インタビュー、紀行文、出会った人々。
 
SWITCH・Coyote編集長 新井敏記が
 
一つひとつ綴っていきます。

 

2020.1.20 涙が乾く前に

写真家が被写体をファインダー越しに見つめ涙を流す。その涙が悔しさではなく心からの感動の発露であるならなお素敵なことだ。

蓮井幹生、写真家。1995年にアルバム『DELICIOUS』のジャケットを彼が撮影した縁で、スイッチではDREAM COME TRUEを特集する機会を得た。当時の彼女たちは300万枚ものアルバムセールスを誇る、まさにモンスターバンドだった。それ以降、スイッチはDREAM COME TRUEの特集を何度も敢行していった。昨年2019年はデビュー30周年記念ということもあり、二人にとっての念願だったニューオーリンズで撮影取材を実施した。最終日、取材も終わり一軒のジャズバーに行った。サラ・ボーンを真似た若い女性シンガーのステージに立っていたのはまさに若かりし頃の吉田美和そのもののようで、かつての自分を重ねるようにじっと彼女は耳を傾けていた。その清冽な表情を蓮井は逃さなかった。そしてこう言った。

「この一枚が撮りたかったんだ」

そういうと蓮井は涙声になった。「自然と涙が出てきた」と照れたように微笑んだ。蓮井の涙を25年前に見たことがある。義弟であるレーサー関谷正徳のマクラーレン・F1GTRでのル・マン24時間レース優勝のゴールの際の涙だった。24時間で4,055キロ、日本人初の総合優勝という快挙であり、蓮井はゴールの際に涙した。その記録は『漆黒の59』という写真集にくわしい。その関谷がまた新しいレースへの挑戦をしているという。ワンメイクレース「インタープロト・シリーズ」を主宰している関谷にインタビューをした。話はル・マンに遡った。

「優勝の感動は今でも忘れられない、蓮井さんも涙した」

僕が言った。

「兄貴の涙はたしか、ゴールの時にマシン前輪に足を踏まれたからでしょう」

そう関谷が言うと、間髪置かず蓮井が言った。

「そう、あれは涙が出るほど痛い」

そしてなりより至福な時だった。

スイッチ編集長 新井敏記