北村道子インタビュー 後編「へんなことだけど。」

作家・戌井昭人と写真家・浅田政志が毎回多彩な表現者をゲストに迎え、そのルーツに迫る—— 。雑誌「SWITCH」で好評連載中「SWITCH INTERVIEW」。今回は9月20日発売の「SWITCH Vol.37 No.10 特集 北村道子 SCIENCE FASHION」の刊行を記念し、スタイリスト・北村道子をゲストに迎えた第30回を特別にWEBで公開します。日本を代表するスタイリストの知られざる幼少期から、洋服の世界に入るまでの想像を上回る半生。ぜひお楽しみください。

北村道子インタビュー後編
文=戌井昭人
写真=浅田政志

「水田先生に会ったのは小学何年生?」

「5年です。でもね、うちの父が鉄道の仕事をしてたから、引っ越すことになるの」

「どこにですか?」

「金沢近郊の、内灘砂丘ってところ」

「どんなところでした?」

「梨の農家が多かった。男が、ハシゴに登って梨のゴミとかを取って育てる。でも夜になると、家に帰ってこない男がいて」

「え?」

「人さらい、いまでいうと拉致です。それでね、梨畑で働く人がいなくなっちゃった」

「そんなに人がいなくなっちゃったんですか?」

「男が5人とかでもいなくなっちゃうと大変なの。小さな村だし、大きな働き手だから」

「エンジンがなくなっちゃったみたいになる」

「そう。あと綺麗な女が村からいなくなったら、男たちの働く意欲がなくなっちゃう」

「オイルもなくなっちゃった」

「そう。白くて綺麗な女が、さらわれちゃうの。だからさ、民族衣裳とか、タイの首長族とかも、そうなのね。さらわれないようにああなった。なんだか話がそれちゃったね」

「はい。じゃあ、引っ越してからは、どんな感じでした?」

「それで、また、あいうえお順の席でね、あたしは転校生だから、先生が『北村さんに、ここの村を案内してあげなさい』となるんです。大きなお世話だなって思ったんだけど。それで、今度は、かきくこけの『ク』、クマガイくんというのがキタムラの近くで、案内してもらうことになって、一緒に歩いていたら、クマガイくんに雷が落ちたんです」

「雷?」

「本当は木に落ちるのに、クマガイくんに落ちたんです」

「目の前で」

「はい。あたしは、うちの父が男みたいに育てるから、ヘアピンはつけないし、かりあげで、黒いランドセルに、フードつきの黒い雨合羽、ぜんぶ黒だったの」

「コドモギャルソンだ」

「そう。小さいときから、とにかく黒かった。でね、クマガイくんは傘をさしてたの、それで村を案内してもらってて、梨畑に行ったの。目の前に、リヤカーのおじさんがいたのを覚えてる」

「そのときに」

「雷が落ちたの。でね、瞬間、臭いって気がしたの。ふと見たら、クマガイがいなくて、そのとき、目の前に、火山灰みたいに段差ができてたの。クマガイが焼けていないんです」

「凄まじい出来事ですね」

「そのあと自分は、見ないようにしたんだけど、そのときの臭いとクマガイって名前は覚えてるんです。でね、クマガイってのは、その村では、医者の家系の息子の三男坊で、わたしや母は、引っ越してきたばかりじゃない」

「はい」

「その後、村ではどういうことになったか……それで、あたしがいなければいいんだろう、という意識が」

キタムラミチコ、オトマルジュンイチ、クマガイ。

「ガンジス川の上流にまで行ったとき、そこに一滴の水があった。5カ月もかけて歩いていったのね」

「人生は生まれたときから、とぎれがない」

「ずーっと全部がつながってる。だから覚えてる」

「ちょっと上流に戻ったりして思いだす」

「記憶として生きる。水田先生には、よほどのことがないかぎり、句読点はうつなって言われたの」

「人生の句読点?」

「そうなの」

「とぎれさせちゃいけない」

「いまの人は、肉体の中の記憶の装置を、きちんと使ってないと思うの。すぐに、インターネットで調べちゃうし」

記憶を辿っていく、それが、現在とつながっている。誰かが、未来は前方にあるのではなく後ろにあって、過去が目の前に広がっているのだと言っていた。それをたぐりよせたりしながら、生きていく。

