用意された木の椅子に座ってみた。靴磨き屋はブラシを持って左右に大きく腕を振り、埃を吹き飛ばし始めた。ブルガリアから渡ってきて10年経つという。何の因果でキプロスに来たのだろうか。

銅の語源はキプロスに由来するとも言う。昔々、子孫繁栄を司る豊穣の女神の石像作りのために、工夫がトロードスの山に入り採石をしていたところ、暖を取っていた火が岩場に燃え移り、ドロドロと銅が流れ出したそうだ。そこから石と銅の時代が始まり、キプロスは銅の島として発展していった。

これまで発掘された豊穣の女神は博物館に展示されている。十字の形をしていて、顔はまん丸く首は長く、腕を広げ、膝を少し曲げている。よく見ると首に同じ様な形の「こども」を下げている。母子を表わす像だという。その姿は
   
宇宙人みたいで愛嬌がある。古代の人たちは宇宙人を知っていたのかもしれない、なんて思った。豊穣の女神信仰はその後ギリシャ人が入ってきて、神話に登場する愛と美の女神アフロディーテへと移る。その後キリスト教が誕生し、聖マリア信仰へと変わっていった。

レフコシアを出て、レースで知られるレフカラ村へ向かう。車窓から、白い花をつけたアーモンドの木を見つけた。丘陵地が続く。ここではどんな小さな村にもギリシャ正教の鐘楼はあるそうだ。レフカラ村は標高約750メートルの海を見下ろす斜面にある。ヴェネチア支配下にあった15〜16世紀は保養地だった。村の女性たちはヴェネチア貴族から技法やデザインを学び、より美しく繊細なレースを作った。レオナルド・ダ・ヴィンチも村を訪れ、ミラノの大聖堂の祭壇布として持ち帰ったらしい。

村に着くと、土産物屋の店先で女性たちが針を刺している。観光に力を入れている村の中心は、美観地区のように整備されている。1軒のレース店に入り話を聞くと、レフカラレースは母からの記憶を頼りに下書きなしで針を刺すという。幾何学模様の図案と、ホワイト、ダーク、ベージュの3色の糸づかいがとても美しい。

銀細工とレースの店が並ぶ目抜き通りを抜けて先へ進む。石壁の隙間から野花が背を伸ばし、風の方向を指している。白や黄色の蝶々が舞い、カタツムリが眠る。春の匂いがする。細く曲がりくねった先の見えない路地を、陰を手掛かりにして道を探る。そういえば、村には町のように信号はない。通りの看板もない。通りの名前もないのかもしれない。

村を後に、ここからは海へ下り、愛と美の女神アフロディーテ生誕の地、ペトラ・トゥ・ロミウを目指す。海岸線は太陽が主役だ。空も海も夕日色になっている。聖なる浜へ降りると、女神が生まれた大きな白い岩山が現れた。足元にはピンクや緑や青の石に波がザブンと音を連れてきた。今夜は満月だ。

後篇へつづく

<プロフィール>
高濱浩子 Hiroko Takahama
69年神戸生まれ。アーティスト。無類の旅好き。六甲山麓に座す神社の宮守となり3年目。日々、猫を撫で、海と空を眺め、土を触り、絵を描く。どこか旅に出ては文を記す。

畠山浩史 Hirohumi Hatakeyama
62年生まれ。多摩美術大学建築学科卒業。94年9カ月におよぶニュージーランド滞在をもとに97年、京都で初個展『Kia Ora!』開催。以降関西、熊本を中心に写真展を開催。2009年より熊本在住。

トークイベントのお知らせ

今回のTravelogue CYPRUS「キプロスへ 」を手がけた高濱浩子さんと畠山浩史さんによるトークイベントを、神戸のKITSUNE Book & Artで開催します。ぜひ奮ってご参加ください。

イベント 旅先BAR Vol.3 キプロス 〜東地中海、女神の島へ
日程 2019年8月9日(金)
19:00 OPEN
19:30 START
登壇者 旅人 高濱浩子(アーティスト)
写真 畠山浩史(写真家)
ゲスト 伊勢田雄介(職人・デザイナー・編集人)
会場 KITSUNE Book & Art
〒650-0003 兵庫県神戸市中央区山本通1-7-15東洋ハイツ1F Kitanomad 1G
会費 1,000円(1ドリンク付き、要予約)
ご予約、問い合わせ hiroko.aqua@gmail.com
ホームページ http://antenna-web.jp/

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