【CREATION SWITCH Vol.1 第3回】久米博康社長インタビュー(後篇) 究極のTシャツ「色丸首」を語る。

どれだけ良いものを作ったとしても、売れなければ意味がない。さまざまな職人の方々のものづくり愛が染み込んだ久米繊維のTシャツは、どのようにして広まっていくのでしょうか。

Tシャツを売る、ということ

――「久米繊維謹製」というブランドはどのように売り出していったのでしょうか?

久米「まずはインターネットです。この普及は宣伝広告費に限りがある中小企業にとっては大きな手助けとなりました。私たちは自社サイト、オンラインショップで久米繊維謹製のTシャツをコツコツとアピールしていきました」

――ただ通販でのアパレル商品はハードルが高いともよく聞きます。

久米「その通りです。そこで自分たちのお店を作ることにしました」

――ここ、ファクトリーショップですね。

久米「はい。ここはもともとプレスルームでした。確かにネットではTシャツを触れないし、サイズ感もわかりにくい。本当の色も。何より僕たちが自信を持っているTシャツの素材感や着心地をお伝えすることができない。そこで急遽ここをファクトリーショップとして改装し、試着室を作り、レジの機能を持たせました」

――色とりどりのTシャツに囲まれた暖かい空間です。

久米「ありがとうございます。また、ファクトリーショップでは社員勉強という意味も込めて、みんなで交代でお店に立つようにしました」

――自分たちの商品は自分たちで売る。

久米「こうすることでダイレクトにお客様の生の声が毎日入ってくる。とても参考になりました。そしてその中で、こういうご質問もいただくようになりました。『お宅はいつセールにするんですか?』と」

――みんなセールが大好きです。

久米「ただ弊社はファクトリーブランドとして自らセールをしないと決めています。先ほどのお話になりますが、私たちの考えるリーズナブルな価格というのは、ただ安いという意味合いではなく理由がある価格です。ものづくりの川に持続可能なかたちで水を流し続けるためにも、お客様に認めていただくためにも、どの製品も理由がある希望小売価格を設定しています。それは私たちのファクトリーブランドとしての姿勢が表れた価格です」

――プライドを持って作り出した商品に、お客様がリスペクトを払う。美しい関係だと思いました。

久米「ありがとうございます。セールが常態化している業界の中では、めずらしいビジネスモデルかもしれません。やってみてわかったのですが、値段が変わらないというのはお客様の信頼獲得にも繋がったようです」

――どういうことですか?

久米「弊社がセールをしないというスタンスを維持している姿勢が伝わったのか、2、3年経ったころにはセールに関するお問い合わせは、ほぼなくなりました。またネットでご購入いただいた方のアンケートで『お宅はいつ買っても同じ値段だから安心できる』というお声が返ってくるようになりました」

――通年商品だからこそ、価格が変わらないことがプラスになったんですね。

久米「はい。そのようです」

――「久米繊維のTシャツ」の商品価値を高めることが重要。

久米「Tシャツもファッションアイテムの一つです。各メーカーが必死に考えて、日々新しいものが生まれていく。その中から私たちの製品を見つけていただいて選んでいただいて、袖を通していただく。相当ハードルが高い話ですが、ファクトリーブランドとしての自分たちのスタイルや、国産Tシャツの存在価値を認めていただけるお客様がいらっしゃると信じて始め、試行錯誤をしながら現在まで続けることができました。これからも暖簾に恥じない『日本そして久米繊維ならではのサスティナブルなものづくり』にチャレンジし続けて、ご提案していきたいと思います」

圧倒的カラーバリエーションが魅力の「01」

――さて、ここからは久米繊維のTシャツのラインナップをどんどん掘り下げていきたいと思います。「色丸首」をはじめ、たくさんの個性豊かなTシャツを作り続ける久米繊維さん。その中でもとにかくカラーバリエーションが豊富なのが、この「01」(ゼロイチ)です。

「01 Tシャツ」
「01 Tシャツ」

久米「『01』は先代から続くロングセラー商品で、40年以上にわたって作り続けている久米繊維の定番商品です」

――どれくらいのカラーバリエーションがあるのでしょうか?

久米「61色です」

――61色!

