《beautiful people 2021年秋冬コレクション》
デザイナー熊切秀典インタビュー

beautiful peopleの2021年秋冬のコレクションは、上下を逆転させると異なるシルエットに生まれ変わる「ダブルエンド(double-end)=両頭使い」の手法をアップデートさせ、“SELF LOVE(自分を愛する)”をテーマに据えた。世界的なパンデミックの影響もあり、パリで行っていたフィジカルなコレクション発表の場を東京に移した今回。デザイナーの熊切秀典に話を訊いた。

相反する感情を肯定する

—— 今回のコレクションの “SELF LOVE”というテーマはどのようにして決まったのでしょうか。

「服を身体にあてがってスタイリングを考える時、人は必ず鏡を見ますよね。コロナの影響で手洗いやうがいをする回数が増えたり、家のなかで過ごす時間が長くなったことで、じっくりと鏡を見る機会も増えているそうです。そうやって文字通り『自分を見つめ直す』ことが多くなった今、自分を愛するという意味の “SELF LOVE”というテーマが重要だと感じました」

 
—— “SELF LOVE”というと一見ポジティブな印象を抱きがちですが、パリのデジタルショーで発表された映像からはダークな一面も垣間見えますね。

「そうですね。ブランドを始めた当初から、『優れた知性とは二つの対立する概念を同時に抱きながら、その機能を充分に発揮していくことができる』という、村上春樹さんの小説『風の歌を聴け』の一文を理念として掲げています。誰もが一日の中で自分のことが好きになったり、嫌いになったり、矛盾した感情が駆け巡ることがあると思うんです。そうした感情のどちらかを隠したり否定したりするのではなく、両方とも肯定したいという思いがありました」

—— メンズとレディースで服のデザインを分けることなく、一着の服を上下逆転させることで異なるスタイリングの方法を提示していたのが印象的でした。

「様々な境界線をなくしていくということがブランドのひとつの目標になっています。例えば、メインアイテムに据えたダブルエンドシャツは、普通に吊るせば三角襟のレギュラータイですが、逆転させると襟の形がアスコットタイというクラシックな様式に変わります。アスコットタイは本来男性の礼服に使われる襟の形ですが、小柄な方や女性が着ることで全体のシルエットが変化し、フェミニンでかわいらしい印象のシャツになります。そのように、メンズとレディースどちらが着用してもそれぞれのボディラインにあった良さが引き出される服作りを目指しています。もちろん、境界をなくすといっても男性と女性では骨格のバランスも違えば、ボリュームが出る部位も変わってくるので、それは容易なことではありません。それでも、その違いを楽しみながらパターンの引き方を工夫することで男女の境界を超えたフラットな服が作れるんじゃないかと思っています」

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バッハの旋律から導かれた独自のパターン技術

—— ダブルエンドシャツのお話が出てきたのでお訊きしたいのですが、メインアイコンにピアニストのグレン・グールドのポートレイトを使用したのはなぜでしょうか。

「先程、ブランド理念についてお話しした際に引用した村上春樹さんの小説『風の歌を聴け』で、主人公がグレン・グールドのレコードを買うシーンがあるんです。僕自身、音楽をやっていたこともあり、グールドの音楽性や自由な演奏法に惹かれるものがありました。そうしたなかで、彼のポートレイトを使わせていただけるチャンスがあり、コレクションを象徴するアイコンとして使わせていただくことになりました」

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—— 音楽を嗜まれていたとのことですが、ご自身でバンドを組まれていたんですよね。

「そうですね。十代でバンドを組んでギターを始めたんですが、それ以前はバイオリンを習っていました。幼少期からクラシック音楽が身近にある環境だったので、グールドがレパートリーとしていたバッハにも親しみを感じています。バッハは一曲の中に複数の旋律を調和させる対位法という音楽理論を用いた楽曲を多く生み出しています。beautiful peopleの服にもこの対位法の考え方を取り入れていて、一着のなかに複数のボディラインを調和させています。そのため、上下を逆転させてもシルエットが美しく際立つのです」

東京でショーを行うということ

—— 例年はパリでコレクションを発表していらっしゃいますが、今回東京でショーを行ったことでなにか感じたことはありますか。

「東京でショーを行うことの一番の魅力は、ショーを観てくださった方々の感想が直に日本語で聞こえてくることだと思います。もうひとつ面白いと感じたのは、普段の生活の延長線上にコレクションの発表があることでした。パリコレは日本から大人数のスタッフを引き連れて、合宿をしながらショーを作り上げていくので、祝祭のような高揚感があるんです。ですが、東京でのショーは自宅から仕事場へ淡々と通う日々のなか、当日まで少しずつ積み上げていくような感覚でした。どちらにも違った魅力があると思うので、今後はパリと東京の両方でショーができたらいいなと思っています」

熊切秀典 1974年神奈川県生まれ。「コム デ ギャルソン(COMME des GARÇONS)」でパタンナーとしての経験を積んだ後、2007年の春夏シーズンよりbeautiful peopleをスタートさせる。2017-2018年秋冬からパリコレクションに参加。