Foxfire True to nature Vol.20 仁科斎

自然に挑むのではなく、自然と共に生き、自然に対して真摯であること。表現者は自然の声に耳を傾け、生きる知恵を学ぶ。サケ科魚類への尽きない興味から北海道に移り住み、サーモン科学館で日夜探求に励む仁科斎のライフワーク。

Foxfire True to nature Vol.20 仁科斎
仁科斎 92年広島県生まれ。子供の頃からサケ科魚類に興味を持ち続ける。一度地元で大手企業に勤めたがサケ科魚類への憧れが捨てきれなかった。サケの町標津町にサケの水族館の仕事があることを知り2019年から標津サーモン科学館で働き始める。
構成=奥田祐也 写真=二神慎之介

標津サーモン科学館の学芸員としての私の業務は、魚たちの飼育管理をはじめ、お客様の案内や館内展示の企画、河川調査や採集など、多岐にわたります。毎日魚を見てはいるのですが、休日や仕事前にフィールドに出かけて魚の水中観察と釣りをし、家では魚をよく食べるという魚尽くしの生活を送っています。北海道は夏だと深夜2時半頃から次第に明るくなってくるので、1時に起きれば仕事前でも屈斜路湖や知床の川には行けますし、休日には日帰りで然別湖や支笏湖まで足を延ばすこともあります。

サケ科魚類の生態はまだわかっていないことが多く、同じ魚種でも飼育環境下と自然界にいる時では行動パターンが変わってきます。イワナとヤマメを引き合いに出すと、一般的に貪欲なイメージを持たれるイワナよりも、ヤマメのほうが飼育環境下ではよっぽど図太いんですよね。釣ってきたヤマメは2、3日もすれば餌をねだるようになりますが、イワナはそうもいかない。あらゆる餌を試しても食べずに餓死することもあるんです。もちろん魚の個の性格によるところもあるので、餌のあげ方一つとっても日々仮説を立てて検証しています。そして、その答え合わせをするためにフィールドに行く。

潜って魚を観察するには、自然にうまく溶け込む必要があります。自然の中に私たちはお邪魔するわけですから、やっぱり不自然な存在は浮いて見える。魚はその不自然さをおそらく水流で感知しているはずなので、水の観察から始めると魚の気持ちが少しはわかるかもしれません。これは個人の見解ですが、魚も人間と本能的な部分は似ていて、なるべく体力を消耗しないように泳ぎながら暮らしているんです。

Foxfire True to nature Vol.20 仁科斎

以前潜ってサケの稚魚を観察していた時のことです。自分を岩に引っかかった流木に見立てて、片手で掴まって流れに身体を委ねていると、驚くことに私の身体の下にアメマスが溜まってくるんです。私という存在が水流の障害物になったことで、彼らは私に隠れるようにして稚魚を次々に食べていくんです。なんともすごい光景でした。

一方、釣りでしかわからないこともあります。水中観察は魚の行動を見る行為ですが、釣りは魚の行動を引き出す行為。どうしてこんなものに反応するのだろうとか、魚の性質を釣りは教えてくれる。サケ科魚類は特に、釣って楽しいし食べても美味しいですし。

普段水槽の前で解説をしている私としては、釣りたい、食べたいという気持ちから、自然の中での魚本来の姿や生体の不思議さへの興味に繋がるのであれば、しめしめといった感じですね。魚に興味がある人って、そう多くはないと思うんです。そもそも興味を持っていなければ、魚が減っていることや水辺の変化にも気づけません。そういった意味では、自己満足で終わらないのがこの仕事のいいところだと思っています。サーモン科学館に来るお客様や、地域の小中学生、高校生たちに対して、どんな話をすれば魚に興味を持ってもらえるだろうと考えながら、自分の実体験を役立てています。これからも好奇心に突き動かされながら、もっと経験を積んでいきたいですね。

Foxfire エンドレスライズシャツS/S
未来への希望がモチーフ
エンドレスライズシャツS/S
フライフィッシャーである女性イラストレーターが描いたアートワーク総柄シャツ。山や森、動物、魚が一筆書きで描かれ、自然とのつながりや持続可能な環境がエンドレスに続く未来が表現されている。通気性に優れたポリエステル素材を使用した、やわらかく、サラッとした肌触り。サンド、ネイビー、ミストミントの3色展開。¥15,400(税込)

<問い合わせ>株式会社ティムコ 03-5600-0121
more info ☞ www.foxfire.jp

 
 
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