北村道子2

写真=浅田政志

北村さん、チベットで五体投地しているのです。

「でもね、本当は行けないところまで行っちゃったから、戻ってきたら片方の肺を取ることになっちゃうんだけど」

北村さんは、チベットで胸の痛みをおぼえ、日本に帰って手術をしたそうです。

「話は戻りますが、高校は?」

「一応行ったけど意味ない!」

「あらら」

「自分の哲学でね、女性は、25歳からなんです。それで男は、38歳からはじまって、40歳になったとき、良い男になるか最低な奴になるか決まるの。それまで遊んでて、仕事でもするかってなるといい感じなる。一方で、若い時に勉強ばかりしてると、その境目で、遊び出すの。それが世の中にいる政治家とかですね。人の金で女を作ったりさ」
 
北村さんの哲学に、われわれ男たち(新井さん、浅田くん、自分)は、ハッとするのでした。まあ、勉強はあんまりしてこなかったけれども。

「高校を卒業してからは?」

「金沢の美大に行くんだけど、8カ月しか行ってないから、通ったことにならないよ」

「それで、とにかく外に出た」

「うん。でもね、あたしは16歳のころ、オジブワ族の村に行ってるの」

「オブジワ族?」

「ネイティブアメリカンです。オジブワ族、オジさんと呼んでたから、オジブワ族で正しいと思う。アメリカの五大湖の周辺にあって」

「どのようにして行くことになったの?」

「金沢の美大で、様式とか、比較人類学のようなことをしてる、変な先生がいてさ」

「その人の調査についていった」

「調査じゃないんですけどね、とにかく行きたくて、親に頼んで、その人も『娘ってことにして連れて行きますから』って母に話してくれて、それで行ったの、新潟港から出て」

「船ですか」

「そう。吐いてばかりいた」

シベリア、ベーリング海、アラスカ、アリューシャンと海を渡って、アメリカ大陸。オジブワ族の村に到着。しかしこの話は、また別の機会に。

「帰りは?」

「ひとりだったの。それで南米、グァテマラに行きます。そこで民族衣装、ビーズつけを学ぶんです。そこから衣装が面白くなってきた」

「衣装に芽生えた」

「いや、いまも芽生えてないよ」

「あれま。言葉はどうしてたんですか?」

「全部ジェスチャー。とにかく洋服とか文化って、全部、いろいろな場所に形を変えて移っていくの。興味ある人間が、ボーダーラインを超えて、よその国に入って、そこの文化や洋服を見て『それ、いいね』となったら、交換して、ひろまっていく」

地球に生物が存在する限り、句読点はなく、人生も文化も洋服も、つながって流れていくのかもしれません。

「最近はどんなことしていますか?」

「ひたすら歩いてます」

この前、公園を必死に歩いていたら、北村さんは、浅野忠信さんに見られていたそうです。しかし浅野さんは、北村さんがあまりにも必死だったので声をかけられなかったそうです。

自分も、北村さんを見かけたら、声をかけられるかな、と思いながら、その公園に行ってみました。でも会えませんでした。いつか会える日を、と思っています。そしたら、また面白い話を聞かせてください。

北村道子
1949年石川県生まれ。『それから』(85)以降、『幻の光』、『殺し屋1』、『アカルイミライ』など数々の映画衣装を手掛ける。2007年には『スキヤキ・ウェスタン・ジャンゴ』の衣裳で第62回毎日映画コンクール技術賞を受賞。作品集『tribe』(朝日出版社)、著書『衣裳術』『衣裳術2』(リトルモア)など

戌井昭人
1971年東京生まれ。作家、パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」の旗揚げに参加、脚本を担当。『鮒のためいき』で小説家デビュー。2013年『すっぽん心中』で第40回川端康成文学賞、16年『のろい男 俳優・亀岡拓次』で第38回野間文芸新人賞を受賞。最新刊は『ゼンマイ』
 
 
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