料理家・坂田阿希子 × デザイナー・皆川明「おいしい景色」ロングインタビュー

2019年8月3日(土)J-wave 「RADIO SWITCH」で放送された、料理家・坂田阿希子とデザイナー・皆川明のインタビューの模様をお届けする。

『SWITCH』7月号からはじまった新連載「おいしい景色」。料理家の坂田阿希子と、ミナ ペルホネン デザイナー・皆川明、2人による連載だ。坂田阿希子が料理を作り、その料理に合わせて皆川明が器を選ぶ。2人のコラボレーションによる、料理のある風景と言葉。このユニークな連載はどのようなきっかけで始まったのか。そもそも坂田と皆川の最初の出会いはどのようなものだったのか。そして料理とは。食べることとは。

訊き手:SWITCH編集部・佐藤有莉
写真:日置武晴

「おいしい景色」の出会い

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こんばんは。

坂田
皆川
こんばんは。

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SWITCHで始まった新しい連載「おいしい景色」。この企画は去年皆川さんと坂田さんからお話を受けていたもので、今年の7月号からいよいよ始まりました。すでに取材と撮影は2回ほどおこなっていますが、現場はとても楽しいですよね。

皆川
そうですよね、本当に。坂田さんの料理の手順をずっと見れるのはとても楽しくて、その後に食べられるというのがまたもう一つの楽しみです。

坂田
私はいつも料理の撮影ばかりやっていますが、普段のものとは違って、皆川さんはどんなスタイリングになるかまったくわからないのでいつもすごく楽しいなと思っています。

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今日は、企画の背景や撮影現場の裏話についてもお話を聞いてみたいと思いますが、まずはおふたりの出会いから教えてください。

皆川
京都の料理屋さんに友人たちと一緒に行った時に、初めてお会いしました。その時はちょっと席が離れていて、しっかり話せなかったんですけれども。

——
やはり料理がきっかけだったんですね。

坂田
そうですね。お会いしたのはその時だけど、そこから仲良くさせていただくようになって。

皆川
小旅行のようなものに、一緒に何人かで行くようになったり。共通の友人もたくさんいるので。

——
そんなプライベートでも仲が良いというおふたりですが、この連載の企画というのも、普段のお付き合いの中でアイディアが生まれたものだったんですよね。

坂田
はい。皆川さんのお仲間が集まる会で料理をしてください、という依頼を受けて料理をしたのがきっかけなんですが、その時皆川さんのお持ちになった器が本当に斬新で面白くて。普段の料理の仕事でも器に盛り付けて撮影をしていきますが、皆川さんの器だと自分の料理がまったく違う表情になったというのがものすごく印象深くて。器と料理の関係みたいなものに、改めて衝撃を受けたという感じでしたね。

皆川
僕らの会社の保養所で、ごはんを作ってみんなで食べる会だったのですが、坂田さんがどんどんお料理を作ってくださるので、僕は器を出して盛り付けたりしていました。その様子を坂田さんが面白がってくれて、いわゆるいつもの料理のスタイリングとは違う感じで盛りつけるということの面白さをぜひ特集してみたいというふうにお互いに話をして、それでスイッチさんに企画をお持ちしたというのが経緯です。

坂田
皆川さんに「すごい面白いですね、この器に盛るんですか?」って私が尋ねると、「これは〇〇〇で出会った作家さんが、失敗したと言って譲ってもらったお皿なんだけど……」とか、そのストーリーもまた面白くて。そういうことを紐解いていくことって、普段の私の仕事の中ではなかなかないんです。「もともと器じゃないんだけど器として使ってみた」とか、「壁掛けだけどこれに盛ってみたら?」とか、そういう発想はなかなか出会わないので、すごく新鮮というか、初めての体験だったんですね。

器と物語

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撮影現場では魔法のような皆川さんのスタイリングが毎回繰り広げられています。第1回目の撮影は先ほどもお話にありました、長野にあるミナ ペルホネンの保養所でおこないました。その時のメニューは、「牛スネ肉のビーフカレー」、「うれしくなるたまごサンド」それから「極太ナポリタン」の3品。坂田さんの定番メニューです。これに合わせた皆川さんの器もユニークなものばかりで、たとえば「古いFranceの肉皿」というのがありましたが、これはどこで出会ったものなんですか。

皆川
盛岡に工芸や民芸の器を扱っている光原社というとても素敵な器のお店があるのですが、そこで見つけました。とても大きくて立派なお皿で購入には結局1年間迷って。ただ、ある日「今日あったら購入してみよう」と思ってお店に行った時にまだ残っていたので、買うことにしました。もともとは目白にある「古道具坂田」さんがお持ちだったものを光原社さんがお預かりしていたもののようです。舟形をした19世紀のもので、当時はきっとガスや電気ではなくて直火に当てられていたと思いますが、何度も火にかけられて、ずっと愛着をもって使われたのであろう痕跡がたくさん残っていた。そういうものを実際に今も使ってみたいなと思って、今回の企画で使いました。

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器一つひとつにある、皆川さんが器を決めて買われるまでのストーリーがすごく面白いですよね。

皆川
形が美しいってことよりも、背景が想像できるというか、この時間の中に何があったんだろうっていうことを思わせるようなものにとても惹かれますね。

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たまごサンドには、安藤雅信さんの陶板を選んでいただいたんですが、これはもともと壁掛けとして使われていたアートの作品なんですよね。

皆川
そうなんです。多治見の作家で安藤雅信さんという方がいらして、普段は器を作られているんですが、これはもともと壁にかけるためのアートピースの作品として作られたものでした。僕は最初からこれは器に使えるなと思って。少し台の高さがあって、そして色が四角い面積の中に分割されていて、器に盛る時にその色の中でなにか楽しめるんじゃないかと思っていたので、陶板として使ったことはないんです。

坂田
たまごに合っていましたね。

皆川
そうですね。空を映したような色が陶板に描かれているので。

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陶板の器のまわりにもしゃもしゃっと、草? 蔦のようなものがあります。

皆川
庭に生えていた草なんですけど、なんかこれで鳥の巣のような表情が作れそうだなと思って。そこに生まれたばかりの小鳥が戯れているような感じで。普段サンドイッチってきっちりと整然と並べられているような印象ですけど、少しふざけた、遊んでいるような感じでバラバラと置いてみたりして。

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そのスタイリングが本当に自由ですよね。この時面白かったのが「あれ、いないな」と皆川さんの姿を探していたら、お庭の方で……。

坂田
白樺切ってましたよね(笑)。

皆川
坂田さんの料理や、盛りつけるお皿を見ているうちにだんだん景色が広がって、その景色に合いそうなものをどこか身近なところで見つけてきて、その場でアレンジしていくっていう、それはいつもなんとなく料理をしながらやっていることなんです。