【READING RADIO SWITCH】下田昌克 インタビュー

2018年10月からJ-WAVEにてオンエアがスタートした「RADIO SWITCH」。「雑誌を聴く、ラジオを読む」というテーマのもと、スイッチ・パブリッシングが刊行する『SWITCH』『Coyote』『MONKEY』の誌面に登場する多彩な表現者たちをゲストに迎え、誌面では収まりきらない生の声を毎週土曜23時から発信している。ここではオンエアで流れた貴重なインタビューの模様を改めて紹介する。

【READING RADIO SWITCH】下田昌克 インタビュー
 
10月6日オンエアの第一回「FASHION PHOTOGRAPHY」でゲストとして登場した画家・イラストレーターの下田昌克。今年1月に開催されたパリファッションウィークのショーで、コム デ ギャルソン・オム プリュスのモデルたちがキャンバス地で作られた恐竜のスカルをまとってランウェイを歩いたことは記憶に新しい。そのスカルを手がけたのが下田である。なぜ一人のアーティストによる作品が、世界的ファッションブランドとコラボレーションを果たすことになったのか。パリでのショーにも同行したSWITCH編集長・新井敏記が下田とともにこれまでの経緯を振り返った。
 


新井 パリコレでは拍手喝采で迎えられていましたね。僕も下田くんとともにリハーサルや打ち合わせから立ち会っていたけれど、みんな下田くんの作品と川久保さんの洋服がどのように一つの作品として出来上がっていくのかということに、興味津々だったよね。
 
 
下田 僕は初めてのことばかりだったから、よく分からないうちにすべてが過ぎていく感じでした。
 
 
新井 恐竜のマスクを何体持って来てほしいといったやりとりの時は、直接川久保さんとお会いしたのかな。
 
 
下田 その時はスタッフの方を通してですね。でも指定されたもの以外にも使ってほしい恐竜がいたので、予備としてそれもこっそり混ぜておこうかな、という感じで少し多めに入れておきました。
 
 
新井 言われたものよりも少し多めに。
 
 
下田 うん、勝手にちょっと増やして、自分で選んだものとかも入れちゃった。
 
 
新井 実際にコレクションのエリアで並べて見たら、マッチングがすごくよかったから、川久保さんは「もっと無いの?」っておっしゃっていましたね。
 
 
下田 そう、結局予備で持っていったものも使って、「もっと持って来ればよかったわね」「もっと大きいのを持って来ればよかった」なんて言ってもらえて。
 
 
新井 準備が進むにつれて、二人のグルーヴ感がどんどん増していっていました。その日発表する川久保さんの服を、僕はその時初めて見たのだけど、レザーやケミカルなガウン、アメリカンコミックのものなど色々なバリエーションがあった。けれども、それがなぜか下田くんの作った恐竜のスカルと、どれも見事にマッチングするんだよね。
 
 
下田 しかも当日に組み合わせや順番を変えるんですよね。
 
 
新井 変えていましたね。それはやっぱり川久保さんの瞬間的、動物的な本能が為せる業だよね。洋服の組み合わせや順番を、こっちの方が良いと柔軟に入れ替えていって。さらにそれらが恐竜のスカルによって影響されていくから、出来上がりは見事ですごく面白かったよね。
 
 
下田 すごかったですよね。僕はずっとバックステージにいたので、実際のランウェイでどんな風に見えたのかは、その時はまったく知らないまま終わったんです。けれども、バタバタした裏の様子や、表の人のざわついている気配が波のように伝わってくるのが生々しくて、なんだか興奮するものがありました。
 
 
新井 僕も興奮しましたよ。あとはイタリアの超一流のヘアメイクの方が、このスカルとモデルのヘアスタイルをどのようにマッチさせれば良いのかということで、すごくピリピリされていますという話もされて。
 
 
下田 だって、マスクを被ったらヘアメイクなんてしたって全部隠しちゃうから。スタッフの方に、「これ怒られるんじゃないの」って訊いたら、「すごくアーティステックな人で、デリケートな方なので気をつけて下さい」なんて言うものだから、それってつまり、怒られて下さいってことですか……?と思っちゃいましたよ。でも、「大丈夫大丈夫、一回きりだから怖くない!」とか言いながら、その方のところへ挨拶に行ったんですよね。そうしたら、実際にはすごく良い人で。
 
 
新井 そうそう、むしろ「もっといろいろとやったらいいよ」と作品のことをすごく認めてくれて、一緒になってマスクを被ってくれたんですよね。それがすごく格好良いなあと思いました。
 
 
下田 格好良かったですね。あとは、照明の方や前日の打ち合わせで初めて会ったような方たちが、マスクを出して並べた途端に、クッと近くに来る感じというか、味方になった感じがあって、心地良かったです。

