『竜とそばかすの姫』細田守 本誌未収録インタビュー
Vol.1 なぜ “シネマスコープサイズ” だったのか
SWITCH 2021年8月号 特集:SOUNDTRACK 2021

本誌SWITCH 2021年8月号では、最新作『竜とそばかすの姫』について主に「歌」や「音楽」の面から訊いた細田守監督インタビューを掲載したが、ここでは、その本誌には収録しきれなかった、主に「映像表現」の面についてのインタビューを、4つのトピックに分けて紹介する。

Vol. 1 なぜ “シネマスコープサイズ” だったのか

――――『竜とそばかすの姫』の映像表現の面で、新たな挑戦となったポイントはいくつかあると思いますが、今作で初めて映画本編のスクリーンサイズとして「シネマスコープサイズ」(縦横比1:2.35)が採用された、というのは一つ大きなポイントだったと思います。『時をかける少女』から『未来のミライ』までの5作品はすべて「ビスタサイズ」(縦横比1:1.85)で制作されてきた中で、今回なぜシネマスコープサイズが選ばれたのでしょうか。

細田 実は『バケモノの子』の頃からシネスコにしようか、という話はあったんです。『未来のミライ』の時も検討しましたが、アクション映画でもないし、大群衆が出てくるような映画でもないんだから、ということで結局ビスタになりました。二回見送っているんです。

 なぜ見送ってきたかというと、現場がどうやりやすいか、ということが大事だったから。具体的には、アニメーターが原画や動画を描く「動画用紙」という紙のサイズの問題です。単純にビスタのほうが紙が小さいから、絵が描きやすいし、パラパラ紙をめくってキャラの動きをチェックしたりする作業もやりやすい。

 シネスコ用の動画用紙って、すごく横に長くいんです。スタンダード(縦横比3:4、地上デジタル化以前のテレビの画面サイズ)、ビスタ、シネスコと順に比率が横長になっていく時、動画用紙は天地の長さが変わらずに、横に長くなっていく。だから、シネスコだと紙がすごく大きくなってしまう。現場のアニメーターがそれをパラパラめくったりするのが大変だ、ということです。

 でも歴史を振り返ってみれば、僕らの先輩である昔の作り手たちはそれをやっていました。僕や作画監督の山下高明さんが在籍していた東映動画(現・東映アニメーション)には、「東映長編」と呼ばれる長編アニメーション映画の歴史があり、それらはすべてシネスコで作られていました。一番最初の『白蛇伝』(1958)から最後の『龍の子太郎』(1979)まで全部シネスコです。

 でも今はこんなに大きな紙ではできない、という躊躇がこれまではあったんですけど、今回の作品のスケール感を考えた時に、これぐらいのスケール感であればシネスコでやってもいいんじゃないか、内容的にもシネスコが最もふさわしいんじゃないか、ということでやっと踏み出すことができたんです。

――――シネマスコープサイズを採用したことで、演出面ではどのようなメリットがあったのでしょうか。

細田 初めて映画を作ることになって、初めてスタンダードからビスタに変わった時も、すごく新鮮な気持ちで取り組んだんです。それまではずっとテレビアニメを作っていたから、スタンダードでしか作ったことがなかった。それが『劇場版デジモンアドベンチャー』(1999)で初めて映画を作ることになり、初めてビスタでレイアウトを切る(描く)という時、そこにどう映画的な意図を込めていくかという新鮮な気持ちがあったんです。その時と似たような感覚が今回もありました。

 僕もシネスコで作るのは今回が初めてですが、ものすごく映画が作りやすいなと思いました。絵コンテを描きながら「こういうことができるんだ」「こんなこともできてしまうんだ」というのを感じながらやっていました。例えば、まずカメラをパンしなくていいんです。画面が横に広いので、カメラはフィックスでいけてしまう。もともと僕はスタンダードの時からフィックス主義だったんですけど、スタンダードからビスタ、ビスタからシネスコへと画面が横に広くなっていくに従って、フィックスのままでよりバチッとレイアウトを決められるし、絵画的な空間をそこに表現しやすいんです。

 逆にシネスコからビスタ、ビスタからスタンダードへと横が狭くなっていった時に、何に向いているかというと、人の顔を描くのに向いているんです。それに対してシネスコというのは、顔をアップにしたとしても横にすごく余白ができるわけだから、背景と空間も同時に表現できる。スタンダードだとビジュアル的に人物しか描かないところを、シネスコだとその背景も含めて描けるわけです。それはつまり、人間というのはその人間単体で存在しているのではなく、ある世界の中に存在しているのだ、ということが表現できてしまうということです。

 例えば、今回ベルというキャラクターがいますが、ベルというのは単に美貌でこんな姿かたちをしていて、ということではなく、<U>というすごく賑やかな世界の中心にいる存在なんだということが、レイアウトの段階からして既に表現できてしまうんです。スタンダードやビスタだと、「ベルがいます」というカットと、「ベルがいるところはこんな賑やかな場所です」というカットの2カットに分ける必要があるところが、シネスコだと1カットで済む。これはすごく映画的なんです。情報伝達の効率がいい、ということでもあるんですが。

 あと、シネスコは空間づくりが面白いですね。これは<U>の世界でも現実世界でもそうですけど、どうやって空間的な広がりや奥行きを表現するか、ということがより重要になってくるんです。単に被写界深度を調整して手前や奥をボカして奥行きを出していく、みたいなことだけではなくて、画面の中に何をどう配置すればいいのか、手前と奥の明るさをどう変えていけばいいのか、というようなこともより深く考えなければならない。空間というものをフレームがすごく強調してくるので、それをさらにどう色彩設計的に、もしくは撮影処理的に構成していくか。シネスコはそういう部分ですごくダイナミックに空間を表現できるので、作っていて楽しいですね。

★『竜とそばかすの姫』は現在公開中

©︎2021 スタジオ地図


SWITCH Vol.39 No.8
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