FROM EDITORS「研学にいそしむ」

11月札幌の小さな寿司屋でたった3人の旭川西高校の出身の同窓の集まりがあった。六十代、五十代、そして四十代の気の置けない3人の仲間は旭川西高校の校歌を再開するとすぐに歌った。もともと女子校だったこともあり、少ない男子の結束は固いものがあるのかもしれない。門外漢だが共通の友人として僕は傍らにいた。

研学いそしむ殿堂あり 白亜醒し 堅忍、揺がず 高邁、驕らず

石狩川から大雪山を眺めるように姿勢をただし、遠くを見やる3人の男、六十代の男は大手書店勤務、五十代の男は出版社の編集者でともに東京在住だった。四十代の男は北海道を拠点に活躍する演劇ユニットTEAM NACSの森崎博之だった。彼は高校卒業後、指定校推薦で北海学園大学に進学し、演劇研究会で後にTEAM NACSのメンバーとなる仲間と出会っていた。今では大泉洋をはじめTEAM NACSの5人は映画やテレビ、演劇など多彩な活躍を見せ、舞台も圧倒的な人気を確立している。

僕の出身が茨城県だと言うと、森崎は10月の台風は大丈夫でしたか? と訪ねてきた。なんとか大丈夫でしたと答えると、それはよかったと彼は微笑んだ。雨風はもちろん大変だが、何よりも深刻な問題は停電だと彼は続ける。今は牛の乳搾りはバケットミルカーという搾乳機で機械化されており、停電だと乳が絞れないので牛は高熱を出して死んでしまうのだ。搾乳牛は1日100リットルの水を飲むが、停電になると揚水ポンプも止まってしまう。そのため水源から水をくみ上げ、搾乳も手で行うことになる。しかしその乳は殺菌できず、全ては廃棄処分となる。

「人間もそうでしょう。赤ちゃんが乳を吸わないと母親はおっぱいが痛くなって熱が出る。ああ、台風で何万頭の牛が死ぬんだろうと思った。牛を殺さないよう酪農家は徹夜の作業を続け、農協の人は山を越えてたとえ家と家とが30キロ離れていても発電機を1軒ずつ持って回る」

森崎は続ける。「うちのじいちゃん、ばあちゃんは東川町の米農家でした。田んぼと畑が僕の遊ぶ場所だった。台風で土が流れる、悲しかったです」

森崎は個人の活動は食を中心としたものだという。

「地方に行った時にファミレスに入ったら、セットで980円。この安さでは不味いだろうと覚悟したけれど、スープも肉も美味しかった。でも付け合わせのブロッコリーは思わず吐き出してしまいました。これはブロッコリーじゃない。こんなの食べたら一生ブロッコリーを食べられない人になってしまう。だからお母さん、子どもが野菜を食べられないと言っても怒らないで、と思った。トマト嫌いの子を野菜農家に連れていって食べさせてあげたら変わる」

森崎はアグリカルチャーの大切さを明日に伝えるべく研学に勤しんでいく。大事な校歌は一番しか覚えていない男が、なんだか優しい。

スイッチ編集長 新井敏記