【READING RADIO SWITCH】下田昌克 インタビュー

下田とのコラボレーションによるコム デ ギャルソン・オム プリュスの新コレクション発表の様子を追った『SWITCH Vol.36 No.6 特集 川久保玲/白の衝撃

 
新井 そうだよね。モデルの人たちも、恐竜を目にしたら急に少年性を取り戻した感じで。
 
 
下田 そうそう。モデルって大体十代の男の子たちだったから、「これ何ザウルス?」なんて興味津々に訊いてくる。それで、「これは◯◯ザウルスだよ」なんて教えてあげると、「おお!」「俺はこれが被りたい」「これが被りたかったけど、こっちでもいいや」といった具合に盛り上がってくれる。
 
 
新井 そうだったね。だから、日本もヨーロッパもアメリカも関係なく、少年にとって恐竜というものは特別な存在なんだっていう共通性を強く感じた。当日、川久保さんがモデルの子たちに「自由に歩いて」って言った時、最初はみんなすごく戸惑っていたんだよね。けれども、リハーサルが後半に差し掛かって、実際にマスクを被って通しでやってみると、歩き出す彼らの様子がどんどん活き活きとしていった。だから、やっぱり被り物って、すごく大事なんだなって感じがしたんだ。
 
 
下田 その話を聞いて思い出したんだけど、僕が最初の一個を作ったのは、2011年に恐竜博を観に行ったのがきっかけなんです。
 
 
新井 恐竜博というのは、上野の国立科学博物館でやっていた展示だよね。
 
 
下田 うん。一通り見終わった後、買い物する気満々で興奮しながらミュージアムショップに行ったんです。けれども、欲しいと思うものが見つからなくて。それで家に帰ってから、なんとなく絵を描く用のキャンバスの布で、自分の頭に合うようなツノを作って。それを他の布とどんどんつなげていくと、自分サイズの被りものが出来上がったんです。そしてそれを被ってみたら、「あ、変身。これ、変身だ!」って思いました。これは面白いかもしれないと思って、そこからずっと作り続けているんです。
 
 
新井 実際に、このマスクをいろいろな人に被ってもらいました。その時、みんななんでこんなに変わるんだろうっていうくらい活き活きとするんですよね。自分の中の何かを導き出されるのかな。
 
 
下田 ねえ、みなさんちょっと、“ハイ”になられる。自分にツノが生えたりすることで、気分の変わる感じの“変身”をしているのかもしれない。
 
 
新井 格好良いよね。
 
 
下田 あはは。
 
 


1月のショーで大成功を収めたコム デ ギャルソン・オム プリュス。そこで発表された新作は、その約半年後の8月から10月にかけて、世界8カ所のコム デ ギャルソン、ドーバーストリートマーケットの店舗にて展示が行われた。それにより、下田自身も監修として世界を飛び回ることになる——

【READING RADIO SWITCH】下田昌克 インタビュー
 
新井 でも、ニューヨークのドーバーストリートマーケット、チェルシーのコム デ ギャルソンのディスプレイも監修して、もう感無量でしょ。自分の作品がああいう形で飾られることになるのは。
 
 
下田 ね、なんで今まで考えなかったんだろうと思った。
 
 
新井 考えても、というか考えられなかったでしょ(笑)!
 
 
下田 全然考えなかったですよ。
 
 
新井 そもそも、コム デ ギャルソンの青山店で8月10日から展示が始まったわけですが、あれも夢のような話で。もう終わってしまったのですけど、見事でしたね。
 
 
下田 格好良かったですね。
 
 
新井 自分で作ったものが川久保さんのコム デ ギャルソン・オムプリュスのコレクションと一緒に飾られた時の思いはいかがでしたか。
 
 
下田 いやあ、なんでしょうね。最初から分かっていたような。
 
 
新井 見事なマッチングだよね。
 
 
下田 うん。僕が贔屓目に見ているのかもしれないけど、服の素材感や色合い、デザインも含めて、最初から決まっていたようにぴったりマッチして見えたんで、なんだか不思議でした。
 
 
新井 そうだよね。あの青山の飾り付けをずっと見ていた時に、ガラスのウィンドウにも好きに絵を描いて良いって下田くんが言われた時、僕も胸がいっぱいになりましたよ。川久保さんは今まで色々なアーティストにあの場を提供してきたけれど、そういうことはなかったと記憶するので、今回の展示は特別なんだなって改めて感じました。
 
 

【READING RADIO SWITCH】下田昌克 インタビュー

SWITCH Vol.36 No.10 特集 高橋盾/UNDERCOVER』では、下田がコム デ ギャルソン青山店のウィンドウに恐竜を描いた時の様子をレポートした

