橙が実るまで

文 田尻久子 写真 川内倫子

繰り返し聴く
大好きなカルテットのような本。
——谷川俊太郎

熊本「橙書店」の店主・田尻久子の自伝的エッセイに、年来の知友である写真家・川内倫子が自身の撮影した写真で応えていく。雑誌『SWITCH』に掲載されたふたりの3年以上にわたる連載が一冊に。ささやかな個人的記憶を紡ぐ物語がきっとあなたの世界に呼応していく、珠玉の写文集。

刊行日:2022年3月25日
ISBN:978-4-88418-587-9
定価:本体2,970円(税込)


田尻久子(たじり ひさこ)

1969年熊本県生まれ。「橙書店 オレンジ」店主。会社勤めを経て2001年、熊本市内に雑貨と喫茶の店「orange」を開業。2008年、隣の空き店舗を借り増しして「橙書店」を開く。2016年より文芸誌『アルテリ』の発行・責任編集をつとめる。2017年、第39回サントリー地域文化賞受賞。著書に『猫はしっぽでしゃべる』(ナナロク社)、『みぎわに立って』(里山社)、『橙書店にて』(2020年、 熊日出版文化賞/晶文社)がある。


川内倫子(かわうち りんこ)

1972年滋賀県生まれ。2002年に『うたたね』『花火』で第27回木村伊兵衛写真賞受賞。2009年に第25回ICPインフィニティ・アワード芸術部門を受賞するなど、国際的にも高い評価を受け、国内外で数多くの展覧会を行う。主な著作に『Illuminance』(2011年)、『あめつち』(2013年)、『Halo』(2017年)など。近刊に写真集『Des oiseaux』、『Illuminance: The Tenth Anniversary Edition』、『やまなみ』がある。

写真 川内倫子 

全国書店員からの応援コメント


並べてみると響きあい、一つになって入ってくる文章と写真。それはお互いに対する、深い信頼を見るようでもある。こんなふうに世界を見て、静かにそれを表すことができれば素敵だ。好きなところから少しずつ開きたくなる一冊。
読み終えて、思わず抱きしめたくなりました。

Title 辻山良雄


おふたりの手紙のやり取りをこっそり覗き見しているようなすこしのどきどきと、親密な空気のなかに混ぜてもらっているようなおおきな安心感と。
読み終えて、思わず抱きしめたくなりました。

本の栞 田邉栞


数年前に橙書店を訪れたことがある。
窓際に座ってアイスコーヒーを飲んだ。
棚の上に川内さんの写真集が置いてあって、ぺらぺらと眺めた。
田尻さんはカウンターの中で黙々と仕事をしていた。
客は僕一人で、僕と田尻さんの間には数メートルの空白と沈黙があった。
僕もお客さんが来るとカウンターから出ることは滅多にないし、知人であっても「いらっしゃいませ」と言った後は僕から話すこともない。放ったらかしと言っていいのかも知れない。
だからあの沈黙は全く気にならず、居心地が良かった。
場所は人が作るものだから、(あくまでも僕にとっての)良い場所に出会うと、この場所はどういう人が作ったのだろうと考える。
橙が実るまでの田尻さんの記憶を覗き込むことが出来るとは思っていなかった。
本を閉じると、話すことはなくてもまたあの場所に行きたいと思った。

blackbird books 吉川祥一郎


文章と写真のあいだで交わされる、記憶のやりとり。
そのかけらを受け取って、読んでいる私の中にも断片的な場面や感情が次々に浮かんで、消えた。
会えなくて、さみしい。聞きたかったことも、言ってやりたかったこともあるのに。 それでもこうして追憶の旅に出れば、もうここにはいない人と対話をすることだってできるのだ。

ON READING 黒田杏子


家族という傷はみんなにある。
永久にちぐはぐでしっくりこないものだけれど、自分を生かしている光源でもある。
それを認めてくれた本です。

石引パブリック スタッフ 造道理子


同じ本を抱えていても分かり合えない。
その寂しさばかり追いかけていた気がする。
それは読んだ人の数だけ物語が生まれているということだと。
寂しさをキラキラした光に変えてくれた。

蛙軒 肝付奈央子


この本に導かれ、忘れていた幼い頃の記憶があまやかによみがえってくる。
思い出すということのよろこび。

1003 奥村千織


田尻さんの自伝的なエッセイを読んでいるはずなのに、文章と写真とが共鳴し、気づけば自分の記憶が掘り起こされ、連鎖していく。忘れかけていた、蓋をしてしまっていた記憶に向き合い、今を生きている、そんな当たり前の大切さが身に沁みる一冊。

青山ブックセンター本店 山下優

 

私はこんなにも真摯に家族と向き合ったことがあっただろうか。「故郷」という言葉が田尻さんの中で曖昧とあったが、『橙が実るまで』の文章を読んでいると、その時のエピソードが忘れられない土地や場所、時間を大切に振り返っているようでした。自分だったら、こんなに鮮明に思い出せないし向き合えない、と思わされました。

青山ブックセンター本店 青木麻衣


イベント情報

『橙が実るまで』刊行記念 
川内倫子写真展

【2022年3月25日-4月15日】
Rainy Day Bookstore&Cafe

【2022年4月23日-5月12日】
本屋Title

【2022年5月21日-6月3日】
橙書店