インタビュー、紀行文、出会った人々。
 
SWITCH・Coyote編集長 新井敏記が
 
一つひとつ綴っていきます。

 

2019.11.20 路傍の石

ピーター・バラカンの主宰する“Live Magic”が、今年で6年目を迎えた。

「毎年、どんな顔ぶれが揃うのか、わくわくしながら準備を進めています。5年間続けてある程度フェスとしての認知度も高まり、国内外のミュージシャンから出演したいという連絡をいただくようになりました。紹介したいアーティストが多いのが嬉しい悩みです、毎回、長年地道に活動を続けているミュージシャンも、ぼく自身も初めて知るミュージシャンも、みんな感激するような素晴らしい演奏を繰り広げてくれます」

自分が面白いと思う世界各地のミュージシャンを東京に招聘する誇りをバラカンはこう言った。

今年の“Live Magic”は宮古古謡を唄う與那城美和とコントラバス奏者の松永誠剛が“Myahk Song Book – Tinbow Ensemble”として参加した。“Live Magic”前日に二人はレイニーデイでライブを行なった。アンコールで「なりやまあやぐ」を歌ったのは、スイッチのスタッフであった。以前彼女のライブでその唄を聴いた彼は、ひそかに練習を重ね、年に一度の宮古島で行われる全島「なりやまあやぐ」大会に出場したのだ(その顛末記は「Coyote」3月号に掲載する)。彼の唄にあたたかな拍手が起こった。でもそれだけでは寂しいと與那城美和が古謡にのり独唱で「なりやまあやぐ」を唄った。なりやまとは成り立ちを言う。あやぐとは謡のこと、沖縄本島の「てぃんさぐぬ花」、石垣島の「デンサー節」と並ぶ宮古古謡の教訓唄だ。與那城美和の唄声は、流星を見るように美しい世界だった。

本公演の2日後、エキストラ公演として沖縄で初めて“Live Magic”が開催され、與那城美和、松永誠剛を軸にイスラエルのソウルシンガー、J.Lamotta・すずめが参加していた。ここでも與那城美和は「なりやまあやぐ」を唄った。

—— すべての世の道理、物事の成り立ちを大切な教えとして心を染めてください ——

静かに語るように與那城美和はまずこの節を唄う。

慣れている山だからといって、すべてを承知していると思ってはいけない。何度も登った山だからといって、おごってはいけない。自分は何でもわかっている神様だと思ってはいけない。馬に乗るときはきちんと手綱をしっかり持っていなければいけない。

與那城美和は切々と唄いあげていく。松永は美和の心を揺らすように、彼女の母が好きでよく唄い聴かせていたという「この道」の一節を同じ節回しで弾く。

「この道はいつか来た道、おかあさまと馬車で行ったよ」

母から娘へ、教えを旅するように唄がある。山の稜線を行くような道、その傍に命の重さの石を置く。

スイッチ編集長 新井敏記