インタビュー、紀行文、出会った人々。
 
SWITCH・Coyote編集長 新井敏記が
 
一つひとつ綴っていきます。

 

2022.4.20 ぼくは植草甚一さんが好き

写真家の荒木経惟さんが蔵書一式とポスター類などを寄贈したという福岡県の九州産業大学を訪ねた。管理は芸術学部教授大日方欣一さんが行っている。九州産業大学は荒木さんを師事 している写真家野村佐紀子さんの出身校というご縁で荒木さんの蔵書を引き受けることになったと聞く。

大日方研究室の一室には積み上げられた段ボールが未整理のままあった。大日方さんの好意で段ボールの中を見せていただいた。荒木さんのアトリエの本棚に並べられていた本がそのままの状態で収められており、荒木さん自身が読書のために購入した数々の本は荒木写真術を物語る貴重な資料だ。映画関係の本、写真関係の本、そして文学関係の本と、荒木経惟を作った世界をそのままの形として伺い知ることができる。

映画関係では小津安二郎や川島雄三、ゴダール、トリフォー、ブニュエルなどヌーベルバーグ関連の書籍、メカス、フランクなどの著作やドキュメントが数多くあった。写真関係はアジェ、ブラッサイ、マン・レイなどとともに、上野英信監修の 『写真万葉録』の筑豊全10巻が目にとまった。荒木さんのデビュー写真集『さっちん』にもつながる市井の人々への眼差しを秘めた内容だ。文学の幅は広く、明治の永井荷風や樋口一葉はもとより谷川俊太郎から吉増剛造などの現代詩、川上弘美といった現代文学まで、多岐に渡っていた。中でも植草甚一は特に荒木さんのお気に入りだったようで、スクラップブック全集のほとんどが揃っていた。孤独を貫いた人だった植草甚一に、荒木さんは何を見ていたのか、そして何に魅かれていたのか、今度訊ねてみたいと思った。

吉原の遊女や性病等の関連本のページを開いてみる。大事な箇所に赤鉛筆で線が引かれている。なんだか必死に試験勉強をしているような荒木さんがおかしかった。まさに荒木奇譚がここにあると思った。

「貴重な蔵書です。私は澁澤龍彦さんの図録のように、作家の創作過程がわかるようなものの刊行を目指したいと思っています」

3年後の図録刊行を目指し大日方さんの健闘ははじまったばかりだ。

スイッチ編集長 新井敏記