Foxfire True to nature Vol.9 奥山淳志

自然に挑むのではなく、自然と共に生き、
自然に対して真摯であること。
表現者は自然の声に耳を傾け、生きる知恵を学ぶ。
北国の人々の暮らしを定点観測するように見つめ、
記録と記憶を紡ぐ写真家・奥山淳志に話を訊いた。

奥山淳志 72年大阪生まれ。東京で出版社に勤務した後、98年、岩手県雫石に移住して写真活動を開始。北東北の風土や文化を発表するほか、フォトドキュメンタリー作品の制作を積極的に行う。著作に弁造さんとの日々の記憶を綴った『庭とエスキース』、『動物たちの家』(みすず書房)などがある。

構成=Coyote編集部

僕は岩手県の雫石というところに住んでいます。宮沢賢治の童話の舞台を訪ね歩いた時に、箱庭のように美しい景観に魅せられて住んでみたいと思ったんです。

岩手は東北の中でもとりわけ自然が厳しい土地で、度々大凶作に見舞われてきました。そんな厳しい時代を生きてきた人たちの佇まいというのは凄まじい迫力があって、いつしか人の暮らしの方へと意識が向くようになり、ちょうどその頃に弁造さんというおじいさんと出会いました。人間を撮るということの奥深さを、僕は弁造さんから教わった気がします。

Foxfire True to nature  Vol.9 奥山淳志

Photographs by Okuyama Atsushi

弁造さんは北海道で土地を切り拓いて自給自足の暮らしをされていて、毎年季節が巡る度に彼に会いに行くことが自分の生活のリズムになっていました。彼が亡くなるまでの14年間、ただ撮っていた。亡くなって初めて写真を見返してみたんです。こういう弁造さんもいたなと忘れていた記憶を写真が呼び覚ましてくれ、人の記憶はあてにならないことを思い知らされました。でも写真ってすべての出来事を記録できるわけでもないし、日常の中ではちょっと特別な行為とも言えますが、時間が経って写真を見返してみると、誰が何を見つめていたのかが際立ってくる。なぜ撮らずにはいられないのか、なぜ自分の気持ちが動いたのか、写真を通じて気づく不思議に魅了されます。

かつて弁造さんが暮らした丸太小屋の跡地を今も訪ねることがあります。弁造さんは「死んだら無になるだけ」とずっと言っていたのですが、その言葉どおり、ここに人が暮らしていたなんて想像できないほど見事に自然に飲み込まれていました。自然は人間に無関心だし、人間のほうが自然に合わせるしかない。弁造さんはそれをわかっている人でした。そんな姿に僕は惹かれていたのかもしれない。現代社会ではそのことをつい忘れがちだから、雪を理不尽に感じて悪態をついたりする。

Foxfire True to nature  Vol.9 奥山淳志

一方で、自然は気持ちのいい時間や恵みを与えてくれもします。例えば秋田のハタハタ漁。普段は深い海底に棲むハタハタは、冬の海が荒れた日の夜に一斉に沿岸に押し寄せて産卵するんです。その時期が近づくと村中が皆そわそわし始める。車椅子に乗ったおばあさんが、吹雪の夜にわざわざ海の様子を確かめに来ている姿を見たことがあります。僕の目には、自然の恵みが訪れるのを待ち続ける太古の人間の姿に映りました。鮭もそうですが、ある日突然、見たことのない魚が群れをなして現れ、大量の食べ物を与えてくれる。まさにギフトですよね。

東北に住んで10年ほど経って、自然と人の関わりという観点から東北の祭礼の世界を訪ね歩くようになりました。死者も成長していくものとして故人に見立てた人形を祀ったり、死後の理想の暮らしを描いた絵馬を奉納するなど、地域ごとに独特の死生観があるんです。なぜこんな祭礼が生まれて継承されているんだろうと気になってはいたのですが、東北で生きている実感がわいてくるにつれてようやくその見方がわかってきました。今後も祭礼という視点をはじめとした人の暮らしから、東北の今と未来を見つめていきたいです。

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