北村道子×池松壮亮 ファッションと身体論 SWITCH Vol.34 No.7

LESSON ファッションと身体論
TEACHER 北村道子 STUDENT 池松壮亮



『それから』、『殺し屋1』、『メゾン・ド・ヒミコ』など、数々の映画衣裳をはじめ、雑誌・広告・MVなど様々な領域で衣裳デザイン・スタイリングを手掛けてきた北村道子。その北村が、現在25歳、若手実力派としてオファーが絶えない俳優、池松壮亮に実践スタイルでファッションと身体についてのレクチャーを行った


PART3
鏡の前で服を自覚させる
北村道子の着せ方の流儀

北村
今日、あなたの佇まいはものすごく美しかった。それは洋服がそうさせているんです。不思議なんです、洋服の力って。洋服は実に面白い。例えば、シャツを着せる時、私が背中のところをちょっと留めたでしょう。あれも同じなんです。
池松
初めての体験でした。他のスタイリストさんにはやられたことがない。あれは何をしていたんですか?
北村
背幅を調節してネックサイズ(首まわり)を合わせていたんです。メンズの場合はネックサイズが重要。シャツがあなたのネックサイズに合っていなかった。それを背幅でアジャストしたんです。服のパターンというのはそうやってできている。シャツの背中に必ず線が一本横に入っているじゃないですか。それが背幅。そこをつまんで留めることによって、一センチドロップダウンさせる。そうすることでネックサイズをピタッと合わせる。そうすると喉のところがブレない。

 ただしこれはメンズの場合です。レディースだとまた違うんです。レディースはダウンさせていって、アンダーウェストで絞めるんです。それがよく言う丹田(東洋医学でへその下あたり。気が集まる所とされている)というやつです。
北村道子 池松壮亮

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彫刻をやる時と同じなんですけど、人間の身体の軸は十字架なんです。彫刻家には違うと言われるかもしれないけど、私は基本的に十字架だと思っている。人間が直立して腕を真横に伸ばしたら十字架になるでしょう。ネック、背中、ウェストの縦線と、両腕の先端を結ぶ横線。詳しくはジャコメッティの本を読んで欲しいんですけど、彫刻を作る時の根幹にある軸がこの十字架です。これが人体。

だからキリストの磔は永久に不滅なんです。宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』にも十字架が出てきます。服を着せる時にはこの軸を意識するといいんです。これが私なりの身体論。だから服を着てもらう時、まずは鏡で着ているものを自覚してもらうんです。
池松
毎回服を着替える度に、北村さんに鏡の前に立つように言われました。
北村
それで私は黒子のように後ろにまわったでしょう。あなたに自分が服を着た姿を見せることが大事なんです。鏡の前で「ここを留めますよ」と言って背幅を留める。それまで首が緩かったのがフッと締まる。それで私は「呼吸はどうです?」って聞くんです。呼吸が大事だから。あなたが「大丈夫です」と言う。そうやって自分が着ているものを自覚してもらうんです。

 シャツを着てもらう時にはもう一つポイントがあって、必ずシャツの下にTシャツを着てもらったでしょう。それは、服には必ず皺ができるんだけど、その皺が良く見えるということなの。素肌に直接シャツを着ると、皺は皺でしかない。でもTシャツの上に重ねて着ることによって、皺がドレープに見えるんです。後で写真を見てみてください。絶対に皺には見えないから。

※ 掲載内容は 本誌 からの抜粋です

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SWITCH Vol.34 No.7
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