久米「普通だったらありえない多さですね(笑)。01Tシャツはベーシックな定番だからこそ、色とサイズを選ぶ楽しみをご提案したかったのです。Tシャツは白・黒・紺・グレーがいわゆる売れ筋で人気がありますが、それ以外の色も着てみると、気分も変わって面白いものです。またサイズも、普段着ているものよりワンサイズ大きいものを選ぶだけで印象が随分と違ってきますから。色とサイズがたくさんあることが01Tシャツの魅力といえます。

そして豊富なカラーの発色の良さが染色工場の技術、日本の技の真骨頂でもあります。これだけ鮮やかな色の出るTシャツはなかなかないでしょう。でもそもそも素材が良くないと綺麗に染まらないので、やはり生地も重要。すべてが繋がっていないと良いものは作れないのです。また肌触りの良い、軽やかな生地や型くずれしにくいバインダー襟も特徴です」

――僕も着たことがない色にチャレンジして、自分のお気に入りの色を見つけてみようと思います。

久米「ファクトリーショップでなら全色ご試着いただけます!(笑)。そして久米繊維のTシャツのほとんどは脇に縫い目がない丸胴仕立てになっています」

左:通常のTシャツ 右:久米繊維のTシャツ

――本当だ、縫い目がないです。気がつかなかったです!

久米「ということはサイズごとに専用の編機を用意して、生地を編んでいるということ。脇の縫い目がないことで少しでもストレスをなくして着心地をよくしようとしています。反物の在庫リスクや生産ロットの兼ね合いなど継続には難しい面もありますが、私たちの製品の個性でもあるし、これが良いと信じています」

私たちがヘビーウェイトTシャツを作るとこうなる「楽」

――「楽」はどのようなTシャツなのでしょうか? 素人目には「01」と同じに見えるのですが。

「久米繊維謹製 楽」

久米「まずは生地の厚みが違います。使っている糸の太さが「01」より太く、生地の厚みが増しています。ただ生地が厚くなりすぎても日本の気候には合わない面もありますので、程よいヘビーウェイト感にしています。あとは型紙、サイジングが異なります。01は昔からのオーソドックスな日本的サイズ感。『楽』はカジュアルなルーズフィットです。単純に重ね合わせてみるとワンサイズ『楽』の方が大きく見えますね。襟の縫い方も少し太めの手付けになっているので襟ぐりの雰囲気も異なります。実際にお召いただくと「01」とは印象がかなり変わると思いますので、お好みに合わせてお選びいただければと思います」

Tシャツムーブメントの火付け役「セイ・ヤング」

――これかなり小さくないですか?

「セイ・ヤング」

久米「はい。タイトなフィット感が特徴となる弊社のシグニチャーモデルです。また『久米繊維で着こなしのハードルが一番高いTシャツ』とも言われることも」

――それはどういう意味ですか?

久米「実は『セイ・ヤング』は定番品の中で一番歴史が古く、50年以上にわたり作り続けています。先代の会長がハリウッドスターに憧れてTシャツ作りを始めた当時、マーロン・ブランドやジェームズ・ディーンが着ていた白いTシャツもこのようなフィット感のあるスタイルでした。これはゴム編みという編み方で、かなり横の伸縮性を持たせた生地を、襟だけでなくボディにも採用しています。それがタイトなフィット感を生み出しています。襟もかなり太くワイルド。肩幅はタイトで袖幅もきゅっとしている。そして丈が長めなのは、企画した当時はTシャツをズボンから出して着る人はほとんどいなかったからです。インして着るものだったので」

――ピチピチのTシャツということですね。

久米「1963年からスタートした『セイ・ヤング』ですが、当時はこのようなタイトなTシャツを着て、髪を立てて、革ジャンを着るのが主流のスタイリングでした。最近では女性の方がゆったりめのカーゴパンツにこの『セイ・ヤング』を着るというスタイルもよく見かけます。好き嫌いが大きく分かれる製品ではありますが、ぜひお試しいただきたいですね。リピーターのお客様も多く、流行り廃りを超越したロングセラーの1枚ですので」

ものづくりの話から久米繊維のTシャツのこだわりの話までたくさんのお話をお伺いしましたが、実は久米繊維のTシャツを語る上で「コラボレーション」は欠かせません。次回からは久米繊維のコラボTシャツを各開発者の方々に尋ねていきたいと思います。キーワードは「日本の伝統」です。お楽しみに。

<目次>
第1回 最初で最後の国産Tシャツ、はじまりの下町へ(10月22日公開)

第2回 究極のTシャツ――色丸首を語る(前編)(10月22日公開)

第3回 究極のTシャツ――色丸首を語る(後編)(10月23日公開)

第4回 表現者を”着る”ということ――「北斎プロジェクト」(10月24日公開)

第5回 Tシャツを着て飲む酒は「ヤレタノシ ヤレウマシ」 ――日本酒Tシャツ『蔵印』(10月25日公開)

第6回 久米繊維がTシャツを作り続ける理由(10月26日公開)

第7回 ファクトリーショップへようこそ!(10月29日公開)