《KIDILL 2022年春夏コレクション》デザイナー末安弘明インタビュー

6月下旬、東京・赤坂の草月会館内にあるイサム・ノグチが手掛けた石庭「天国」でKIDILL2022年春夏コレクションが発表された。

TEXT: Kawakami Hisako
PHOTOGRAPHY: Ko Tsuchiya

今季のテーマは“Innocence(純粋性)”。

幻想のなかの少女をグロテスクかつアナーキーに描く作風で知られるイギリス出身の画家トレヴァー・ブラウンとのコラボレーションや、アンダーグラウンドな世界からアイドルのMVの演出まで幅広く活動するプロ緊縛師のHajime Kinoko氏が参加した2022年春夏コレクション。デザイナーの末安弘明氏にコレクションに込めた思いを訊いた。

トレヴァー・ブラウンとの出会い

—— 今回のコレクションの構想はどこから始まったのでしょう。

「元々、トレヴァー・ブラウンの作品がすごく好きで、何か一緒にやれたらいいなと思っていました。とはいえイギリスの方だし、ダメ元で連絡してみたらOKが出て。今は日本に住んでいるようなんですけど、とても繊細な方で、その後のやり取りもすべてメールでした」

—— コレクションを実現させるまでに、具体的にはどのようなやり取りがありましたか。

「彼が80年代から90年代にかけて描いていた作品は、アナログな手法でハードコアパンクやゴスの要素を感じるものが多く、それらを使わせてほしいとお願いしました。最初の画集を出版した頃のものです。 彼の作品は当時から色々なマガジンに掲載されていますが、貴重な初期作品やプライベート作品から選んで使わせていただくことができました。作品のレイアウトも自由にしていいということだったので、いくつかの作品の要素を再構成してテキスタイルを作ったりもしています」

—— スタイリングについて、緊縛師のHajime Kinokoさんを起用したのはどういった経緯だったのでしょうか。

「フィジカルでショーをやるなら、一般的なランウェイ形式とは全く違うやり方を模索していました。会場を都内にある全館SM様式のラブホテルにしようかと思っていたくらいです。結果的にはその案はなくなったのですが、いろいろ調べていく中で、Hajimeさんとトレヴァーも以前から親交があったことを知り、Hajimeさんがコレクションに協力してくれたらショーとしてのクオリティーが上がって、深みが増すだろうなと思いました。コロナの影響もあって今回も東京からの配信となりましたが、東京でしか絶対に成しえない内容でフィジカルショーがやれたと実感してます」

コラボレーションによって生まれる爆発力

—— トレヴァー・ブラウンやHajime Kinokoさんの他に、ショーには日本のノイズミュージックの草分け的存在である“非常階段”のJUNKOさんがパフォーマンスで参加されています。こうした他のアーティストとのコラボレーションについては、どのような意識で取り組まれていますか。

「自分と考え方は近しいけれど、ジャンルや表現の仕方が違う人たちと一緒にコレクションを作ることで、自分一人では実現できないような爆発力が生まれることをここ数シーズンで実感しました。三年前はTHE DAMNEDをテーマにしたコレクションをしましたが、KIDILLというブランドの根底にはそもそもパンクカルチャーをテーマにしていることもあり、THE DAMNEDという切り口には驚きがなく、今それをやってしまうと、むしろ安定感が出てしまうように感じています。そうやって同じ方向に振り切るよりも、全く違うジャンルの人と一緒にやった方がどうなるのかわからないという面白さがある。似たような人達だけで固まっていたら、想定内で終わってしまう気がするんです。服を作って、ファッションショーをして、展示会をやって……売上も大体見えてくる。それよりも、自分でも結果がわからない方向に進みたいんですよね。自分が想像してるものを超えてくるほうが面白いし、不安定な部分もひっくるめて生きる楽しさを感じます」

—— とはいえこのコロナ禍の中、先の読めないことを仕掛けるのは賭けではありませんか。

「もちろんただ闇雲に進むのではなく、売れ行きとコレクションのバランスに関してはバイヤーさんの意見も大事にしています。ブランドを継続していくには売上の数字も重要なので。自分でも『こんな服、一体誰が着るんだろう?』と思う時もありますけど、そういう服に限って他のブランドにはないものを探しているショップは面白がって買ってくれたりする。強さのある服を探しているバイヤーさんが世界中に多くいると思います。 今のスタンスにマインドセットしてから売り上げも上がってきている。服を作る上で、素材の良さや縫製だけ上手な服にならないように、一番気をつけています。ファッションは個性や生き方そのものであるからこそ、デザイナーとして意志が詰まった強い服を作りたいと思っています。所謂、世間一般でいうような普通の服というのは、僕が作る役目ではないかもしれませんし、僕自身が胸躍るようなことに情熱を注ぎたいです」

自分自身の中の“純粋性”を追求して

—— 今回のショーのタイトルである “Innocence(純粋性)”について聞かせてください。

「毎回、ショーに使う服のサンプルを工場に出して、全ての準備を終わらせてからタイトルを決めるんです。『これって何だったんだろう?』と考えながら。ブランドを始めてからずっとパンクという文脈に沿うような服を作り続けているけれど、最近はパンクという概念そのものよりも、『自分にとってパンクとは何か』ということを考えています。昔は他のブランドのことも意識していましたけど、今は気にならなくなりましたね。自分自身を追求し、自分にとっての純粋さとは何だろうと考えていく中で出来上がったのが今回のコレクションです。Twitterを見ていたら、『この“イノセンス”というのは空間のことなのか、何のメタファーなのでしょうか?』とツイートしている人がいたんですけど、そうではなくて、これは自分のことを表しているんです。自分が自分でありたいと思う、純粋な気持ちの表れなんです。それに、これは自分が勝手に思っているんですけど、今回参加してくださったアーティストの方々も同じ気持ちなんじゃないかと。みんなから “Innocence(純粋性)”を強く感じました。つまり、それらの結果として生まれたタイトルなんだと思います」

 

《末安弘明  プロフィール》
2014年の秋冬シーズンよりKIDILLをスタート。2021年の秋冬からパリ・メンズ・ファッションウィークに参加。2022年の春夏コレクションはコロナの影響もあり、映像配信という形でパリ・メンズ・ファッションウィークへの参加となった。