 
新井 実際、川久保さんと下田くんが初めて会ったのは1月9日でした。そこまでの経緯を具体的に説明すると、まずコム デ ギャルソンのスタッフが下田くんの作品を他の会場で見て、すごく感動したことがきっかけとなっているんだよね。なんらかの形でコレクションに使えればいいなって、川久保さんにも打診をしていたらしいんだけど。その出来事とは別に、川久保さんの中でのオム プリュス2018年-19年の秋冬コレクション「白の衝撃」のイメージの中で、もう一つ何かが欲しいという思いがあった。そこで、ちょうど下田くんの作品のことを閃いて、コム デ ギャルソンのスタッフに「下田くんの作品を見たい」と声をかけた。
 
 
下田 うん。
 
 
新井 そこで、下田くんが『SWITCH』で恐竜のスカルをテーマに谷川俊太郎さんと連載をしていたことや、その連載をまとめた『恐竜がいた』という本を刊行していたこともあって、僕に連絡が来たんです。けれども、「まだ具体的には出来ないから、下田さんには言わないでほしい」と言われたから、僕はすごく困ったんだよね。それで一度、下田くんに電話をしたんです。
 
 
下田 はい。
 
 
新井 そこで「今、恐竜の作品持ってる?」と聞いたら、下田くんは「一個もありませーん!」って(笑)。
 
 
下田 あはは!
 
 
新井 それで慌てて「一個でもいいから作って!」って言ったんです。
 
 
下田 途中まで作ったやつを、一晩でなんとか形にして持って行ったんですよね。
 
 
【READING RADIO SWITCH】下田昌克 インタビュー

『SWITCH』での全20回の連載をまとめた単行本『恐竜がいた』。毎回1体の恐竜をテーマに、谷川俊太郎が詩、下田昌克が恐竜スカルを手がけた

 
新井 そう。それで下田くんと川久保さんの初めての対面があって。その時の感じを改めて思い返してみるとどうですか。
 
 
下田 なんだか不思議でしたよね。トトトンッと話が進んでいく感じで。間に人を介することなく、いきなり川久保さんとお話をすることになりましたし。現実味がなくて、ちょっと夢の中という感じでした。
 
 
新井 そうだったね。その時、下田くんが元旦におみくじを引いた話をしたんだよね。
 
 
下田 そうそう。僕が近所の神社に初詣に行って、彼女と一緒にいつものおみくじを引いていたんですよ。そうしたら大吉が出て。“運気上昇中。やることなすこと期待通りになるでしょう。今までの努力が報われる予感。すべては良い方向に進み出しています。必要なのはあと一歩を踏み出す勇気です”と書いてあったんです。それで嬉しくなって、彼女と一緒に「あと一歩を踏み出す勇気」なんて言いながら散歩をしていたら、新井さんから電話がかかってきたんです。それで「このことじゃない!?」なんて彼女と盛り上がっていました。
 
 
新井 だけど、その時点では決定ではなかった。「まだ川久保も考えていることがあるみたいだから絶対下田さんには言わないでくれ」って言われていたんだけど、コム デ ギャルソンに下田くんをお連れしなきゃいけないから、誰に会うとは言わなかったけれど、「とにかく後悔だけはさせないから、一個だけは仕上げてくれ」って言って。「ええ、なんですか!?」なんて言われたけど(笑)。
 
 
下田 まあ、大吉の後だったから決定だな! なんて思っていましたけど(笑)。
 
 
新井 その感じで今、作ったものがコラボされているのが良いよね。というのは、以前コム デ ギャルソンがメトロポリタン美術館で展覧会を開催した時に、ビョークにインタビューをしたんです。その時会場に来たビョークが、身動きをすることなく、じっと一点の洋服を凝視めていたんですよ。ビョークは何をやっていたんだろうと思って、あとのインタビューで訊いてみたら、「自分がお金が無い頃に、ロンドンのコム デ ギャルソンのお店に行って、『いつかこの服を着たい』と思いながら、ずっと何時間も見ていた。その時のことを思い出していた」って泣きながらおっしゃっていて。
 
 
下田 格好良いなあ。
 
 
新井 前に進み続けることで、気づけば遠い憧れの存在だったものが近くにあるという感覚は似ているよね。ビョークと一緒にしちゃうとあれだけど(笑)。
 
 
下田 ええっ、一緒にしちゃいけないの? まだまだ?
 
 
新井 まだまだ。
 
 
下田 あはは、頑張る! 一緒にされるように。
 
 
【READING RADIO SWITCH】下田昌克 インタビュー

photography by Arai Toshinori

<プロフィール>
下田昌克(しもだまさかつ)

1967年兵庫県に生まれる。画家、イラストレーター。画文集に、94年から2年間の世界旅行で出会った人々のポートレートと文章による『PRIVATE WORLD』(山と渓谷社)のほか、『ヒマラヤの下インドの上』(河出書房新社)など。谷川俊太郎との共作として、『恐竜がいた』、ボブ・サム著『かぜがおうちをみつけるまで』(ともにスイッチ・パブリッシング刊)ほか、雑誌『Coyote』にて「ハダカだから」を連載中。