Foxfire True to nature Vol.8 田代法之

自然に挑むのではなく、自然と共に生き、
自然に対して真摯であること。
表現者は自然の声に耳を傾け、生きる知恵を学ぶ。
日本のフライフィッシングの発展に貢献してきた
田代法之が考えるフライフィッシングの醍醐味とは。

Foxfire True to nature  Vol.8 田代法之

田代法之 54年生まれ。神奈川県在住。豊富な水生昆虫の知識と確かな技術を併せ持つ、日本でのマッチング・ザ・ハッチの先駆者。スクールのインストラクターとしても長年にわたり活躍する。

写真と構成=Coyote

 

フライフィッシングの幹

辺りが明るくなりだす朝まずめの頃、田代法之は膝下まで水に浸かり、小さな水生昆虫たちが群がる水面に向けて、何度も毛鉤を投げ入れる。スナップを効かせながら巧みに竿を操る様子はまるでオーケストラの指揮者のようだ。田代がこの日使っていた竿は一見子ども用とも思える5フィート(約1.5メートル)の短い竿だったが、60センチを超すニジマスを見事に釣り上げた。

「最近では様々なハンデを自分に課して釣りを楽しんでいます。僕も7フィート(約2.1メートル)を超す普通の長さの竿で長年釣りをしてきましたが、同じスタイルを続けていると、釣れば釣れるほどどこかつまらなくなってくるんです。だから極限まで竿を短くし、ラインも短くて細い、切れやすいものを使って狙った大物を釣る。そして使うフライはドライ(水面に浮く成虫を模倣)のみ。水に沈めるニンフ(幼虫を模倣)のほうが簡単に釣れてしまうから、水面での魚との勝負にこだわっています。

フライフィッシングの原点に立ち返ると、ニンフやストリーマー(小魚を模倣)といった様々なフライというのは大きな木の枝葉に過ぎない。17世紀にアイザック・ウォルトンが『釣魚大全』の中でフライフィッシングという釣りを紹介した。ここからフライが始まったと言っても過言ではありません。川から出て羽化をする水生昆虫を真似て毛鉤を作り、その時期に食べる虫を見極めて魚を釣るという〝マッチング・ザ・ハッチ〟こそがフライの根本原理であり幹なんです」

Foxfire True to nature  Vol.8 田代法之 2

田代がこれまで自作した毛鉤は300種類にのぼる。それだけの数の水生昆虫を研究してきたのだ。

「魚の捕食対象である膨大な虫の中から、魚にとっての旬の虫が何かを見極めます。初めて来る場所では、まず周囲の自然と虫を観察することから始めます。例えばその川には100種類の虫が飛んでいても、釣った魚の胃から出てくるものは3種類だけだったりする。魚も選食をするし、食事時間と出現時間が被る虫を食べていたりしますから。そうした食物連鎖や自然のドラマの中に我々人間は参加させてもらって釣りをしていることを忘れてはいけません。そうでなければ、釣れれば何をしてもいいという考えに陥ってしまう。ガイドもお客さんに釣らせるために手段を選ばなくなる。魚の活性が上がるのは自然に任せるべきだし、釣れない時があるのは仕方ないんです。相手は自然だから。自然に嫌われてしまったら釣れません。釣り人に謙虚な気持ちがなければ、川は汚れていくし、魚も増えないと僕は思う」

フライの黎明期とティムコ

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田代とFoxfireの母体であるティムコとの関わりは1970年代初頭に遡る。

「当時麻布にあったティムコの店舗によく通っていました。店内の装飾がログハウス風になっていてかっこよかった。壁にロッドがずらっと並んでいて、日本では誰も見たことがないような珍しいアウトドアグッズも扱っていました。まだアメリカからアウトドアブームが到来する前のことです。

ある時、親しくさせていただいていたティムコの常務に自作していた毛鉤をお見せしたことがあります。すると、この毛鉤をティムコで商品化しないかという話になり、76年に『タシロニンフ』として発売しました。続いて常務から提案されたのが水生昆虫の本の出版でした。毛鉤の元となる水生昆虫の研究抜きには、毛鉤は作れませんからね。75年にそのような話をして、81年に『水生昆虫とフライフィッシング』という本を出版できました。完成まで6年かかった。一種類ずつ虫を飼って、幼虫、亜成虫、成虫となる様子を撮って、それを参考にフライを作ってひとつずつ試していたら、それだけの時間が必要でした。ティムコでなければこの本は作れなかったと思います。当時からティムコは、これから日本のフライフィッシングはどういう方向に向かうのか、そのために何が必要になってくるのか、わかっていたんですね。それ以降も商品開発に携わらせていただき、また長年ツアーやスクールのインストラクターもさせていただきました。

