PHOTOGRAPHY & TEXT: ASO YUMI

そりゃ何も起きないよ

 今回「ともだちの木」という企画をもらいました。まず「ともだちの木」というのは何だ? 木ってともだちか?? というのからスタートして考えました。「……あ、あれは思い出だ」と舞台の稽古中に急に出てきました。稽古終わり地元の児童館に向かい、夜だったもんで暗いんですが、この木が「ともだちの木」です。

 小学校の1年~6年まで学校終わりに児童館に行って漫画を読んだり同級生とキックベースやったりと遊んでたわけですが、多分3年生辺りかな? 映画を観たりし始めるんですよ。そうなっちゃったらもう、自分の中に「主人公」っていう人格が現れ始めちゃって頭の中で妄想が始まるわけです。

「主人公」(僕)が木の上に仰向けになって寝てるわけです。そうすると同級生達が「おーい、何やってんだよ!」「サッカーやろうぜ!」なんてことを言ってくる、僕は面倒くさがりながら起き上がり、木から降りてサッカーをやる、すると上級生がやって来て「お前らどけよ!」なんて言われちゃって、僕ら下級生と上級生の長い長い争いが始まる。

 ハショッてますけど長かったですよ、上級生が現れるまでの「妄想」も。

 そうと決まったらあとは実行するだけ、写真の木に登り左に伸びた幹に背中をのせて寝転がる。「よし、あとはあいつらが来るだけだ」と僕は目をつむる。。1日目誰も来ない、2日目も誰も来ない、3日目今度こそ誰か来るだろ? って期待を胸に……誰も来ない。。僕は結構な時間を木の上で過ごしてました。5日間ぐらい続けたのかな? 結局諦めて止めたんですけど、今考えると「夏休み」でみんな旅行とか家で遊んでたんですね。そりゃ誰も来ないし、何も起きないよ。

「主人公」なムーブをするときっとワクワクドキドキする「何か」が起こると期待していた僕でしたが、どうやら違っていたようです。笑 でも毎日木に登っていたせいか「夏休み明け」みんなで児童館に行った時、木に登るスピードは誰よりも速くなってました。意識してなかったけど今考えるとあの「夏休み」、僕はめっちゃ写真の木とともだちになったんだと思います。恥ずかしくて「同級生」には言ってない話です。


EMOTO TOKIO
1989年生まれ、東京都出身。2005年公開の映画『Jam Films S』のなかの一話「すべり台」でデビュー。2008年には『俺たちに明日はないっス』をはじめ数々の映画で活躍し、第2回松本CINEMAセレクト・アワード最優秀俳優賞を受賞。映画『PERFECT DAYS』では、平山(役所広司)の同僚・タカシ役を演じた

 

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