6/1に発売される「TYPE-III Magarimono project」はA-POC ABLE ISSEY MIYAKEとデジタルフットウェアブランド「MAGARIMONO」が協業したシューズだ。このプロジェクトでデザインを担当したA-POC ABLE ISSEY MIYAKEの岡本将宗とデザインチームを率いる宮前義之にそれぞれ話を訊いた。

PHOTOGRAPHY: KUROSAWA KANTO
TEXT: KAWAKAMI HISAKO
INTERVIEW
岡本将宗|暗中模索の日々で掴み取った答え

シューズのデザインを担当した岡本将宗は、イッセイ ミヤケに入社した直後TYPE-III Magarimono project第二弾を任された。日本とパリでファッションを学んだ岡本だが、靴づくりに関しては門外漢。暗中模索の日々の中、デザインチームを率いる宮前義之から掛けられた言葉が重要な指針になった。
「MAGARIMONOさんとの打ち合わせの帰り道に宮前から『まずは縄文時代に戻ったと思って靴づくりに取り組んでみて。』と言われました。ミシンも接着剤もない、限られたものしかない条件の中で何が生み出せるのか。宮前から制約を与えられたことで不思議とアイデアが浮かんできました。縄文時代だったら木の皮を削って、それを編み込んでアッパーをつくるのではないかと考え、その時期にこれらの試作品をつくりました。」

岡本が見せてくれた試作品の数々からは、彼が抱えていた葛藤の跡が見て取れる。
「最初はゴムチューブを編み込むことでクッション性の高いソールをつくれないかと模索していました。次はこの黄色い試作品のようにアッパーを構成する紐がそのまま靴紐になるような仕組みのものを試してみたり。試作を重ねていく中で、実際に製品化した際のコストや作業量を考えると余分な工程が多いことに気がついたんです。そこからパーツや工程を絞って、よりシンプルで機能的なデザインにまとめていきました。試作品と完成品は全く形が違いますが、試作品をつくらないとわからなかったことがたくさんありました。」

「最後の試作ではソールに布を貼り付けて自分の足に当てはめながら、足を支えるのに必要なパーツを残してカットする作業を繰り返しました。どうしたら履きやすいのか、脱げづらいのかを考えた結果、履き口を広く設けてさっと履けるように、さらにボディと踵のループを一体化させることで脱げづらくなっています。ソールはMAGARIMONOさんとのブレストの末、『切削』という手法を用いました。MAGARIMONOさんはこれまで3Dプリンターを駆使したソールの開発に取り組んでいましたが、それ以外の方法のクリエイションも模索している最中だったそうです。今回、彼らから提案を受けてEVAと呼ばれるクッション性の高いゴム素材を切削機で削り出す方法を採用しました。靴底に溝を入れてもらい、ここにアッパーとソールを固定する紐を通す仕組みになっています」

度重なる試作を経て、岡本はソールとボディを構成する2枚のパーツ、それをシューズに固定するための1本の紐というごくシンプルなシューズに辿り着いた。構成されているパーツはシンプルだが、実際に履いてみるとボディがしっかりと足の要所を支えてくれるので安定感があり歩きやすい。ソールのクッション性が高く、使われている人工皮革もさらさらとしていて肌触りが良く、いつまでも履いていたくなる快適な履き心地だ。
岡本がプロジェクトに参加してからプロダクトが完成するまで実に2年近くの歳月を要した。完成品が出来上がった時にデザインチームのメンバーから掛けられた言葉が忘れられないと岡本は語る。
「このフットウェアをチームに共有した時、『これを靴とかサンダルと呼ぶのは違うよね』とチームメンバーが言ってくれたんです。本来の靴づくりと全く違うプロセスを経て、あらためて新しいフットウェアをつくれたという達成感がありました。入社後すぐに関わったプロジェクトだったので、手を動かして失敗を重ねながらもひとつの答えに辿り着く、この経験は次に関わる仕事にも生きてくるという確信があります。A-POCのものづくりの軸を体感するプロジェクトでした」
INTERVIEW
宮前義之|機が熟すまで

宮前義之がTYPE-III Magarimono projectを構想したきっかけは靴づくりの難しさにあった。
「従来の靴はサイズ毎のソールの金型が必要で、それぞれのサイズを大量生産しないと採算が取れない仕組みになっています。低ロットでもこだわりのある新しいデザインの靴を生み出したいと考えていた時、MAGARIMONOさんと出会いました。彼らは3Dプリンターや最新技術を駆使して、金型を使わずにクオリティの高い靴をつくっていました。テクノロジーを用いて新しい服づくりを目指すA-POC ABLEの思想と似ていると感じて、2020年に第一弾のTYPE-III Magarimono projectを始動しました」
第二弾のデザインを入社して間もない岡本に託したのはなぜだったのだろう。その答えを聞くと、宮前がひとつずつのプロジェクトを成長の為のチャンスだと捉えているのがわかる。
「服づくりであればベテランのチームに任せればある程度高いクオリティのプロダクトが上がってきます。ただ、靴づくりはチーム内で専門知識を持った人間がいない。新人に経験させるいい機会だと思いました。MAGARIMONOさんという靴の専門家と仕事ができるこのチャンスを存分に味わってほしくて岡本に任せることにしました」
宮前が岡本に話した“縄文時代のものづくりを考えてほしい”というアドバイスについて、その真意を訊いてみた。
「6年程前に一生さんと“縄文”をテーマにしたプロジェクトに参加したことがあり、それが非常にいい経験だったので岡本に当時の経験を話しました。技術や材料が限られた中でもう一度ものづくりの原点に立ち返るということは、ものづくりの本質にも繋がっていく。例えば、地球以外の星で衣食住を成り立たせないといけないと考えた時、物資を運べない状況でかつ資源がない場所でどう服をつくるのか。原始的な発想で服づくりを思考するというのは結果的に未来に繋がる考えでもあるんです」
A-POC ABLE ISSEY MIYAKEは服づくりのプロジェクトを2〜3年掛けて行い、納得のいくプロトタイプが完成すると製品化して継続展開していく。
「今回のTYPE-III Magarimono projectでは遠回りを経て、シンプルかつ最良の答えに辿り着きました。イッセイ ミヤケにはプロジェクトに時間を掛けることを認めてくれる環境があります。コストを考えて短いサイクルでものづくりすることが通例ですが、トライアンドエラーが許される。だからこそ、時を経ても色褪せないものづくりができるのだと思っています。」

TYPE-III Magarimono project
精密に切削されたゴム製のソールとアッパーとバックストラップが1つのパーツで構成されたシンプルなシューズ。アッパーの素材は東レが開発した人工皮革「Ultrausede ®nu」を使用。価格は¥121,000。カラーはブラックのみ。26.5、27.5、28.5の3サイズ展開。
6/1より下記店舗で取り扱いを開始
A-POC ABLE ISSEY MIYAKE / AOYAMA
A-POC ABLE ISSEY MIYAKE / KYOTO
ISSEY MIYAKE GINZA / 442
ISSEY MIYAKE MARUNOUCHI
ISSEY MIYAKE SEMBA
ISSEY MIYAKE SHIBUYA
isseymiyake.com オンラインストア