【LONG INTERVIEW】『Sol Levante』誕生秘話
VOL 01 表現力と技術力は呼応する

現在Netflixで独占配信中の、世界初4K HDR手描きアニメーション『Sol Levante』。手で描いた線が、4Kのスケールで、これまでよりも遥かに色数の増えたHDRの色彩で、動き出す。本作がいかに新しく、いかにチャレンジングであるか、既に『Sol Levante』をご覧になった方には説明不要だろう。

本作は、NetflixとProduction I.Gによる共同プロジェクトとし て、アニメーションの新しい可能性を探るため、当初はあくまでも試験的に制作がスタートした。制作メンバーは、企画から監督、エフェクトなどを担当した齋藤瑛、キャラクターデザインから作画、動画などを担当した江面久、色彩設計と衣装コーディネートを担当した田中美穂の、全3名。かなりの少数精鋭体制で制作されていった本作は、約2年の制作期間を経て、4月2日に遂に全世界190カ国での配信がスタートした。

齋藤と江面、田中に、本作に馳せる思いを訊いた。

 

Sol Levante場面カット1

 

Production I.GがNetflixと手描きの4K HDRアニメ作品をつくった理由
VOL.01:表現力と技術力は呼応する

齋藤 私と江面さんは、『BLOOD THE LAST VAMPIRE』(2000)や『イノセンス』(2004)の頃、いわゆるアニメーション自体がデジタルに移行するという時代からその先頭に立ってやってきました。『イノセンス』でデジタルへの移行という意味でのひとつの頂点を迎えてから、アニメ業界自体はテレビシリーズを大量に作って回していくという方向に変わっていきました。それはそれで正解だったと思うし、生産力の面から見たら正しいと思うんですけど、それが全てになっていくのはどうだろう、という思いが私にも江面さんにもあって。もっと表現力の方向でいろんなことがデジタルにはできるはずだという思いが強くあって、いろいろ試行錯誤を繰り返しながら研究を続けていました。2013年頃に4Kが出てきて、これは絶対に4Kをやるべきだということで試してみたら「いけるぞ」と。そこから実際に4Kで作ったアニメーションを持っていろんな人にプレゼンして回っていたんです。みんな反応は良いんですけど箱がなかなか見つからないまま月日が過ぎていってしまっていたので、今回Netflixからお話をいただいた時は「やっと来たぜ!」と(笑)。
 作りたい映像のイメージがあって、それを表現できるほどに技術が追いついてくるとやっぱり嬉しいじゃないですか。それで、じゃあ今度はこんなことができるよねってやっていくと、また技術が上がってくる。表現と技術は、両方刺激しあって上がっていくものだと思います。

江面 私が4Kをターゲットにしようと決心したのは2014年の夏頃でした。その年の冬に5Kのディスプレイを搭載したiMacが登場して、初めてドットバイドットで4Kの絵を見たのですが、鉛筆で描いている人のその時の感情までも映し出すくらいの緻密さで、「思った通りだ!」と4Kの可能性を確信したんです。しかしそこには絵をパソコンに取り込む際の解像度の問題がありました。A4サイズの紙をどんなに高い画質で読み込んでも、それを4Kで見ると黒鉛の粒子が見えてしまうだけなんですよね。だからといってA3の紙を現場でバサバサやるわけにもいかない。どうやって4Kの絵をパソコンに入力したら良いのか考えあぐねていたところ、翌年にiPad Proが登場したんです。それで全てが解決。タブレット自体は4Kではないですが、拡大しながら描けば4Kに対応できます。

齋藤 今では、私たちのチームで作る尺の短いものに関してはもうほとんどペーパーレスになっています。

———— 紙とタブレットでは線を描く感覚が違うのではないですか?

江面 確かに違うんですけど、筆圧に対してのレスポンスなどの細かい設定を改良して、自分の描き方にあったプリセットを作っていったんです。自分の体をニュートラルに沈めて、これ以上力を入れると肩に負担がかかってしまうなとかを感じながら、筆圧設定を決めていく。私はどうしても思いを込めて描こうとするから筆圧が高くなってしまうんですけど、筆とか鉛筆だとあるところで折れてくれるので、危険な筆圧に気がつけていた。その点ペンタブは芯が折れることがないからそこに気が付けず、肩を壊しかねないんです。繊細な線を描くにはガジェットのプリセットにこだわる必要がありました。あと、タブレットだと物理的な面積に束縛されない。そこは大きいです。昔の作品で、手を取り合って回っているカップルを360度追うというシーンがあって、それは机三個分くらいの横版を用意してかなり大掛かりに撮っていたんです。でもデジタルだとタブレットの中で収まってしまう。私は整理整頓があまり得意ではないので、大判紙で描いていて手の角度に合わせて紙を動かした時とかに、机の上に置いていたいろいろなものがよくバラバラとなぎ倒されてしまっていたんですよね(笑)。そのようなことがあるので、物理的なものの束縛から解放されるというのは大きいと感じています。むしろ今は、逆に鉛筆の方が融通利かなくて嫌だなと思っています。紙に描いている時に拡大しようとしちゃったり、とりあえず描いて後でずらそうと思っても、「紙だと切らないとずらせないじゃん」となったり。

『Sol Levante』のキャラデザ、作画、技術監督を務めたアニメーター・江面久

『Sol Levante』のキャラデザ、作画、技術監督を務めたアニメーター・江面久

 ただこれまでは紙のアニメーターでずっとやってきた経験があるので、その癖はついつい出てしまいますよね。知らぬうちに描いていた点を消しゴムのカスだと思って息で「ふっ」としてしまったり、朝出社して「よしやるぞ」という時に、つける必要のないライトボックスの電気をつけたり……(笑)。

