FROM EDITORS「磨き上げる」

実家住まいの独身女性が生まれ変わって人生をやりなおすという、バカリズム脚本のテレビドラマ『ブラッシュアップライフ』が1月8日よりはじまった。主演安藤サクラの飄々とした演技が魅力的で、ついつい主人公とともに物語を生きてみる。同時に自分自身に照らしてもう一度人生を見つめ、ありえたかもしれない人生、無駄にした時間をふと考える。

ジェフ・ベックが1月10日に亡くなった。享年78。ローリング・ストーンズのミック・ジャガーは自身のTwitterで「ジェフ・ベックの死により、私たちは素晴らしい人物であり、世界で最も偉大なギタリストの一人を失いました。私たちは皆、彼がいなくて寂しい」とコメントを寄せていた。1943年生まれ、79歳を迎えたミックの言葉は胸をつくものだ。ローリング・ストーンズを支えたドラマーのチャーリー・ワッツが亡くなったのは2021年8月のことだった。享年80。ミックは笑顔でドラムを叩くワッツの写真だけを投稿し、深い悲しみを静かに耐えていた。もう一度彼らが人生をやり直すとしたらジェフ・ベックなら映画監督、チャリー・ワッツならパリのシェイクスピア書店の主人がお似合いかもしれない。

1988年SWITCHのインタビューでキース・リチャーズはこう述べている。

「チャーリーと俺の場合は自分達の仕事を支え役だと考えているんだ。何処でもどんな状況でもミックが安心してやりたいことは何でもやれるように支えてやることが俺達の仕事だと思っている。前面に出てる奴、特にそいつが楽器を手にしていないボーカリストで、音やバンドのメカニックに携わっていない奴には、何の心配もなくスタジアムの反対側まで駆けずり回れるようにしてやりたいのさ。俺は結構、裏方に徹することに満足している。ミックが脱水状態になりそうになって休憩を必要としたり、汗を拭きたくなったら、いつでも俺がソロを受け持つ。俺とチャーリーはバック・ルームボーイになりきっていて、それが気に入っているんだ。 ミックがスタジアムの天井にぶら下がろうと何しようと俺達は大丈夫、フォローし続けるさ。電源が切れてもチャーリーがその場を引き受けるだろう。いいバンドというものは、理屈じゃない。例えば誰かの弦が切れたり、ビートが外れたりしたら、考えもせずに自動的にそいつの仕事を引き受ける。この人と人との相互作用が俺にとって一番の魅力なんだ。バンドというのはそういうものだと思う」

1962年、ブライアン・ジョーンズはある音楽誌にバンドメンバー募集という広告を掲載した。英ケント州ダートフォードに生まれたキース・リチャーズは友人のミック・ジャガーをバンドに誘って参加をした。バンド名はシカゴブルースのマディ・ウォーターズの曲からブライアンがローリング・ストーンズとつけた。その約7カ月後の1963年1月、チャーリー・ワッツが加入した。偶然が運命となるのは自分自身の努力によるものだ。磨き上げるために人生がある。

スイッチ編集長 新井敏記