Foxfire True to nature Vol.4 やまとけいこ

自然に挑むのではなく、自然と共に生き、
自然に対して真摯であること。
表現者は自然の声に耳を傾け、生きる知恵を学ぶ。
北アルプス奥地の山小屋、薬師沢小屋で働きながら、
黒部の大自然を舞台に絵を描くやまとけいこに話を訊いた。

Foxfire True to nature  Vol.4 やまとけいこ
やまとけいこ 74年生まれ。武蔵野美術大学油絵学科卒業。イラストレーター兼北アルプス薬師沢小屋従業員。東京都山岳連盟・東京YCC所属。イラストレーターとして『ヤマケイJOY』、PHP研究所、JTBなどで作品を発表。 また、2013年からはFoxfireのTシャツデザインも手掛けている。

富山県の山奥、黒部川本流と薬師沢の出合いに私が働いている薬師沢小屋はあります。絶えず川の音が聞こえ、生命力に満ち溢れたこの場所は、毎年夏になると多くの登山客と釣り人で賑わいます。渓流釣りと沢登りが好きだった私は29歳の時にここで働き始め、昨年で13シーズン目を数えました。今ではこの黒部源流の自然と薬師沢小屋が世界で一番好きな場所です。

山小屋の仕事と並行して、イラストレーターと美術造形の仕事もしてきました。山にいる時も、休憩時間になるとスケッチブックを携えて外で絵を描きます。毎年同じ場所で過ごしていても描く題材に困ることはなく、描いているうちに次から次へと表現したいものが浮かびます。描くことは自分にとって呼吸する感覚に近いのかもしれません。日々いろんな人に出会ってお話を聞くことで自分の世界がどんどん豊かになっていき、それも描く原動力になっているのだと思います。

大好きな場所で働きながら絵を描いて、悠々自適に暮らしてきましたが、関わりが強くなるほど当然責任感も増してきます。日本の山小屋は今、多くの問題を抱えています。登山道整備の労働力や荷上げ物資の高騰などによる経営の問題を抱えたまま世代交代の時期に差し掛かり、どの小屋も危機感を募らせています。それに加えて近年は気候の変化も問題となっています。

例えば、黒部では夏が来るのが早まっています。6月下旬の小屋開けの頃には既にイワナが活発に動き回っていますし、冬の訪れも遅くなりました。黒部に限ったことではありません。気温が上がることで野菜が痛みやすくなり、食料の維持管理が困難になるうえ、荷上げするヘリの値段も高騰する一方なので、荷揚げの回数を減らさざるを得ません。これらの問題の改善に私も本腰を入れて取り組むために、今年富山への移住を決めました。私に何ができるかはまだわかりませんが、行ってみないと見えてこないのも事実です。

やまとけいこイラストレーション
イラストレーション:やまとけいこ

山を楽しむ一人一人の意識が変わっていくことも改善への近道だと思います。登山道にゴミが落ちていたら拾って歩いたり、登山道整備のボランティア活動に参加してみたりと、いつも楽しませてもらっている山に恩返ししようという考え方が広まっていき、そういった考えも含めて登山文化と呼ばれるようになったらいいですね。

昨年『黒部源流山小屋暮らし』(山と渓谷社)という本を出版させてもらいました。この本には、薬師沢小屋での生活を綴った私の体験だけでなく、黒部源流の歴史や山小屋が抱える問題についても触れています。山の歴史を築いてきた先人たちや山に関わるみんなの本にしたいという思いがあったからです。昨年は本を読んで実際に薬師沢に来てくれる人も多かったので、山を降りてから富山県内の公立小学校に寄贈しました。今の私があるのは子どもの頃の自然体験のおかげだと思っているので、親子で一緒に読んでもらえるようにイラストを多く添えています。いつか子どもたちが薬師沢に来て、身近にこんなに素晴らしい自然があることを知ってもらえたら嬉しいです。

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本稿を収録した「Coyote No.70 特集 冒険のその先へ 南極大陸横断紀行1990」はこちら