PHOTOGRAPHY & TEXT: TANAKA MIN

僕は地球に、居る。

 この木はどうして今、僕の前に居るのだろうか? なぜなぜ子供の僕には、いつもそこに居る木に友情を感じていたのだろう。大きくても、小さくても、年寄りでも、子供でも、木はいつもそこに居る。僕たちヒトと同じように木もこの世に生まれてくるのだ。

 小さな時から知っていた。森に入り山を歩くと数え切れない木の子供たちが至る所で暮らしている。お父さんお母さんはどこにいるのか? そういえば、神宮の銀杏の並木の大木の足元にたくさんの子供が生えているのを見て、いっぱい撫でてお母さんに抱きついた。自然になれた僕は嬉しかった。原爆で無惨に破壊された広島の土地に幾本かの木が生き残った。今、その木々の子供が世界中に散らばって生きて喋っているのだ。

 僕は40年山の中で暮らしている。土の上、草の木の中の生き物としては、僕は絶対少数のモノだ。木々は友だち、どこに誰が居るのか知っている。木々と僕とは無名の間柄、生き物としてのアイデンティティと尊敬を維持することがルールだ。

 写真の木は「富士桜」。豆桜とも呼ばれる花も木も小さい桜の原種のひとつ。富士山の裾野、本栖湖ちかくで出会った木のサクランボを収穫して村に持ち帰り種子蒔き。あれから10年過ぎただろうか。生まれた時から知っている僕の友だちの木。春には何故か下向きに小さな花をいっぱい咲かせてくれる。移動しない植物が花を咲かせ始めて1億4千万年、なんとも立派な先輩ではないか、自然とは細胞宇宙の風景のことだ。僕は無数の先祖の知恵と共にある。


TANAKA MIN
1945年生まれ、東京都出身。1974年に独自のダンス活動を開始し、1978年のパリ秋芸術祭で海外デビュー。2002年公開の『たそがれ清兵衛』でスクリーンデビューを果たし、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞および新人賞を受賞。映画『PERFECT DAYS』では、平山(役所広司)にしか見えないホームレスの男を演じた

 

☞ 掲載号はこちら

TOP