Foxfire True to nature Vol.1 菅原貴徳

自然に挑むのではなく、自然と共に生き、
自然に対して真摯であること。
旅を続ける表現者は自然の声に耳を傾け、生きる知恵を学ぶ。
鳥に魅せられた写真家・菅原貴徳に話を訊く。
鳥を求めて世界を巡った先に見えてきたものとは。

菅原貴徳
1990年、東京都生まれ。幼い頃から生き物に興味を持って育ち、11歳で野鳥撮影をはじめる。東京海洋大、ノルウェー北極圏への留学、名古屋大学大学院で海洋生物学を専攻した後、写真家に。国内外問わず、様々な景色の中に暮らす鳥たちの姿を追って旅をしている。共著書に『鳴き声から調べる野鳥図鑑』『生き物の決定的瞬間を撮る』(いずれも文一総合出版)など。

野生との距離感

野鳥について僕が一番興味を惹かれるのは、その鳥の暮らしぶりです。人の暮らしとの距離感でしたり、どのような環境の中で暮らしているのか見たい、という思いで世界各地の鳥を撮影してきました。その土地の空気感がちゃんと写真に写り込んでいるか、そして鳥が警戒することなく自然体で柔らかい表情をしているか。自分の撮る写真で大事にしている要素です。

生き物の撮影はコントロールできないからこそ、彼らの行動を予測してあげる必要があります。理想は鳥がこちらに気づかずに自然体で通り過ぎていくことです。撮影地に着いたらまずそこにいる鳥を観察します。以前どういう状況で類似する鳥を見たかを思い出し、鳥の気持ちになって次の行動を予測する。それと同時にまわりの風景と鳥の組み合わせをいくつもイメージしてからようやく撮影に臨みます。

鳥の表情を見極めながら少しずつ撮れる距離まで近づいていく。向こうが少しでも嫌がったら一歩下がる、OKだったら二歩進む。そうやって、ときには一時間くらい時間をかけて近づき、静かに撮影しています。相手の暮らしにお邪魔させてもらっているんですから配慮が必要です。

野鳥写真は本来鳥の生態を知らないと撮れないものだと言われていました。昔の野鳥図鑑を開いてみると、まずは百種類見分けられるようになってから始めなさいと書いてあるものもあります。昔は機材の機能性がないからパッと撮れることはまずなかったんですね。それが今では機材のおかげで誰でも撮りやすくなってしまっただけに、平気で鳥が嫌がることをしてしまう。相手のことを知ろうと努力することが疎かになれば、一番大事な部分を見逃してしまうと思います。これは野鳥撮影以外でも言えるかもしれませんね。

遠くの自然、近くの自然

失われてゆく自然をなんとかしたいという思いもあります。身近な自然が開発によって失われるかもしれない時、少しでも多くの人がその土地の自然に興味関心を持っていれば、そこに暮らす鳥のことを知っていれば、強く行動に移せると思うんです。人の暮らしと自然が離れてしまっている現代では、すぐ隣にある自然でも遠くの話のように聞こえてしまったり、例えば東京湾のような近くの自然に対しても、誰もその貴重さに気づけていない。

身近なところにもこういう鳥がいるんだよ、日々の生活の中で視点を変えてみるとこんな発見があるよっていうことを僕の写真で伝えたい。そして遠くの自然だけではなく、近くの自然に少しでも興味を持つ人が増えたら嬉しいですね。それに誰も鳥に見向きもしなくなったら、写真家として自分の活動も続けていけないですから。

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本稿を収録した「Coyote No.67 はじまりの島 ポリネシア、創世の旅をする」はこちら