田中 江面さんが描いてくださった繊細な線を、タブレットだとそのまま生かせるんですよね。紙だとどうしても線は劣化していってしまうので、繊細な表現は難しい。

齋藤 例えば今回の髪の毛の線は、紙だと潰れてしまうんです。今の日本のアニメ制作では、色を塗りやすいように本当はグラデーションのある線でも白黒はっきりと二値化してしまいます。それをもう一度ぼかしてガビガビの線に見えないようにしてから撮影する、という進め方をしているので、最終的にはサインペンで書いたような線に見えてしまうんです。いくら細かく描いても、結局ベタッと潰れた状態の線になってしまう。

江面 一番細い髪の毛で1pixelくらいかな。なので2Kでは0.5pixelになって溶けて見えなくなっちゃうんですよね。溶けずに動いてくれているのは、やっぱり4Kだからですね。

     

田中 普通はキャラクターを全部手で描いてそれを動かして、という流れで進めていくのですが、今回は“カットアウト”というパーツごとに塗って動かしていく手法をとっています。だから、かなり細かい髪の毛の動きが3Dではなく江面さんが手で描いた線で実現したんです。

齋藤 江面さんの作画を、デジタル計算ではなく人間の感覚で動かしているので、3Dのような動きにはなっていません。

江面 昔は髪の毛の動きも作画でやっていましたが、どうしてもぶれてしまったり三本あったものが次の絵で一本どこかにいってしまったり。今回は、一本一本手描きしたものをコンピューターでコピペ機能などを駆使しながらそれぞれに動きをつけていっています。私が軌道を設定して、地道な作業の部分はコンピューターの方で進めてもらう。それでもレンダリングには22時間ほどかかって、プレビューして見るとどこかの動きが失敗していたりして、そうするとまた全部やり直さなくてはいけない。骨の折れる作業ではありました。カットアウトを用いることによって、田中さんにはプラモデルのパーツみたいな状態の絵から、組み立てた絵を想像しながら塗ってもらいました。これは相当色彩の経験がないとできない作業だと思います。

田中 面白かったです。設定の絵を横に重ねて確認したり、こうなるのかな、とか想像しながら、江面さんの描いた綺麗な一本に色を塗って出す、という(笑)。今の現場は本当に時間のない中でやっていて、そうするとどうしても絵は崩れてきてしまう。時間のない中で綺麗に上げていくにはカットアウトって良いなと思います。

パーツごとに動かすカットアウト手法を用いて色を塗る色彩設計・田中美穂

パーツごとに動かすカットアウト手法を用いて色を塗る色彩設計・田中美穂

4K HDR手描きアニメを世界にプレゼンする

齋藤 今回は、二値化すると絶対出せないようなニュアンスを出そうというところでキャラクターデザインを考えてもらっていますし、背景の細かい作り込みも、4Kを最大限に生かすにはこうだろうな、と思うものにしています。

江面 2K SDRの感覚で企画していったものをただ4K HDRにグレードアップして流しても、今回の作品のようにはいかないですよね。

齋藤 色も、今までだったらどうしても出なかった色をたくさん使おう、と。

田中 『Sol Levante』で使っている青色は、普通の画面では出にくい色なんです。SDRだと明るい部分は色を乗せるても白くなってしまうんです。それが今回は綺麗に出てくれていて、「光に色がつけられるんだ!」という感動がありました。

齋藤 私自身、4K HDRを手にした時の感動がものすごくて、たくさんの色が出るだろうからいろんなシチュエーションを入れたいと思ってコンテを作っていったんですけど、実際に作った映像を見てみたら想像をはるかに超えていて。これは新しい映像の時代が始まると思ったんです。新しい時代が始まったら、きっと表現の方法も変わってしまうから、私たち制作する側の映像との向き合い方、気持ちも変容していかざるを得ないと感じています。タイトルの『Sol Levante』というのは“朝日”とか“日の出”、という意味があって、水平線から新しい映像時代の太陽が昇る、という思いを込めているんです。

江面 知り合いのアニメーターに「未来はこういうアニメだけになっちゃうのか」と聞かれて、「いやいや」と。どんなに時代が進んでも、やはりラーメンやかけうどんは食べたいじゃないですか。ただ単に、幅が広がるということなんですよね。

齋藤 ひとつの方向性として、こういう見せ方、作り方があるよ、というプレゼンだと思っています。だから、例えばもっと簡単な感じの絵でHDRをより打ち出した方向性での作品もあると思いますし、4KもHDRもすごく懐が深いものだと思います。ただ、手描きの4K HDR作品をゼロから作るのは今回が本当に世界初だったので、まだ4K HDRが何かを知らない人たちに「これはとんでもないぞ!」と思ってもらうためには、この方向性で勝負したかったんです。

企画から監督、エフェクトなどを担当した齋藤瑛

企画から監督、エフェクトなどを担当した齋藤瑛

 

[VOL.02:日本のアニメーションが生き残っていくために]へ続く

 

『Sol Levante』について

辿り着いた者の望みを叶えると言い伝えられる「聖地」を探して、ソワフとオブリヴィオンは遺跡を暴きながら旅をしていた。ある時「遺跡の守護者」と「聖地の四大精霊の怒りに触れてしまった二人は次第に追い詰められていく……。Production I.GとNetflixが送る、世界初の4K HDR手描きアニメーション作品。