岸本佐知子『死ぬまでに行きたい海』PCメイン
岸本佐知子『死ぬまでに行きたい海』SPメイン

文芸誌『MONKEY』創刊から続く人気連載がついに単行本化!

死ぬまでに行きたい海
岸本佐知子


焚火の思い出、猫の行方、不遇な駅、魅かれる山、夏の終わり——
“鬼”がつくほどの出不精を自認する著者が、それでも気になるあれこれに誘われて、気の向くままに出かけて綴った22篇。行く先々で出会う風景と脳裏をよぎる記憶があざやかに交錯する、新しくてどこか懐かしい見聞録


刊行日:2020年12月1日
ISBN:978-4-88418-543-5
定価:本体1,800円+税


岸本佐知子(きしもと さちこ)

翻訳家。訳書にルシア・ベルリン『掃除婦のための手引き書』、リディア・デイヴィス『話の終わり』、ジョージ・ソーンダーズ『十二月の十日』、ミランダ・ジュライ『最初の悪い男』、ショーン・タン『内なる町から来た話』、ジャネット・ウィンターソン『灯台守の話』など多数。編訳書に『変愛小説集』『居心地の悪い部屋』『楽しい夜』など。著書に『なんらかの事情』『ひみつのしつもん』などがある。2007年『ねにもつタイプ』で第23回講談社エッセイ賞を受賞。


この世に生きたすべての人の、言語化も記録もされない、本人すら忘れてしまっているような些細な記憶。そういうものが、その人の退場とともに失われてしまうということが、私には苦しくて仕方がない。どこかの誰かがさっき食べたフライドポテトが美味しかったことも、道端で見た花をきれいだと思ったことも、ぜんぶ宇宙のどこかに保存されていてほしい。—— 「丹波篠山」より


岸本佐知子とつくる“些細な記憶”の地図

『死ぬまでに行きたい海』に綴られた岸本佐知子の足跡を地図に記しました。 この地図に、あなたの“本人すら忘れてしまっているような些細な記憶”も追加しませんか? 世界に一つだけの“些細な記憶”の地図を作りましょう。
応募方法は地図の下をチェック▽

【応募方法】
「さっき食べたフライドポテト」「道端で見た花」のように、記録しなければ忘れてしまいそうな、あなたの“些細な記憶”を募集します。①場所 ②些細な記憶のエピソード(140字程度) ③写真(あれば)の3点を記載してメール、またはTwitterにお寄せください。Twitter投稿の場合は #死ぬまでに行きたい海 をつけるのをお忘れなく。(*採用された投稿は約一週間ほどで地図に反映されます)
Twitterでの応募は / メールでの応募はこちら

全国書店員からの応援コメント


あまり外に出ないことで有名な岸本さんが、思い出の場所や気になる土地に赴き書かれたというだけでもかなり貴重な一冊。
7年という月日の間に綴られた出来事やエピソードは、連載という形でなければ語られることがなかったかと思うとさらにレア度が増します。奇しくも人々が外出を制限せざるを得ない状況にある年にこの本が刊行されるなんて本当に幸運なことだし救いになりました。刊行に関わられた方々すべてに感謝します。

紀伊國屋書店国分寺店 桐生稔也


「地表上のどこか一点」最高です。タイトル、切なく胸が締め付けられる内容、静かな語り口で不思議と心地よい読後感すべてに魅かれました。

都内書店員I


ある土地を踏みしめると、個人的な、かつての記憶がよみがえる。うれしかったこと、恥ずかしかった思い出、それは誰にも侵されることのない、その人だけのものだ。だからこの本は、生きる切実さがあり、うつくしい。
本書で岸本さんは、ある場所の手触りを確かめるため、そこに二回足を運んだ。わたしはそこに〈誠実〉を感じる。どこに行くかではなく、どのようにその場所と関わったのか。そうした抜き差しならない記憶をたくさん抱えながら、岸本さんは今日もテキストのあいだを浮遊する。

書店「Title」店主 辻山良雄


著者の記憶を頼りに綴られた文章が、誰かが見知った海岸へ連れ出してくれる不思議。「海」には、山育ちの私にも懐かしい響きがあって、それこそ、岸本さんが翻訳を手掛けた、ショーン・タン、ミランダ・ジュライ、ミルハウザーらの作品も似た種類の「海」の匂いがする。クラウドに保存された写真は日付の曖昧さすら許してくれないが、本当は「あれは何年前だっけ?」なんてとぼけたい。もっと不便で良いから、血が通った記憶が欲しい。はっきり「誰の」とは言えない、「誰か」のアルバムのような本。

恵文社一乗寺店 鎌田裕樹


何がどういいということを説明できないくらい、みがかれてピカピカになった何か。書店員らしく言うならば“30年後も平積みしてある本”だと思う。

都内書店員H


場所を失う、ということは悲しい。
しかし、描写されることで場所は息を吹き返す。
岸本さんの記憶と自分の記憶は混在してゆき、私の胸をもしめつける。
頁を繰ったら白い頁が現われて、いま読んだのが最後の一行だったと知ったとき、
「あ、さみしい」と思った。

橙書店 田尻久子


『死ぬまでに行きたい海』を読むまでは、いつもの岸本さんの、奇妙で切実でちょっと笑える軽みのあるエッセイを想像していた。

読み始めたら切実さはそのままに、入口も出口もまったく違っていてうろたえた。
そしてどうしようもなく惹きつけられた。
惹きつけられ、うたれたままのわたしは、まだ岸本さんの描いた町の地図の上をさまよっている。そして町をさまようわたしの姿が、いつかこの本のなかで岸本さんの言葉になってしまってもいいと思っている。そんなふうに思えた本ははじめてだ。

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三省堂書店成城店 大塚真祐子


過去の郷愁、未知へのあこがれ、実際の探訪、そして現実を見たからといって消えてしまわない降り積もった空想。これらのないまぜが、本書に漂うさびしさの正体なのかもしれない。すでにすぐ近くにいる人に「あなたがここにいてほしい」とはならない。届かないものに手を伸ばす。それが「恋しい」だ。

いや、正体なんかつきとめなくていいのだ。読んでいると気持ちがしーんとし、やがて心やすらかになってくる。今は「むなしいとか悲しいはだめ。すぐつながろう」が重要視される時代だけど、さびしさがもたらす意外なほどのやすらぎに、身をひたす。そんな22編。おすすめです。

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代官山 蔦屋書店 間室道子