Foxfireができたのは82年。本を出版した時、来年から社運を賭けたプロジェクトが始まると聞かされていたんですが、それがFoxfireだった。〝True to Nature〟という現在の理念に通じるブランドの姿勢は、当時から一貫していますね」

理想的な釣り場づくり

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本来キャッチアンドリリースとは、魚の個体数を減らさずに釣りを継続的に楽しむための暗黙のルールだったが、田代にとっては別の狙いがあった。

「インストラクターとして釣りを教える際には、魚こそが最大の師匠であり、僕が教えられるのは入り口だけだと伝えています。フライフィッシングの醍醐味は、利口な魚相手にいかに難しい釣りを楽しむかに尽きると思います。利口な魚こそ様々なことを教えてくれるし、魚を利口にさせるのがキャッチアンドリリースなんです。彼らと渡り合うために創意工夫することで初めてフライの文化は盛り上がっていきます。

アメリカでは難しい川が年々増えています。その究極が、アイダホ州のシルバークリーク。ここはアーネスト・ヘミングウェイの息子ジャック・ヘミングウェイが基金を集めて買い取って保護区にしたことで、60年間キャッチアンドリリースが徹底されている。つまり、歴代の有名フライフィッシャーたちと対峙してきた百戦錬磨の大物のマスとの知恵比べが楽しめる川なんです。ここの魚は実に賢い。釣り人を意に介さず、毛鉤には見向きもせずに目の前を悠々と泳ぐんです。まさに最高の師です。現地の釣りのガイドですらまともに釣れないので、こちらの姿が見えない夜に釣りに行くんです。それも新月の真っ暗闇の中で。水中には藻がびっしり生えているので、昼間のうちに藻の茂っている位置を把握して、魚をどう追い込むかをシミュレーションしてから臨みます。僕は25年以上通い詰めていますが、攻略するまでにずいぶん時間を要しました。でも、その試行錯誤の時間が面白いんです」

Foxfire True to nature  Vol.8 田代法之 5

 
世界中の釣り場を渡り歩き、国ごとの釣りのスタイルを理解している田代は、モデルケースとなるような釣り場を日本にも作るべく尽力してきた。

「10年かけていい釣り場を作り上げても、たった1回の大水で台無しになってしまう。だから大水が出にくい湧水主体の川、いわゆるスプリングクリークのような川を探すことから始めました。ここ忍野や日光の湯川、北海道の阿寒のような場所です。でも、いい川を見つけても、突然ここに釣り場を作りたいと言ったところで、地域の漁協は取り合ってくれません。そこで、河川調査をして、いかにこの川が魚の生育に適した素晴らしい川であるかというデータを地道に収集していきました。阿寒川では20年かけました。そうした裏付けをとることで、少しずつ受け入れられていきましたね。

海外の例を挙げると、アメリカでは一つの河川に適正な数のトラウトが棲むように放流をしています。魚が増え過ぎると餌が足りずに小さくなってしまうので、魚が想定よりも多い場合は子どもやお年寄りにエサ釣りなどで自由に釣らせて間引くことで数をコントロールするのがアメリカのスタイル。反対に、一つの河川でどれだけ大きなトラウトを育てられるかというのがニュージーランドのスタイル。でもガイドを雇ってしか行けないような川がほとんどで、警戒心の少ない魚ばかりで僕には面白みに欠ける。

日本はアメリカの釣りから学べることがたくさんあります。アメリカで釣りをしていると、よく帰り際に『楽しかったかい?』と話しかけられるんです。日本のように数や大きさのことなんて聞いてこない。何センチの大物が何匹釣れた、なんて答えるとキョトンとされますよ。人に喋るための釣果なんてどうでもいいんですよね。いかに楽しんだかが何より大事。そこのところを理解していないと、いろんなことを勘違いしてしまうと思います」

Foxfire「チェストストラップベスト」

賢い魚と、真摯に向き合う
チェストストラップベスト
キャスティング時の腕動作を妨げず、高い収納性を誇るチェストパック仕様のフィッシングタックルベスト。前面外側の2つのフラップ付きポケットや、左右側面のフロータントホルダーで、効率的な釣りをサポート。背面のゲームポケットには、雨具はもちろん、仕舞寸40cmまでのパックロッドも収納が可能。カラーは3色。¥19,800(税込)
<問い合わせ>株式会社ティムコ 03-5600-0121
more info ☞ www.foxfire.jp

 
 
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