PHOTOGRAPHY & TEXT: ANDO TAMAE

ともだちのともだち

 出会いは夏だった。もう13年、14年前になるかもしれない。

「どうぞ」と小さな我が子が誰かに声をかけていた。声の先にいたのは、木。厳密に言えば、乾いた木の根っこ。墓参して、桶に余っていた少しのお水を根にかけるときに、「どうぞ」と言っていたのだ。
 柄杓がまだ上手に使えない小さな子が桶から一度に掬い上げる水の量はちょっとで、でも丁寧に、根っこの乾いた部分にお水をあげる。木は、「ありがとう」も「うれしい」も言わないけれど、息子はとっても満足そうに微笑んでいた。
 先にともだちになったのは彼だから、ともだちのともだちか、私にとっては。タモリさんが言ってた「友達の友達はみな友達だ」理論を使うと、私のともだちと言ってもいいかな。

 お花を持って来たのに、すでに花立に立派なお花があることがあって、そんなときは、「誰が来たの? みてたでしょ?」と声に出さずに聞いてみる。「夜は、妖怪の運動会とか、始まるの?」ただ話しかけることが楽しいのだ。
 帰り際、幹に触れながら、つい「よろしく」という言葉が口をついて出る。先祖代々を見守ってくれているような気がしてしまって。いやいや、もうきっとうちのご先祖さんたちは、ずっと前からともだちだったろうね。

 月日は流れて。今では息子は年に2、3回、私は毎月墓参する。ともだちの木は、来るたびに大きくなる男の子をどう思ってるんだろう。もう話しかけたりはしないけれど、忘れずに根っこに水をあげる優しいその子を。


ANDO TAMAE
1976年生まれ、東京都出身。近年の出演に映画『でっちあげ〜殺人教師と呼ばれた男』(6月27日公開)、『ラストマイル』、Eテレ『未病息災を願います〜かしまし3姉弟より〜』(毎月最終日曜日レギュラー放送)などがある。5月28日、初のエッセイ本『とんかつ屋のたまちゃん』(幻冬舎)が発売。映画『PERFECT DAYS』では、トイレ清掃員の佐藤役を演じた

 

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