PHOTOGRAPHY: TAKASAKI NAOMI
TEXT: TAKASAKI TAKUMA

あなたのともだちの木を、教えてください。

 世界中のひとが、ひとりひとつの「ともだちの木」を持つようになったら、今より少しいい世界になったりしないだろうか。歪みあうこの気持ちも、嫉妬するあの心も、怒りに我を忘れる瞬間も、ひょっとしたらあの戦争だって終わるかもしれない。もしかしたらあの大統領だって遠くのひとの痛みがわかるかもしれない。僕がそんなことを言ったら、彼女は小さなため息をついて微笑んだ。「ロマンチストだね」
 ロマンチストって言葉がなんだか悪口のように使われるようになったのはいつからだろう。ひとり勝手に理想を語って自己満足しているっていう意味なら、僕はたしかにいつもわりとそうだからそこは認めるしかない。「ロマンチストですから」といつものようにぶっきらぼうに返す。でもそのあとに彼女がぽつりと、「本当にそうなったらいいね」と言った。僕はちょっと驚いて「ロマンチストじゃん」と笑ってみせた。彼女は僕のことは無視して何かを考えはじめた。

「わたしのともだちの木は、青山のブルーボトルの窓から見えるアレだな」
 そしてわたしのともだちを紹介してあげる、と言った。僕らは予定を変更して青山に行くことにした。他に用事もない土曜日だったからちょうどよかった。「ともだちの木」なんて突然言われてすぐに自分の「ともだちの木」を思い浮かべられるこのひとは、やっぱり素敵なひとだなあと思った。照れくさいので言わなかったけれど。自分から言い出しておいてこの僕はまだ自分の「ともだちの木」を実は決めきれていない。僕がコーヒーを飲みながらそう言うと彼女は「らしいね」と笑う。らしいなと自分でも思う。

 これから、このページを使って、いろんな方たちにそれぞれの「ともだちの木」を紹介してもらうというちょっぴり迷惑な連載をはじめようと思います。依頼がきてすぐに、あの木のことだ、と思うひともいるかもしれないし、どの木にしようと悩むひともいるかもしれません。もしかしたら僕のように必死にともだちを探すひともでてくるかもしれません。でもこのともだち探し、結構いい時間です。僕は東京で暮らしていますがたしかに東京の風景がすこし変わります。歩くスピードもほんのすこし変わります。

 ともだちの木を探す小さな旅は、もしかしたら僕たちの日々を今よりちょっといいものにしてくれるかもしれません。またロマンチストしてしまいました。


TAKASAKI TAKUMA
1969年生まれ。クリエイティブディレクター、小説家。数々の広告キャンペーンを手がけ、JAAAクリエイター・オブ・ザ・イヤーを三度受賞。映画『PERFECT DAYS』では、ヴィム・ヴェンダースとともに共同脚本とプロデュースを担当。著書に小説『オートリバース』、最新刊に絵本『ともだちの木』がある

 

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